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第3章 泥まみれの宝
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ぽつんと、そう言ったのはレティシアだった。それまでの押し問答を止めたその言葉に、皆が注目した。
「あの……このじゃがいも、そもそもの出所は孤児院なのですが、それが実は大司教様が営んでおられるものでして、よく敷地内に畑を作っては、真新しい作物を作っていました。いずれ国内で広めるための試作だということで……その孤児院で作れるのは、大司教様の指示があったものだけだったんです」
「この芋も、その一つだと?」
信じられないといった目で言った。だがレティシアは、こくりと頷いた。
「大司教様は、きちんと有用性を見出しておられたんです。時期を見て、陛下に進言するおつもりだったのではないでしょうか」
「大司教が……? は、はははは!」
アベルは、はじかれたように笑い出した。
そんな笑い方をするアベルは、初めて見た。それは村人たちも同じらしく、戸惑いを浮かべて、アベルの笑いが止むのをじっと待っていた。
渇いた、自嘲すら見える笑いだった。
「アベル様……?」
「お前は……おめでたいな」
「は?」
「だが、そうだな……大司教が……良いことを聞いた。なぁジャン? アラン?」
「ええ、予想以上の収穫です」
「えぇと……はい」
一人遠慮がちなアランを置いて、アベルとジャンが頷き合っている。
「その孤児院、繋ぎは取れるのか? できれば大司教には知られずに」
「は、はい。できます」
「そうか、なら許す」
「え?」
きょとんとした様子のレティシアに、アベルは神妙な声で告げた。
「許すって、何をですか?」
「お前たちがやろうとしていることを、許可する」
「本当ですか?」
アベルはしっかりと頷いた。
「ただし、芋以外の作物も作るからな。そちらも疎かにはできないぞ、わかったか?」
「もちろんですとも」
「あ……ありがとうございます!」
気付けば、レティシア以上にヴィンセントが深々と頭を下げていた。
「あの時……お目こぼしを頂けるよう取り計らって下さっただけじゃなく、恩を仇で返しちまった俺にまでこんな……こんな寛大なお心配りを……」
「気にするな。俺にも利があると踏んだ。それだけだ」
「生きる糧を得るため、そして……あの時の汚名をそそぐために、できる限りのことをやらせてもらいますぜ」
「……ああ、頼む」
アベルはそっと手を差し出した。ヴィンセントはおずおずとそれを握り返す。
アベルは侵入者たち全員と、それらを繰り返した。
侵入者……いや、新たな村の仲間たちは、ぽたぽたと大粒の涙をこぼしながら、肩を震わせて言った。そんな男たちを、険しい目つきで見る者は、もういない。
俯く男の顔を、山間から差し込んで来た光が、照らし出した。
「いつの間にか、朝か……」
アベルがそう呟くと、レティシアがぱんと大きく手を叩いた。
「あの……このじゃがいも、そもそもの出所は孤児院なのですが、それが実は大司教様が営んでおられるものでして、よく敷地内に畑を作っては、真新しい作物を作っていました。いずれ国内で広めるための試作だということで……その孤児院で作れるのは、大司教様の指示があったものだけだったんです」
「この芋も、その一つだと?」
信じられないといった目で言った。だがレティシアは、こくりと頷いた。
「大司教様は、きちんと有用性を見出しておられたんです。時期を見て、陛下に進言するおつもりだったのではないでしょうか」
「大司教が……? は、はははは!」
アベルは、はじかれたように笑い出した。
そんな笑い方をするアベルは、初めて見た。それは村人たちも同じらしく、戸惑いを浮かべて、アベルの笑いが止むのをじっと待っていた。
渇いた、自嘲すら見える笑いだった。
「アベル様……?」
「お前は……おめでたいな」
「は?」
「だが、そうだな……大司教が……良いことを聞いた。なぁジャン? アラン?」
「ええ、予想以上の収穫です」
「えぇと……はい」
一人遠慮がちなアランを置いて、アベルとジャンが頷き合っている。
「その孤児院、繋ぎは取れるのか? できれば大司教には知られずに」
「は、はい。できます」
「そうか、なら許す」
「え?」
きょとんとした様子のレティシアに、アベルは神妙な声で告げた。
「許すって、何をですか?」
「お前たちがやろうとしていることを、許可する」
「本当ですか?」
アベルはしっかりと頷いた。
「ただし、芋以外の作物も作るからな。そちらも疎かにはできないぞ、わかったか?」
「もちろんですとも」
「あ……ありがとうございます!」
気付けば、レティシア以上にヴィンセントが深々と頭を下げていた。
「あの時……お目こぼしを頂けるよう取り計らって下さっただけじゃなく、恩を仇で返しちまった俺にまでこんな……こんな寛大なお心配りを……」
「気にするな。俺にも利があると踏んだ。それだけだ」
「生きる糧を得るため、そして……あの時の汚名をそそぐために、できる限りのことをやらせてもらいますぜ」
「……ああ、頼む」
アベルはそっと手を差し出した。ヴィンセントはおずおずとそれを握り返す。
アベルは侵入者たち全員と、それらを繰り返した。
侵入者……いや、新たな村の仲間たちは、ぽたぽたと大粒の涙をこぼしながら、肩を震わせて言った。そんな男たちを、険しい目つきで見る者は、もういない。
俯く男の顔を、山間から差し込んで来た光が、照らし出した。
「いつの間にか、朝か……」
アベルがそう呟くと、レティシアがぱんと大きく手を叩いた。
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