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恋人編ー3年生夏休み
いざ、即売会!③
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和真が涙を流しながら璃央と沙羽のコスプレを拝む、その少し前……
*
和真と別行動になり、受付を済ませて更衣室に入った。ここもけっこう混んでるな。なんかすげえごついロボとか、映画館で見るあいつらとか、いろんなのがいる。
「はぁ……和真、オレがいなくても楽しそうだったな……」
「別れた瞬間落ち込みすぎでしょ」
「いや、んなこと考えてる時間がもったいないな。和真のために、オレはめるちゃんになってやる」
「そうそう、その意気だよ。じゃーん、これ見て!」
大きなキャリーケースから沙羽が取り出したのはフリルがたっぷりついたピンクのアイドル衣装。オレが着る、めるちゃんのやつだ。
「前に仮で着てもらった時キツイって言ってたところを直して、スカートのボリュームを増やしてふわっとさせたんだ! あとこのへんの素材も原作に近くなるように調整してそれからそれから……! とにかく着て! 璃央くんが着て完成だから!」
「お、おう」
相変わらずコスプレと服への熱量がすげえ。
袖を通してみると、前よりも着やすくなっていた。肩のところつまるって言ったのも直ってる。それでも女物を着るのには慣れなくてもたついている間に沙羽は着替え終わっている。沙羽のはオレのと少しデザイン違うけど、ほぼお揃いの水色の衣装だ。
「そういや、沙羽はけっこう胸作ってるけどオレはいいのか? 女キャラやってんのに」
「めるちゃんは"ない"に等しいからね。ブラでちょっと盛るだけでいいんだよ」
「ない……胸が?」
「うん」
和真って……貧乳派だったのか!! 思い返せば、めるちゃん以外の和真の好きなキャラも貧乳が多い気がする。和真にとって胸は重要じゃねえんだな。男のオレに胸はどうしようもないって思ってたけど、それならいい。家帰ったらオレの胸筋(まだ鍛え中)を揉ませてやろう。
「なんで嬉しそうなの? 璃央くんて貧乳派?」
「和真派だ」
「でしょうねぇ」
着替え終わり、自分でできるところまでメイクを進める。素早く自分のメイクを終わらせて別人になった沙羽に仕上げをやってもらう。
「沙羽はネットで男って言ってんのか?」
「公言してはないけど、ファンはだいたい察してるかな。和真くんは最初気づいてなかったみたいだけど」
「あいつ鈍感だからな」
あはは、と沙羽は清々しく笑う。
「でもファンだけじゃなくて、アンチもいるよ。今でも男女とかオカマとか言われたり、心無いDMもある。でもそんなの気にする多感な時期は終わった! 周り気にするよりも、自分の好きなことやった方が楽しいもん!」
まっすぐに自分の好きなものを信じてる。そういうやつは素直に信用できる。
「お前……すげぇな」
「マジ? 璃央くんに言われたら自信持てちゃうなあ!」
「もう持ってるだろ」
「そうかな。やっぱ他人に言われると違うから。嬉しいよ」
メイクが終わり、最後にウィッグをかぶる。
鏡に映るオレはめるちゃんの姿になった。いつも和真の画面の中にいる、オレのライバル。専用の衣装を着てるから沙羽の家で初めてやったときよりもっと本人に近づいている。やっぱ沙羽のメイク技術、レベル高え。
「バッチリ、バッチリすぎる! 璃央くんかわいすぎ! どっからどう見てもめるちゃんだよ!」
「確かに、これはめるちゃんだな」
「ちょっと背は高いけど!」
「そこはどうしようもねえよ」
オレよりも沙羽の方が嬉しそうにして、周りをぴょこぴょこ跳ねて盛り上がっている。ひとつの作品を作り上げたみたいな感じか?
「まだ更衣室なのに視線すごいし、これはSNSで大バズりの予感!」
「視線……言われてみれば」
「え、璃央くん鈍感すぎない? 僕たちめちゃくちゃ見られてるよ?」
「いつものことだし。つか和真以外どうでもいい」
「これだからモテ男は……」
写真OKなコスプレスペースに着いた途端、即行囲まれた。サーニャちゃん!の声も聞こえる。沙羽ってマジで人気なんだな。オレは声かけられるのも写真にも慣れてたつもりだけど、今までとはなんか違う。湿度が高いというか……いや実際暑いんだけど!
「璃央くん、大丈夫? 撮影タイムすごいことになりそう」
沙羽がこそりと声をかけてきた。
「ちょっとびっくりしただけだ。ちょっと」
「和真くんをエサにして釣って付き合わせちゃってるし、しんどくなったら休んでね」
「やるって決めたのはオレだ。撮影ぐらいどうってことねえ。和真が来るまでは全力でやってやる」
「さすが璃央くん! ボクが見込んだ男!」
沙羽直伝のポーズを2人合わせてキメると、取り囲むカメラたちが沸き、フラッシュとシャッター音が響く。
早く来い、和真! 早くオレを見ろ! お前のためにめるちゃんになったオレを褒めろ!
そうして写真を撮られ続けながら、和真のことを思い、和真の反応を心待ちにし、体感では1時間強ぐらい経った頃……
囲みの中から顔を出した和真と目が合った。
どれだけ人がいようと、すぐに見つけれる。
「和真!」
和真に駆け寄って目の前に立つと、顔を真っ赤にしながら目を泳がせて狼狽えている。これこれ、この反応が見たかったんだ。かわいいな。
「どう?」
さあ、存分にオレを褒めろ!
*
「疲れた」
「お疲れ」
和真と一緒にクーラーがきいた休憩スペースのイスに座って一息つく。沙羽と大晴はまだ撮影中、颯太はネットの知り合いに会いに行ってる。
イスにもたれかかると、隣の和真がどこかのブースで貰ったっぽいうちわで風を送ってくれた。涼しい。生き返る。コスプレ写真は撮影OKの場所でしか撮れないと決まりがあるらしく、そこを離れてからは気楽になった。まあ沙羽には撮影されないところでも大股で歩くな、足を開いて座るな、とか言われてるけど。
「ほんとに大人気だったな」
「お前なら何枚でも撮っていいぞ。めるちゃんたちの写真の方が多いの普通にムカつくからな」
「そりゃあ、仕方ないというか、どうしようもないというか」
和真のカメラロールはゲームのスクショや誰かが描いた絵やらで埋まってる。好きなものを好きって言える和真が好きだ。だから推し活とかいうのをヤメロとは言わない。好意がオレ以外に向いてるのと、オレとの思い出の方が少ないってのがムカつくだけ。
「まあいい。これから増やしてやるからな」
「めるちゃんのコスで言われるとバグる……」
真っ赤になって顔を隠してるのに、指の隙間からこっちを見てるのがおもしろい。オレしか視界に入ってない。最高の気分だ。
そこに、颯太が戻ってきた。
「またイチャイチャしよって」
「え、してた……!?」
「普通に話してるだけだぞ」
「空気がなあ」
「つーことは、恋人感が出てるってことだな」
牽制できてるならよし。大きく頷いて席を立つ。
「便所行ってくる。ついでになんか食うもん買ってきてやる」
ここで和真1人にすんのはちょい心配だからな。颯太とふたりきりにさせんのも微妙だけど、1人にするよりはマシ。
「璃央くん! 沙羽に言葉遣い気をつけろって言われたでしょ! お花摘みって言いなさい! 私にもなにか買ってきて!」
「へいへい」
急に教育ママみたいになった颯太は流しておく。歩き出したところを和真に引き止められた。
「璃央、可愛すぎるから1人になったら絶対絡まれる。俺もついて行く」
「いいよ、お前は休んでろ。人ばっかで疲れてるだろ」
「でも」
「大丈夫だって。そうなったら蹴り入れるし」
「暴力はやめて……」
「すぐ帰ってくるわ」
そう言って軽い気持ちで便所に向かったが……和真の予想は的中だった。
お花摘みは終わったものの、数歩歩けば男女関係なく話かけられて進まねえ。さすがに多すぎる。話し声で男だって知られても逆に盛り上がるし。この格好だと飯を買うことさえできねえのかよ。幸い、変なのに絡まれたりはしてないけど、やっぱ和真について来てもらった方がよかったかもな……
その時、正面から明るい金髪の男が歩いてきて目を止める。あの髪色、派手な服……遠目からでも目立つアイツは!
「あぁーーっ! 一条鷹夜!」
「え?」
*
和真と別行動になり、受付を済ませて更衣室に入った。ここもけっこう混んでるな。なんかすげえごついロボとか、映画館で見るあいつらとか、いろんなのがいる。
「はぁ……和真、オレがいなくても楽しそうだったな……」
「別れた瞬間落ち込みすぎでしょ」
「いや、んなこと考えてる時間がもったいないな。和真のために、オレはめるちゃんになってやる」
「そうそう、その意気だよ。じゃーん、これ見て!」
大きなキャリーケースから沙羽が取り出したのはフリルがたっぷりついたピンクのアイドル衣装。オレが着る、めるちゃんのやつだ。
「前に仮で着てもらった時キツイって言ってたところを直して、スカートのボリュームを増やしてふわっとさせたんだ! あとこのへんの素材も原作に近くなるように調整してそれからそれから……! とにかく着て! 璃央くんが着て完成だから!」
「お、おう」
相変わらずコスプレと服への熱量がすげえ。
袖を通してみると、前よりも着やすくなっていた。肩のところつまるって言ったのも直ってる。それでも女物を着るのには慣れなくてもたついている間に沙羽は着替え終わっている。沙羽のはオレのと少しデザイン違うけど、ほぼお揃いの水色の衣装だ。
「そういや、沙羽はけっこう胸作ってるけどオレはいいのか? 女キャラやってんのに」
「めるちゃんは"ない"に等しいからね。ブラでちょっと盛るだけでいいんだよ」
「ない……胸が?」
「うん」
和真って……貧乳派だったのか!! 思い返せば、めるちゃん以外の和真の好きなキャラも貧乳が多い気がする。和真にとって胸は重要じゃねえんだな。男のオレに胸はどうしようもないって思ってたけど、それならいい。家帰ったらオレの胸筋(まだ鍛え中)を揉ませてやろう。
「なんで嬉しそうなの? 璃央くんて貧乳派?」
「和真派だ」
「でしょうねぇ」
着替え終わり、自分でできるところまでメイクを進める。素早く自分のメイクを終わらせて別人になった沙羽に仕上げをやってもらう。
「沙羽はネットで男って言ってんのか?」
「公言してはないけど、ファンはだいたい察してるかな。和真くんは最初気づいてなかったみたいだけど」
「あいつ鈍感だからな」
あはは、と沙羽は清々しく笑う。
「でもファンだけじゃなくて、アンチもいるよ。今でも男女とかオカマとか言われたり、心無いDMもある。でもそんなの気にする多感な時期は終わった! 周り気にするよりも、自分の好きなことやった方が楽しいもん!」
まっすぐに自分の好きなものを信じてる。そういうやつは素直に信用できる。
「お前……すげぇな」
「マジ? 璃央くんに言われたら自信持てちゃうなあ!」
「もう持ってるだろ」
「そうかな。やっぱ他人に言われると違うから。嬉しいよ」
メイクが終わり、最後にウィッグをかぶる。
鏡に映るオレはめるちゃんの姿になった。いつも和真の画面の中にいる、オレのライバル。専用の衣装を着てるから沙羽の家で初めてやったときよりもっと本人に近づいている。やっぱ沙羽のメイク技術、レベル高え。
「バッチリ、バッチリすぎる! 璃央くんかわいすぎ! どっからどう見てもめるちゃんだよ!」
「確かに、これはめるちゃんだな」
「ちょっと背は高いけど!」
「そこはどうしようもねえよ」
オレよりも沙羽の方が嬉しそうにして、周りをぴょこぴょこ跳ねて盛り上がっている。ひとつの作品を作り上げたみたいな感じか?
「まだ更衣室なのに視線すごいし、これはSNSで大バズりの予感!」
「視線……言われてみれば」
「え、璃央くん鈍感すぎない? 僕たちめちゃくちゃ見られてるよ?」
「いつものことだし。つか和真以外どうでもいい」
「これだからモテ男は……」
写真OKなコスプレスペースに着いた途端、即行囲まれた。サーニャちゃん!の声も聞こえる。沙羽ってマジで人気なんだな。オレは声かけられるのも写真にも慣れてたつもりだけど、今までとはなんか違う。湿度が高いというか……いや実際暑いんだけど!
「璃央くん、大丈夫? 撮影タイムすごいことになりそう」
沙羽がこそりと声をかけてきた。
「ちょっとびっくりしただけだ。ちょっと」
「和真くんをエサにして釣って付き合わせちゃってるし、しんどくなったら休んでね」
「やるって決めたのはオレだ。撮影ぐらいどうってことねえ。和真が来るまでは全力でやってやる」
「さすが璃央くん! ボクが見込んだ男!」
沙羽直伝のポーズを2人合わせてキメると、取り囲むカメラたちが沸き、フラッシュとシャッター音が響く。
早く来い、和真! 早くオレを見ろ! お前のためにめるちゃんになったオレを褒めろ!
そうして写真を撮られ続けながら、和真のことを思い、和真の反応を心待ちにし、体感では1時間強ぐらい経った頃……
囲みの中から顔を出した和真と目が合った。
どれだけ人がいようと、すぐに見つけれる。
「和真!」
和真に駆け寄って目の前に立つと、顔を真っ赤にしながら目を泳がせて狼狽えている。これこれ、この反応が見たかったんだ。かわいいな。
「どう?」
さあ、存分にオレを褒めろ!
*
「疲れた」
「お疲れ」
和真と一緒にクーラーがきいた休憩スペースのイスに座って一息つく。沙羽と大晴はまだ撮影中、颯太はネットの知り合いに会いに行ってる。
イスにもたれかかると、隣の和真がどこかのブースで貰ったっぽいうちわで風を送ってくれた。涼しい。生き返る。コスプレ写真は撮影OKの場所でしか撮れないと決まりがあるらしく、そこを離れてからは気楽になった。まあ沙羽には撮影されないところでも大股で歩くな、足を開いて座るな、とか言われてるけど。
「ほんとに大人気だったな」
「お前なら何枚でも撮っていいぞ。めるちゃんたちの写真の方が多いの普通にムカつくからな」
「そりゃあ、仕方ないというか、どうしようもないというか」
和真のカメラロールはゲームのスクショや誰かが描いた絵やらで埋まってる。好きなものを好きって言える和真が好きだ。だから推し活とかいうのをヤメロとは言わない。好意がオレ以外に向いてるのと、オレとの思い出の方が少ないってのがムカつくだけ。
「まあいい。これから増やしてやるからな」
「めるちゃんのコスで言われるとバグる……」
真っ赤になって顔を隠してるのに、指の隙間からこっちを見てるのがおもしろい。オレしか視界に入ってない。最高の気分だ。
そこに、颯太が戻ってきた。
「またイチャイチャしよって」
「え、してた……!?」
「普通に話してるだけだぞ」
「空気がなあ」
「つーことは、恋人感が出てるってことだな」
牽制できてるならよし。大きく頷いて席を立つ。
「便所行ってくる。ついでになんか食うもん買ってきてやる」
ここで和真1人にすんのはちょい心配だからな。颯太とふたりきりにさせんのも微妙だけど、1人にするよりはマシ。
「璃央くん! 沙羽に言葉遣い気をつけろって言われたでしょ! お花摘みって言いなさい! 私にもなにか買ってきて!」
「へいへい」
急に教育ママみたいになった颯太は流しておく。歩き出したところを和真に引き止められた。
「璃央、可愛すぎるから1人になったら絶対絡まれる。俺もついて行く」
「いいよ、お前は休んでろ。人ばっかで疲れてるだろ」
「でも」
「大丈夫だって。そうなったら蹴り入れるし」
「暴力はやめて……」
「すぐ帰ってくるわ」
そう言って軽い気持ちで便所に向かったが……和真の予想は的中だった。
お花摘みは終わったものの、数歩歩けば男女関係なく話かけられて進まねえ。さすがに多すぎる。話し声で男だって知られても逆に盛り上がるし。この格好だと飯を買うことさえできねえのかよ。幸い、変なのに絡まれたりはしてないけど、やっぱ和真について来てもらった方がよかったかもな……
その時、正面から明るい金髪の男が歩いてきて目を止める。あの髪色、派手な服……遠目からでも目立つアイツは!
「あぁーーっ! 一条鷹夜!」
「え?」
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