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第2章 芋聖女と呼ばないで

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 そう言ったのは、昨日魔力を注いだ畑の農夫だ。よく日に焼けたほおを持ち上げて、ニカッと大きく笑っている。

「レティさんのおかげで畑が元気になったし、これから先食うもんが出来たんだ。いっつも食料の残りを気にしてたってのに、なぁ?」
「ああ。こんな風に山みたいに料理作って、皿をテーブル一杯に並べられるなんて夢みたいだよ。レティさんのおかげで出来たんだ」

 村人たちは口々に、レティシアのおかげだと、そう言った。
 その言葉がレティシアの中にあっという間に降り積もり、あふれ出した。嬉しくて嬉しくて、何が何だか分からなくなった。

 そして……

「なんだよ、何で泣いてるんだぁ?」
「へ?」

 そう言われて、ようやく自分の頬を涙が伝っていることに気付いた。

「おいおい、塩味のスープがもっと塩辛くなっちまうぞ」
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくて良いよぉ」

 今度は、笑い声が響いた。ぽろぽろと涙をこぼすレティシアを、温かい笑い声が包み込んだ。

「じゃあ、乾杯といこうか」
「ち、ちょっと待って下さい!」

 叫ぶなり、レティシアはいきなりの制止に戸惑う村人たちの間を通り抜けていった。足を止めたのは、力なく地面に俯いている花たちが並ぶ花壇。

 レティシアはポケットから小さな小瓶を取り出し、蓋を開けた。
 先ほどアベルが言っていた、レティシアの魔力を抽出してできた液体だ。

「まだ、私が元通りにしなくちゃいけない『畑』が、ここにあります」

 レティシアは、目の前の花壇に向けてそっと瓶を傾けた。中からは、空と同じ色をした液体が一雫、ぽたりとこぼれ落ちた。

 それが花びらの上でぽんと跳ねると、葉に、茎に、そして土に、小さな空が降った。
  
 次の瞬間、花壇の”色”が変わった。くすんだ生気のない色から、青々として生命力に満ちた色に。


「これは……!?」

 驚きの声を漏らしたのはアベルだけではなかった。

 レティシアの目の前の花壇、それだけではなく、領主館の庭が一瞬にして一面緑や城や黄色や……色とりどりの鮮やかな彩りに塗り替えられた。
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