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第2章 芋聖女と呼ばないで

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――と思うと、アベルはため息をついただけだった。

「幸か不幸か、昨日は心配するような事態にはなっていない。お前が疲弊していたこと、この地の『恵み』がもともと枯渇しかかっていたこと、あとは……直前までの俺の指導の賜だろうな。一気に領地中の畑が潤うという奇跡的な結果になった」
「奇跡……良かったってことなんですね」
「ありえないほど奇跡的にな。二度とご免だ」
「ごめんなさい……でも、良かった……!」 

 そう言って安堵のため息をもらすレティシアを見て、アベルは呆れていた。だが同時に、ほんの少しだけ、微笑んでいた。

「次からはもう少し、慎重に行動してくれ」
「善処いたします」

 目一杯頭を下げたレティシアに、ふわりと何かが降ってきた。頭に覆い被さる温かな感触には、覚えがある。子供の時には頻繁に、今も、兄が時折してくれる。

「あの、アベル様……?」
「ああ、すまん。よく弟にこうしていたものだから」
「ああ、いえ……謝って頂くようなことは……」

 どうしてか、レティシアはそれから頭を上げ辛くなった。アベルはアベルで手を引っ込めて、顔も背けているというのに。

 二人して奇妙な格好のまま固まっていた。その時――

「えー……ゴホン」

 レオナールの、厳かで大きな咳払いが響いた。

「お二人とも、仲良くおなりになったのは誠に喜ばしい限りです。ですが……そろそろ時間なのでは?」
「ああ、そうだったな」
「……何の時間ですか?」

 レティシアがそう尋ねると、アベルもレオナールも、突然笑った。それまでの大人びた表情とは違う、どこかいたずらを思いついた子供のような笑みだった。

「それは、見てのお楽しみだ」

 そう言うと、アベルは扉を開けて、再び地上へとレティシアを促した。どこへ行くのか、答えないままだ。

 アベルもレオナールも、それについては答える気がないらしい。

 二人に従って階段を上り、長い廊下を歩いて行くと、今度は館の外に出た。広間を抜けて玄関から出た先には、様々な花が咲いていた庭園が広がっている。

 そしてその中央には、昨日にはなかった大きなテーブルがどんと置かれていた。その傍では、石で組まれた大きなかまどがこれまたどんと構えており、その竈の上には同じくらい大きな鍋が置かれ、中ではぐつぐつと何かが煮込まれていた。

 温かな湯気が、ほんのり甘い香りと塩のきいたような香りを運んでくる。

「あ、あれはいったい……!?」
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