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第4章 祭りの前のひと仕事、ふた仕事

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 レティシアはいそいそと、トレーに載った皿をテーブルに広げた。応接用のテーブルにアベルの分と自分の分、一人分ずつをきっちり分けて並べた。

 テーブルの向かいにアベルが座るものと思っていると……アベルはふと思いついたようにテーブルを通り過ぎて、部屋の隅に置いたチェストに向かった。そして、何やら小さな箱を手にして戻って来た。

「気分の悪い思いをさせた詫びだ」

 そう言って、箱をずいと差し出す。

「いえ、私が勝手に憤慨していただけなので……というか、これはいったい……?」
「いいから受け取れ」

 押しつけるように突き出された箱を、レティシアは仕方なく受け取った。アベルの視線が「開けてみろ」と強く言っていたので、おそるおそる開けてみた。

(何かしら……箱自体は新しいものみたい。でも質素な造りだから贈り物とは思えないし……何かの道具?)

 そろそろと木製のその箱の蓋をはずしてみる。すると真っ先に目に映ったのは、きらりと光る真っ青な石。真円を描いている石が、細かなカットによってどの方向から見ても美しく輝きを放つ。その石に銀色のチェーンが繋がっており、ペンダントになっていた。

「こ、これは……?」 
「魔石だ」

 一瞬、何かを期待してしまったことをひどく悔やんだ。

(そりゃあそうよね。この方が、女性に宝石を贈るなんてまずあり得ないわ……)

 がっかりした心情を必死に押し隠して、レティシアは笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます。大切にしますね」
「……使う機会があるかは分からないがな」
「そういえば、これには何の術がかけられているんですか?」
「……さぁな」
「さぁって、何ですか」

 アベルは何故か、答えずにぷいっと顔を背けた。

「教えて下さらないときちんと活かせないじゃありませんか」
「……いざという時の『お守り』だと思っておけばいい」
「だから、どういう効果が?」

 アベルは、今度こそ口をつぐんでしまった。絶対に目を合わせないように立ち回っている。

 だが、不思議と怒っている気配はない。

「受け取ったなら、いい。さっさと食べるぞ」

 そう言って、さっさとテーブルについた。レティシアにも向かいの席につくよう手で示している。

 レティシアは、さっと向かいに回り込んで、アベルの顔を覗き込んだ。

「怒って……はいないんですね? ありがとうございます」
「……物をやって怒る人間がいるのか」
「いえ。ありがとうございます」
「ああ」

 ぶっきらぼうにそう言うと、アベルはパンにかじりついた。普段ならちぎって食べているのだが……何やら心境の変化があったらしい。

「その……以前、孤児院に繋ぎをとれるかと聞いたら、とれると言ったな」
「え? はい。院長が替わったとも聞きませんし」
「なら、明日あたり、行ってきてくれないか。その大司教の菜園について、聞いてみたい」
「はぁ……わかりました。でも王都の畑のことならヴィンセントさんに聞けばいいのでは?」
「……色々な話が聞きたいんだ。農夫以外からも、な」
「はぁ……なるほど」

 相変わらず、アベルの考えの底は知れない。だが短い言葉の中に、何か潜んでいるものがあることはわかった。

 レティシアは、快く頷いたのだった。 
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