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第2章 芋聖女と呼ばないで
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聖女は、神が人に与えた恵みを人の世界に遍くもたらす者。レティシアは幼い頃からその素養が見られ、ずっと王家と教会によって庇護されてきた。
そんな存在が邪な者に知られれば、国家に危機が及ぶのだと言い聞かされてきた。王子との婚約が公にされたことで、レティシアが聖女候補だと公表された。だが、国境付近で暮らす者は当時、二人の話を知らなかった。それどころか、『聖女? 王妃じゃなくて?』などと尋ねる。
つまり、こんな僻地で暮らす人々には、聖女の情報はあまり知られていない可能性が高い。
(これは……話しても大丈夫なんじゃ……? それどころか、挽回のチャンスかもしれない)
急に拳を握りしめたレティシアを、アベルは訝しげに見つめた。
「何だ、急にニヤニヤして? 言っておくが、事態が落ち着いたら、じっくりと詮議させて貰うからな」
「も、もちろん。でもその前に、私にもお手伝いをさせて下さい」
「……手伝い?」
アベルは、レティシアの身なりを上から下までじろじろ眺めた。下心を一切感じさせない厳しい詮議の目だった。
「……その細い腕では力仕事は無理だな」
レティシアの腕は、重いものなど持ったことがないと言わんばかりに、白く細かった。多少の重いものは魔術で運べたので、余計に自分自身の体を鍛えることを怠ったせいだ。
だが短い言葉でコテンパンにのされても引き下がらなかった。
「ち、力仕事以外でもできることはあります。私はせ……いえ、教会の人間です。神聖術なら多少は覚えがあります」
「覚えが、多少……か。教会の修道女でも覚えのある者は限られていると聞くが、お前がねぇ」
アベルの疑いの眼はもっともだった。今のレティシアの格好は村娘に扮した身ぎれいな女性。とても修道女には見えない。
だが、その視線に負けるわけには行かない。
「はい。本当ですよ」
「……いいだろう。ついてこい」
アベルはそう言うと、歩き出した。
その後ろ姿を、レティシアもレオナールも、不思議そうな顔をして見つめるしかなかった。
そんな存在が邪な者に知られれば、国家に危機が及ぶのだと言い聞かされてきた。王子との婚約が公にされたことで、レティシアが聖女候補だと公表された。だが、国境付近で暮らす者は当時、二人の話を知らなかった。それどころか、『聖女? 王妃じゃなくて?』などと尋ねる。
つまり、こんな僻地で暮らす人々には、聖女の情報はあまり知られていない可能性が高い。
(これは……話しても大丈夫なんじゃ……? それどころか、挽回のチャンスかもしれない)
急に拳を握りしめたレティシアを、アベルは訝しげに見つめた。
「何だ、急にニヤニヤして? 言っておくが、事態が落ち着いたら、じっくりと詮議させて貰うからな」
「も、もちろん。でもその前に、私にもお手伝いをさせて下さい」
「……手伝い?」
アベルは、レティシアの身なりを上から下までじろじろ眺めた。下心を一切感じさせない厳しい詮議の目だった。
「……その細い腕では力仕事は無理だな」
レティシアの腕は、重いものなど持ったことがないと言わんばかりに、白く細かった。多少の重いものは魔術で運べたので、余計に自分自身の体を鍛えることを怠ったせいだ。
だが短い言葉でコテンパンにのされても引き下がらなかった。
「ち、力仕事以外でもできることはあります。私はせ……いえ、教会の人間です。神聖術なら多少は覚えがあります」
「覚えが、多少……か。教会の修道女でも覚えのある者は限られていると聞くが、お前がねぇ」
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だが、その視線に負けるわけには行かない。
「はい。本当ですよ」
「……いいだろう。ついてこい」
アベルはそう言うと、歩き出した。
その後ろ姿を、レティシアもレオナールも、不思議そうな顔をして見つめるしかなかった。
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