4 / 170
第1章 偽聖女じゃありません!
4
しおりを挟む
再び、空気がざわついた。
リュシアンに向いていた疑念の籠もる視線が、一気にレティシアに集中した。
「偽とは……酷い仰りようですね」
「本当のことだろう」
こういう空気は敏感に察知するのか、リュシアンがニヤリと笑みを浮かべて語り出した。
「皆も知っての通り、聖女とは神々の恵みを人々にもたらす、いわば神の使者。初代の聖女は奇跡の力を以て戦争で傷ついた全ての人々を癒やした。2代目の聖女は国中に蔓延した疫病を消し去った。そして代々の聖女が最も多く見せた奇跡が……『恵み』。豊穣をもたらし、民を飢えから救った。先生、間違いありませんね?」
リュシアンが傍に立っていた学長に視線を送ると、学長は焦ったように頷いた。
「は、はい、殿下。仰る通りです。聖女様は、すべての命をお守り下さる母の如き存在。そして、その……代々国王陛下の隣に立たれるもので……」
学長の視線がちらりと、レティシアに向いた。リュシアンはそれすらも、笑い飛ばした。
「そう。概ね、代々聖女と王妃は同一人物が務める。レティシア、お前もそうなるべく教育を受けてきたな。俺の言葉を否定するなら、今ここで、この聖大樹にもう一度花を咲かせてみせろ」
「……はい?」
皆の視線が、聖大樹に集まる。天井を覆い尽くさんばかりの大樹は、少しずつではあるがその葉を散らしていた。触れた幹は、驚くほど固く、そして渇いている。
舞い落ちる葉によって、大聖堂の白い床は、まばらに黒く染められている。
「さあ、早くやってみせろ。”偽”ではない真の聖女ならば、出来るだろう」
(確かに、伝承では聖大樹を再び生い茂らせることが出来るのは聖女だけ、と言われているけど……この人は……!)
先ほどまでと一転、レティシアはふっと拳を握りしめ、内心で歯がみしていた。
だが今の状況では、レティシアがいくらリュシアンを睨みつけても、効果はなかった。
聖女の交代を待つかのように朽ちていく聖大樹と次期聖女と言われてきたレティシア。その二つが揃って、注目されないはずがない。
レティシアは深く息を吐きだし、そっと聖大樹の幹に向け両手をかざした。両手から溢れる魔力を、幹に流し込んだ。
すると、目の前の大樹は息を吹き返したように瑞々しい色を取り戻した。項垂れていたような枝や葉がしゃんと太陽の方を向いた。その傍には、小さな白い蕾がふくらみつつある。
「おぉ……!」
大聖堂のそこかしこで声が上がった。
だが、その声はすぐにすぼんでいった。
枝に着いた蕾が、開く間もなく枯れて、落ちてしまったのだ。
リュシアンに向いていた疑念の籠もる視線が、一気にレティシアに集中した。
「偽とは……酷い仰りようですね」
「本当のことだろう」
こういう空気は敏感に察知するのか、リュシアンがニヤリと笑みを浮かべて語り出した。
「皆も知っての通り、聖女とは神々の恵みを人々にもたらす、いわば神の使者。初代の聖女は奇跡の力を以て戦争で傷ついた全ての人々を癒やした。2代目の聖女は国中に蔓延した疫病を消し去った。そして代々の聖女が最も多く見せた奇跡が……『恵み』。豊穣をもたらし、民を飢えから救った。先生、間違いありませんね?」
リュシアンが傍に立っていた学長に視線を送ると、学長は焦ったように頷いた。
「は、はい、殿下。仰る通りです。聖女様は、すべての命をお守り下さる母の如き存在。そして、その……代々国王陛下の隣に立たれるもので……」
学長の視線がちらりと、レティシアに向いた。リュシアンはそれすらも、笑い飛ばした。
「そう。概ね、代々聖女と王妃は同一人物が務める。レティシア、お前もそうなるべく教育を受けてきたな。俺の言葉を否定するなら、今ここで、この聖大樹にもう一度花を咲かせてみせろ」
「……はい?」
皆の視線が、聖大樹に集まる。天井を覆い尽くさんばかりの大樹は、少しずつではあるがその葉を散らしていた。触れた幹は、驚くほど固く、そして渇いている。
舞い落ちる葉によって、大聖堂の白い床は、まばらに黒く染められている。
「さあ、早くやってみせろ。”偽”ではない真の聖女ならば、出来るだろう」
(確かに、伝承では聖大樹を再び生い茂らせることが出来るのは聖女だけ、と言われているけど……この人は……!)
先ほどまでと一転、レティシアはふっと拳を握りしめ、内心で歯がみしていた。
だが今の状況では、レティシアがいくらリュシアンを睨みつけても、効果はなかった。
聖女の交代を待つかのように朽ちていく聖大樹と次期聖女と言われてきたレティシア。その二つが揃って、注目されないはずがない。
レティシアは深く息を吐きだし、そっと聖大樹の幹に向け両手をかざした。両手から溢れる魔力を、幹に流し込んだ。
すると、目の前の大樹は息を吹き返したように瑞々しい色を取り戻した。項垂れていたような枝や葉がしゃんと太陽の方を向いた。その傍には、小さな白い蕾がふくらみつつある。
「おぉ……!」
大聖堂のそこかしこで声が上がった。
だが、その声はすぐにすぼんでいった。
枝に着いた蕾が、開く間もなく枯れて、落ちてしまったのだ。
0
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。
まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」
ええよく言われますわ…。
でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。
この国では、13歳になると学校へ入学する。
そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。
☆この国での世界観です。

ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました
黎
ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。
そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。
家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。
*短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。
木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。
しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。
さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。
聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。
しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。
それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。
だがその後、王国は大きく傾くことになった。
フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。
さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。
これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。
しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる