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其の陸 迷宮の出口
二
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「この横丁を出入り禁止にする」
はっきりと、風見は言い放った。唖然とする初名を置いて、立ち上がったのは他の面々だった。
「風見、何言うてんねん」
「風見さん、初名ちゃんはちゃんと娘と向き合おうとしてくれてるんやから、そんな扱いは……」
「そうやで。絵美瑠が逃げ出したっちゅうだけの話で、この横丁は関係あれへんやん」
「そうや。関係ない」
風見は、声を上げた三人を見回し、最後に初名をしっかりと見据えた。
「初名……お前と絵美瑠のことは、この横丁とは関係ない。そやから横丁の外で、しっかり決着つけてこい」
「決着って……」
尋ね返そうとした初名を遮るように、風見は大きく手を叩いた。パン、と澄み切った音が周囲に響いた。かと思うと、初名の視界が急に真っ暗になった。
そして、それも一瞬のこと。
気付けば、どこかの通路に立っていた。いつも横丁の入り口がある場所だ。いつの間にか靴を履き、鞄も持っている。
だが、背後を振り返ると、ぽっかり空いていた入り口は、見えなかった。まるで始めからそうであったように壁があり、初名とその向こう側との間に立ち塞がっている。
「追い出された……?」
誰に尋ねるでもなく、呟いた。今のこの状況は、それ以外考えられない。
初名に告げた風見の顔は、いつになく真剣で、厳しかった。
『困ったことがあったら、またおいで』
今度は、そう言ってはくれなかった。
(そうだ。あの子だってこの横丁に住んでるわけじゃない。これは外のことなんだ)
初名は、そう心に決めた。
ほんの少しだけ、寂しさが残ったけれども。
******
初名の姿が消えた後、その場所には何とも言えない気まずい空気が流れていた。もちろん、そういった気持ちはすべて風見に向いている。
「あーあ、追い出してしもた。それもいきなり……風見さん、酷いなぁ」
「いくら何でも強引やろ。あの子をここに引き込んだんはお前やろうに」
「初名ちゃん、せっかく馴染んでくれとったのに……むしろ僕らで応援したげた方がええくらいやないですか?」
三人分の言葉と視線がちくちくと刺さる中、風見はますます眉間にしわを深く刻んでいた。
「お前ら……言いたい放題言うてからに。俺が何の考えもなくあんなことしたと思とんのか」
「うん」
三人一斉に、頷いた。ついでに、風見の肩に乗っている蜘蛛の百花も、頷いているように見えた。
「だってなぁ……風見さん、いっつも考えなしに歩き回って迷子なるし」
「誰がやねん」
「後先考えんと人間の客人連れ込んで怖がらせるし」
「誰がやねん」
「会合で集まっても、特に何も考えてはらへんし……」
「誰がやねん、お前ら! ええ加減にせぇよ」
凄んでも、三人のあきれ顔は止まなかった。
風見は、軽く咳払いをしてその視線から逃れた。
「……わかった。百歩譲って、お前らの言う通りっちゅうことにしとこう。今回だけは、考えがあるんです」
「ほぉ、どんな?」
大した期待も抱いていないとあからさまに顔に書いてある弥次郎が、続きを促した。その手には煙管と煙草盆を用意している。話半分で聞き流すつもりらしい。
「……まぁ聞けや」
そう言うと、風見は三人を傍に集め、ひそひそと、その頭の中の図面を語り始めた。
数秒後に、弥次郎も辰三もラウルも、百花も、揃ってため息のようなうなり声を上げることとなった。
はっきりと、風見は言い放った。唖然とする初名を置いて、立ち上がったのは他の面々だった。
「風見、何言うてんねん」
「風見さん、初名ちゃんはちゃんと娘と向き合おうとしてくれてるんやから、そんな扱いは……」
「そうやで。絵美瑠が逃げ出したっちゅうだけの話で、この横丁は関係あれへんやん」
「そうや。関係ない」
風見は、声を上げた三人を見回し、最後に初名をしっかりと見据えた。
「初名……お前と絵美瑠のことは、この横丁とは関係ない。そやから横丁の外で、しっかり決着つけてこい」
「決着って……」
尋ね返そうとした初名を遮るように、風見は大きく手を叩いた。パン、と澄み切った音が周囲に響いた。かと思うと、初名の視界が急に真っ暗になった。
そして、それも一瞬のこと。
気付けば、どこかの通路に立っていた。いつも横丁の入り口がある場所だ。いつの間にか靴を履き、鞄も持っている。
だが、背後を振り返ると、ぽっかり空いていた入り口は、見えなかった。まるで始めからそうであったように壁があり、初名とその向こう側との間に立ち塞がっている。
「追い出された……?」
誰に尋ねるでもなく、呟いた。今のこの状況は、それ以外考えられない。
初名に告げた風見の顔は、いつになく真剣で、厳しかった。
『困ったことがあったら、またおいで』
今度は、そう言ってはくれなかった。
(そうだ。あの子だってこの横丁に住んでるわけじゃない。これは外のことなんだ)
初名は、そう心に決めた。
ほんの少しだけ、寂しさが残ったけれども。
******
初名の姿が消えた後、その場所には何とも言えない気まずい空気が流れていた。もちろん、そういった気持ちはすべて風見に向いている。
「あーあ、追い出してしもた。それもいきなり……風見さん、酷いなぁ」
「いくら何でも強引やろ。あの子をここに引き込んだんはお前やろうに」
「初名ちゃん、せっかく馴染んでくれとったのに……むしろ僕らで応援したげた方がええくらいやないですか?」
三人分の言葉と視線がちくちくと刺さる中、風見はますます眉間にしわを深く刻んでいた。
「お前ら……言いたい放題言うてからに。俺が何の考えもなくあんなことしたと思とんのか」
「うん」
三人一斉に、頷いた。ついでに、風見の肩に乗っている蜘蛛の百花も、頷いているように見えた。
「だってなぁ……風見さん、いっつも考えなしに歩き回って迷子なるし」
「誰がやねん」
「後先考えんと人間の客人連れ込んで怖がらせるし」
「誰がやねん」
「会合で集まっても、特に何も考えてはらへんし……」
「誰がやねん、お前ら! ええ加減にせぇよ」
凄んでも、三人のあきれ顔は止まなかった。
風見は、軽く咳払いをしてその視線から逃れた。
「……わかった。百歩譲って、お前らの言う通りっちゅうことにしとこう。今回だけは、考えがあるんです」
「ほぉ、どんな?」
大した期待も抱いていないとあからさまに顔に書いてある弥次郎が、続きを促した。その手には煙管と煙草盆を用意している。話半分で聞き流すつもりらしい。
「……まぁ聞けや」
そう言うと、風見は三人を傍に集め、ひそひそと、その頭の中の図面を語り始めた。
数秒後に、弥次郎も辰三もラウルも、百花も、揃ってため息のようなうなり声を上げることとなった。
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