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第1章 偽聖女じゃありません!

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 光に包まれたら、つぎの瞬間には風景が変わっていた。
 見渡す限りの緑。遠くには家々と畑。ほかの家よりも大きな邸宅が見えた。

 王都が近ければ、まず王城がそびえ立つ様がどこかしらから見えるのだが、見回してもそれらしき姿は見えない。

「王都の近くじゃないことは間違いないわね」

 風景に加えて、先ほどから感じる妙な肌寒さからして、王都よりも北であることもわかる。
 だがそれ以上に、周囲を見回してレティシアはどこかもの悲しさを感じていた。

「畑はあるけど『恵み』がそれほど届いていないのね。教会がないのかしら?」

『恵み』とは、文字通り神によりもたらされる恵みだ。全ての命を育むとされる神秘の力とされているが、要はレティシアやアネットが使って見せた神聖術のことだ。

 魔術は魔力を事象に変えるが、神聖術は魔力を生命力に変える。

 魔力の変化形には違いないが、それによって起こることが奇跡のような出来事ばかりだからか、それは『神聖術』と名付けられ、教会が秘匿してきた。

 代々の聖女は神より授かった『恵み』を国中に広めるのが役割とされている。現在はリュシアンの母である王妃がその役割を担っている。

 だが国中にもたらすとは言っても、行き届かない例もあると聞いた。特に王都から離れた土地だと、満足に『恵み』を得られない土地もあるとか。

「もしかして思っていたよりもずっと北の僻地まで来ちゃったのかしら……? 畑自体が少ないわね。まぁ、これほど『恵み』がないなら、育てても手間の方が大きいかもしれないわね」

 独り言は、レティシアの中で確信に変わった。

「うん、じゃあここに植えましょう。人が来なさそうだし、何より育て甲斐があるわ」

 レティシアは魔法陣の中に転がっている鉢を一つ一つ並べ直した。
 植え替えというと、苗のようなまだ小さなうちにするものが多いが、ここにあるものは全て育ちすぎというくらい育っている。レティシアの力による異例な育ち方だが。

 レティシアは並べた大きすぎる苗たちを一つ一つ見つめて、優しく撫でた。

「どの子も、力一杯生きてるわね。偉いわ。屋敷の中ではこれ以上大きく育ててあげられないの。ごめんなさい。毎日来るから、許して……そして皆、今まで窮屈な思いをさせてごめんなさい。自由になって、大きくなるのよ」
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