30 / 170
第2章 芋聖女と呼ばないで
10
しおりを挟む
「ゆっくり、少しずつだ」
「『ゆっくり』『少しずつ』……」
アベルに言われた言葉を繰り返しながら、レティシアはそっと掌から魔力を放った。昨日は思うさま溢れるまま放出したのだったが、今日は違う。
ジャガイモの二の舞にならないよう、アベルが傍についてしっかり監視していた。
アベルの言うイメージは、大きな器から小さな器を使って少しずつ注ぐというもの。いきなり大きな器から勢いよく注げば、あっという間に零れてしまう。だから『ゆっくり』『少しずつ』なのだ。
畑ごとにそれを繰り返し、レティシア自身も少しだけ要領をつかめてきたように感じていた。だが……
「そう、その調子……この畑はこれぐらいだろう。よし、次だ」
「い、今って……全体のどれくらい回りましたか?」
「ようやく半分といったところだな」
「は、はんぶん……」
愕然として、倒れ込んでしまった。
自ら申し出たこととはいえ、レティシアは休みなく畑を巡り、もうヘトヘトだった。
だが息を切らすレティシアとは対照的に、同じように歩き続けているアベルは息一つ乱していない。初めて出会ったときと同様、涼しげな面持ちでレティシアを見下ろしていた。
「だらしない。こんなにも領地の端々にまで魔力を巡らせたくせに、どうして一つ一つ回るとへたれこむんだ」
「き、昨日は『歩いて移動する』っていう行程がなかったものですから……」
「仕方ない。少し休憩にするか」
「……申し訳ありません」
情けなく思いつつ、レティシアはその場に腰を下ろした。一日中日に当たって焼けてしまいそうな頬を、風が優しく撫でた。
ひんやりとした感触を心地よく感じながら、レティシアは風の流れる先を見つめていた。その先には、これから巡る畑が広がっていた。
そこら中に土を掘り返した跡が残る中、緑の葉っぱが青々と茂っている。花がしぼんで、代わりに別の膨らみが出来かかっている。だがそれ以上の成長を止めていて、葉も茎もどこか元気がない。
突然横入りしてきた芋たちに養分を取られてしまったからだ。
畑の端の方は、さらに元気がなかった。白っぽく変色して、水っぽさがない。もしかすると、芋に養分をとられたことだけが原因ではないかもしれない。
「これは……もとから元気がなかったのでしょうか?」
ぽつりと呟いたレティシアの言葉に、アベルは頷いた。
「まあな。ここは王都から遠いから『恵み』が行き届いているわけではないからな」
初めてこの地を見た時に感じた印象は、間違いではなかったらしい。
「あの……教会はないのですか? 遠方でも、『恵み』を少しでも繋いでもらえれば……」
「最低限しか税を納めていないからな。不信心者の領地など、見向きもされないんだ」
聖女がもたらす『恵み』とは、神からの授かり物と謳ってはいるが、実質は聖女による神聖術を指す。
その魔力を王都を中心として国中に巡らせる役目を教会が担っている。王都から離れて『恵み』を十分に受けられない土地でも、教会が分け与えられた『恵み』を領地に巡るよう計らうこともある。
王都の聖大樹から枝を分け与えられ、その地の教会が根付かせる。そうすることで、王都の聖大樹の『恵み』を繋ぐことが出来る。
ただし、そのような計らいを受けるには教会に寄付をしなければならない。
それは国に納める税とは別のものだ。
「『ゆっくり』『少しずつ』……」
アベルに言われた言葉を繰り返しながら、レティシアはそっと掌から魔力を放った。昨日は思うさま溢れるまま放出したのだったが、今日は違う。
ジャガイモの二の舞にならないよう、アベルが傍についてしっかり監視していた。
アベルの言うイメージは、大きな器から小さな器を使って少しずつ注ぐというもの。いきなり大きな器から勢いよく注げば、あっという間に零れてしまう。だから『ゆっくり』『少しずつ』なのだ。
畑ごとにそれを繰り返し、レティシア自身も少しだけ要領をつかめてきたように感じていた。だが……
「そう、その調子……この畑はこれぐらいだろう。よし、次だ」
「い、今って……全体のどれくらい回りましたか?」
「ようやく半分といったところだな」
「は、はんぶん……」
愕然として、倒れ込んでしまった。
自ら申し出たこととはいえ、レティシアは休みなく畑を巡り、もうヘトヘトだった。
だが息を切らすレティシアとは対照的に、同じように歩き続けているアベルは息一つ乱していない。初めて出会ったときと同様、涼しげな面持ちでレティシアを見下ろしていた。
「だらしない。こんなにも領地の端々にまで魔力を巡らせたくせに、どうして一つ一つ回るとへたれこむんだ」
「き、昨日は『歩いて移動する』っていう行程がなかったものですから……」
「仕方ない。少し休憩にするか」
「……申し訳ありません」
情けなく思いつつ、レティシアはその場に腰を下ろした。一日中日に当たって焼けてしまいそうな頬を、風が優しく撫でた。
ひんやりとした感触を心地よく感じながら、レティシアは風の流れる先を見つめていた。その先には、これから巡る畑が広がっていた。
そこら中に土を掘り返した跡が残る中、緑の葉っぱが青々と茂っている。花がしぼんで、代わりに別の膨らみが出来かかっている。だがそれ以上の成長を止めていて、葉も茎もどこか元気がない。
突然横入りしてきた芋たちに養分を取られてしまったからだ。
畑の端の方は、さらに元気がなかった。白っぽく変色して、水っぽさがない。もしかすると、芋に養分をとられたことだけが原因ではないかもしれない。
「これは……もとから元気がなかったのでしょうか?」
ぽつりと呟いたレティシアの言葉に、アベルは頷いた。
「まあな。ここは王都から遠いから『恵み』が行き届いているわけではないからな」
初めてこの地を見た時に感じた印象は、間違いではなかったらしい。
「あの……教会はないのですか? 遠方でも、『恵み』を少しでも繋いでもらえれば……」
「最低限しか税を納めていないからな。不信心者の領地など、見向きもされないんだ」
聖女がもたらす『恵み』とは、神からの授かり物と謳ってはいるが、実質は聖女による神聖術を指す。
その魔力を王都を中心として国中に巡らせる役目を教会が担っている。王都から離れて『恵み』を十分に受けられない土地でも、教会が分け与えられた『恵み』を領地に巡るよう計らうこともある。
王都の聖大樹から枝を分け与えられ、その地の教会が根付かせる。そうすることで、王都の聖大樹の『恵み』を繋ぐことが出来る。
ただし、そのような計らいを受けるには教会に寄付をしなければならない。
それは国に納める税とは別のものだ。
0
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。
緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。
転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。
餡子・ロ・モティ
ファンタジー
ご連絡!
4巻発売にともない、7/27~28に177話までがレンタル版に切り替え予定です。
無料のWEB版はそれまでにお読みいただければと思います。
日程に余裕なく申し訳ありませんm(__)m
※おかげさまで小説版4巻もまもなく発売(7月末ごろ)! ありがとうございますm(__)m
※コミカライズも絶賛連載中! よろしくどうぞ<(_ _)>
~~~ ~~ ~~~
織宮優乃は、目が覚めると異世界にいた。
なぜか身体は幼女になっているけれど、何気なく出会った神獣には溺愛され、保護してくれた筋肉紳士なおじさん達も親切で気の良い人々だった。
優乃は流れでおじさんたちの部隊で生活することになる。
しかしそのおじさん達、実は複数の国家から騎士爵を賜るような凄腕で。
それどころか、表向きはただの傭兵団の一部隊のはずなのに、実は裏で各国の王室とも直接繋がっているような最強の特殊傭兵部隊だった。
彼らの隊には大国の一級王子たちまでもが御忍びで参加している始末。
おじさん、王子、神獣たち、周囲の人々に溺愛されながらも、波乱万丈な冒険とちょっとおかしな日常を平常心で生きぬいてゆく女性の物語。
光と影の約束
(笑)
恋愛
名門貴族の令嬢エリザベスは、婚約者と親友の裏切りによってすべてを失い、絶望の淵に立たされる。しかし、ある日彼女は神秘的な力と出会い、復讐を誓う。新たな力を手にしたエリザベスは、冷静かつ計画的に裏切った者たちを追い詰め、華麗に舞い戻る。果たして彼女の復讐劇は成功するのか?そして、彼女が選ぶ未来とは──。
【完結】今も昔も、あなただけを愛してる。
刺身
恋愛
「僕はメアリーを愛している。僕としてはキミを愛する余地はない」
アレン・スレド伯爵令息はいくらか申し訳なさそうに、けれどキッパリとそう言った。
寵愛を理由に婚約について考え直すように告げられたナディア・キースは、それを受けてゆっくりと微笑む。
「その必要はございません」とーー。
傍若無人なメアリーとは対照的な性格のナディアは、第二夫人として嫁いだ後も粛々と日々を送る。
そんな関係性は、日を追う毎に次第に変化を見せ始めーー……。
ホットランキング39位!!😱
人気完結にも一瞬20位くらいにいた気がする。幻覚か……?
お気に入りもいいねもエールもめっちゃ励みになります!
皆様に読んで頂いたおかげです!
ありがとうございます……っ!!😭💦💦
読んで頂きありがとうございます!
短編が苦手過ぎて、短く。短く。と念じながら書いておりましたがどんなもんかちょっとわかりません。。。滝汗←
もしよろしければご感想など頂けたら泣いて喜び反省に活かそうと思います……っ!
誤用や誤字報告などもして下さり恐縮です!!勉強になります!!
読んで下さりありがとうございました!!
次作はギャグ要素有りの明るめ短編を目指してみようかと思います。。。
(すみません、長編もちゃんと覚えてます←💦💦)
気が向いたらまたお付き合い頂けますと泣いて喜びます🙇♀️💦💦
この度はありがとうございました🙏
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
聖女として王国を守ってましたが追放されたので、自由を満喫することにしました
ルイス
恋愛
天候操作、守護結界、回復と何でも行える天才聖女エミリー・ブライダルは王国の重要戦力に位置付けられていた。
幼少のことから彼女は軟禁状態で政権掌握の武器としても利用されており、自由な時間などほとんどなかったのだ。そんなある日……
「議会と議論を重ねた結果、貴様の存在は我が王国を根底から覆しかねない。貴様は国外追放だ、エミリー」
エミリーに強権を持たれると危険と判断した疑心暗鬼の現政権は、エミリーを国外追放処分にした。兵力や魔法技術が発達した為に、エミリーは必要ないとの判断も下したのだ。
晴れて自由になったエミリーは国外の森林で動物たちと戯れながら生活することにした。砂漠地帯を緑地に変えたり、ゴーストタウンをさらに怖くしたりと、各地で遊びながら。
また、以前からエミリーを気にかけていた侯爵様が彼女の元を訪ね、恋愛関係も発展の様相を見せる。
そして……大陸最強の国家が、故郷の王国を目指しているという噂も出て来た。
とりあえず、高みの見物と行きましょうか。
欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします
ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、
王太子からは拒絶されてしまった。
欲情しない?
ならば白い結婚で。
同伴公務も拒否します。
だけど王太子が何故か付き纏い出す。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる