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恋人編ー3年生前期

金髪陽キャと巡る星

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 大学3年の前期が始まった。

 成長したいって璃央に宣言して、勝負まですることになったけど……正直、ノープラン……自分を変えたいとは思う、でも何をどう頑張ればいいのか分からん。自分の考えが曖昧なまま周りに流されて、目の前の推しだけ追いかけて過ごしてきた結果だ。

 悩んでいるうちに、いつのまにか履修ガイダンスは終わっていた。

「和真、履修どうすんの?」

 隣に座っていた前田が、広げたプリントを片付けながら聞いてきた。
 ……まずは目の前の面倒な履修登録を片付けよう。考えるのはそれからだ。

「うーん……どうしよ」

 必須は取るにしても、それ以外をどうするか迷うんだよなあ……取らない方が引きこもれるけど、それはそれで何もしてない感があるし、かといって他に取りたい講義も……

 講義一覧にざっと目を通していると、ふと目に止まるものがあった。

「天文学基礎……」






 数日後。見知らぬ建物の見知らぬ広い講義室の端っこに座った。俺は文系だから、理系の建物には初めて足を踏み入れた。アウェーすぎて怖い! 迷う可能性を考慮して早めに来たから目立たない、いい席に座れた。

 ……けど、璃央が星好きだから。勉強したらもう少しそのこと話せるようになるかもだし、プラネタリウム楽しかったし! 俺も璃央のために何かしたい! 
 履修登録確定はもう少し先だし、とりあえず初回受けてみて、難しかったらやめよう。うん。

 高いのか低いのか分からない志を抱えていると、隣の席に荷物がドサ、と置かれた。

「隣、空いてる?」
「あっ、はい、空いてま……」

 顔を上げると、ピアスをバチバチに開けた金髪の男(しかもイケメン)が隣に座った。いかつい!! 柄シャツもいかつい!! 

 他の席空いてるのに、なんで俺の隣にぃ……? 

 いやでも、隣と話すことが義務じゃないのが、大学のいいところだよな。黙々と授業受けておけばいいし、話しかけられないように始まるまでスマホいじっとこ……

「なあ」
「はい!?」

 なんで話しかけてくんの!?

「見ねー顔だけど、1年?」
「い、いえ……3年ですけど俺は文系なので、初めてきました」
「俺も3年! てか文系なのにこの講義取るの? 必須じゃないっしょ?」
「えっと……」

 謎のイケメンは興味津々といった感じで顔を覗き込んでくる。パリピの圧力怖ぇ! 璃央で慣れたかと思ったけど大丈夫なのは璃央だけだ! 無視するのも感じ悪いし、誤魔化すのもボロが出て変に思われそうだし……ええい!

「幼な……いや友達……じゃなくて、恋人、が、星好きだから、俺も勉強してみようかなって……」
「恋人のため」
「そ、そうです」
「へー! いいじゃん、そういうの!」

 金髪イケメンは快活にニカっと笑った。圧はあるけど、なんか悪い人じゃなさそう。この人も星が好きなのかな。じゃないと講義取らないか。

 そこに、前のドアから先生が入ってきた。金髪イケメンも気づいてパッと前を向いた。助かった。見た目で判断するのは悪いけど、先生に怒られるまで話を続けるタイプだと思ってた。

「履修登録がまだのため今日は出席を取りませんが、来週から取った人は遅れず来てくださいね……お、一条くんは今年もですか」
「はーい、よろしくお願いしまっす」

 名指しされて手を挙げたのは隣の金髪イケメンだった。マイクを伝った先生の声に負けないほど、よく通る声が講義室に響いた。

「ゼミも先生のとこにするんで!」
「そういう話は終わってからね。では講義に入ります」

 今年もってどういうこと、再履修……!?
 先生とも仲良さそうだし、ますます謎が深まっていく。気にはなるが、とりあえず講義に集中しよう。







 初回だからってのもありそうだが、分かりやすく面白い内容だった。文系の興味ない講義より全然良かった。取ってみようかな……

「来週は2人以上になってグループワークをしてもらいます。履修登録する方は来週からもよろしくお願いしますね」

 ハードルぶち上がった!!! 

 ほとんど新入生ばっかだし、しかも理系だし、知り合いはいない。詰んだ。せっかく頑張ろうと思ったのに、こんな事で諦めてしまう自分が嫌だ。でも自分から誰かを誘うなんて勇気が出ない。たぶん来週には新入生同士でグループができてるたろうし……無理だ……

 諦めようとしていたその時、ざわつく講義室の中で女の子の声がすぐ近くで聞こえた。

鷹夜たかや先輩、来週あたしたちと組みません?」
「先輩と組みたいんです~」
「んー」

 隣の金髪イケメンに話しかけている。新入生だよな。肉食女子つよい……イケメンだったら先輩にまでいくんだ……俺もそんぐらいの度胸が欲しいよ……

 金髪イケメンにまた話しかけられる前にさっさと帰ろう。来週からは会うこともないだろうし。

 しかし、リュックを持った手を強く掴まれた。掴んできたのはそのイケメンだった。

「俺はこいつと組みたいからごめんな! 友達なんだ」

 友達!?!?!?!?!?!?

「ええーっ! やっぱ競争率高いなあ」
「ざんねーん」

 女子たちは不満そうにしながらも「次は空けといてくださいねー」「新入生歓迎会、楽しみにしてまーす!」と手を振って去っていった。

「意外にあっさり諦めたな。ラッキー」
「あの、友達って、俺と組むって!?」
「落ち着け落ち着け」

 ようやく掴まれた手を離してくれた。「まあ座れ」と促され、とりあえずもう一度着席した。

「俺、この講義すげー好きで、3年間ずっと取ってんの。参考にもなるし」
「えっ」

 なるほど。だから先生に今年もって言われてたんだ。

「俺は真剣に講義受けたいわけ。ああいう俺目当ての女の子たちと組むより、邪魔してこないやつと組みたいんだよ。お前は俺のこと知らないみたいだし、あんま喋んないし、恋人いるから俺に惚れる心配もない」

 なんか言い方が……もしかしてこの人、有名人?
 浮かんだ疑問を挟む間もなく、さらに捲し立てられる。

「理系じゃないってことは、知り合いいないんだろ? グループ組むって言われた時、焦ってたし。俺にとってもお前にとっても好条件! 決まりだろ?」

 顔面の圧!!

「は、はい……」

 負けた……陽キャに決められて、俺は逆らえない……嫌とか言えない……でも自分から誰かを誘うよりはマシ……こういうところが流されやすくて嫌なんだよ!

「お前、名前は?」
「木山和真です……」
「きやまかずま! 韻踏んでていいね! 俺は一条鷹夜いちじょうたかや。レグルスってバンドのギターボーカルやってる!」
「バンド!?」
「そ、まだインディーズだけど……あ、でかいレーベルに所属してないってことな。自分たちでいろいろやってんだよ」

 思いがけない単語が出てきた衝撃で自己嫌悪が吹っ飛んだ。バンドのことは二次元での知識しかないけど、ギターボーカルっていちばん目立つところだよな。注目されそうな見た目だし、そりゃこれだけ自信もつくか……同じ歳なのにすごい。

「あの、検索してみてもいい?」
「どーぞどーぞ。公式サイトから動画サイトに飛べるよ」

 検索するといちばん上に出てきた。すげえ、本格的だ。プロと変わんないのでは? 言葉通り動画サイトに飛ぶと、ひとつだけ再生数が桁一つ違うMVがあった。一条は俺のスマホを覗き込む。

「ああ、それそれ。そのMVが俺らにしてはバズって、大学内でも広まって。まーでもそれが、俺の顔がかっこいいっていうバズり方でさ、顔より音楽の方聴いてほしいっていうか……名前が知れるのはいいけど複雑なんだよな~」

 確かにコメントを見ても、かっこいいばっかりで、歌に関しては見当たらない。

「せっかくなら聴いてってよ。次この講義室使われないし」
「うん」

 音楽はアニメの主題歌やゲーム音楽ぐらいしか聴かないけど、目の前にいる一条が歌ってる曲に興味がある。講義室内に残ってる人はもういなかった。1年生の頃は何かと講義が詰まってたな、と昔を思い出しながら再生ボタンを押す。流れた爽やかで綺麗なイントロに引き込まれた。歌詞はMVに表示されていた。

「星がテーマの曲なんだ」
「そ。俺が作詞してんだ。バンド名も、さっきの講義で出たろ?」
「レグルス……獅子座の一等星……だっけ」
「せいかーい。よく講義聞いてんじゃん」

 ああ、だから講義が参考になるって言ってたのか。本当に星が好きなんだな。




 一曲終わり、顔を上げる。

「ど?」
「かっこよかった! 爽やかなのに歌詞とかサビのメロディーはエモいというか切ない感じというか、一条の声も曲とあってるし……」

 やば、ついオタクっぽい語り方してしまった! 引かれたら嫌だな……隣の様子を伺うと、一条の目は輝いていて、にんまりと口角を上げていた。

「へへ、嬉しいこと言ってくれんじゃん」
「ごめん、こんな感想ぐらいしか……」
「じゅうぶん。顔以外のところも伝わってるんだな。他には他には? もっと感想くれ」

 欲しがりだ……顔以外の感想を相当もらってなかったんだな……えーと、他、他……

「あ、ちょっとピコピコした電子音があって、ゲームのBGMみたいな感じがよかった!」

 ……しまった~~!! これじゃ俺がゲーム好きのオタクだってモロバレだ! 言い終わった後に気づいても遅い。見当違いな感想で何言ってんだコイツって思われるかも……!

 一条はさっきよりもグッと身を乗り出し、食いついた。

「わかる!?」
「へ」
「俺、ゲーム音楽が好きでさ、でも作曲はできねえから作曲担当のヤツに頼んでそれっぽいの入れてもらってんだよね!」

 い、意外すぎる!!!! パリピでもゲームやるの!? そりゃやる人もいるよな、璃央が全くやらない(ヘタだから面白さがわからないらしい)から、しないもんだと思ってた。

「意外だと思ってんだろ。顔に出てる」
「すみません、思いました」
「いーよ、よく言われるし。俺はアクションもRPGも格ゲーもFPSだってやるぜ」
「え、え~~~~っ、マジ!?」
「和真も好きなんだろ? どんなのすんの? 好きなゲーム音楽ある?」
「俺はー……」

 話してみたら、ゲームの趣味が合った。というかやってるゲームの幅が広い。さすがにソシャゲまでは手が回ってないみたいだけど。
 食堂に移動までして、ずっとゲームの話してた。最初はキラキラ陽キャで圧が怖いって思ってたけど、こっちにいっぱい質問してくれるし、コミュ力あるからこそ話しやすい。

 楽しい時間を過ごし、ふとスマホを見ると次のコマの開始時間が近かった。

「俺、次あるんだった! そろそろ行かないと」
「そっか。講義室まで送ってってやろーか?」
「一条と歩くと視線集まるから、いいよ……」

 食堂に移動するまでの間でも女子がキャッキャしてたし、実は今も注目されてる。有名人だ。

「はは。この短時間で言うようになったな。んじゃ名残惜しいけど解散だな。楽しかった」
「俺も! こんないっぱいゲームの話できると思わなかったし、また話したい」
「おう、話そうぜ。来週のグループワークもよろしく。ちゃんと履修取れよ」
「誘ってくれてありがと。こっちこそよろしく」

 手を振り返して、食堂を出た。
 いろいろあったけど、講義の内容も良かったしゲーム友達もできたし、行ってよかったな……





 先に講義室に着いて席を確保してくれてた、前田と酒井、金子と合流した。

「天文学なんちゃら、どうだった?」

 座った隣にいた酒井が首を傾げる。

「講義はおもしろかったよ。あとなんか金髪イケメンのバンドマンとゲーム友達になった」
「どゆこと???」

 後ろの席の前田と金子も乗り出してくる。

「イケメンバンドマン?」
「木山、お前陽キャに好かれる才能でもあるのか?」
「いやいや、ゲームの趣味が合って盛り上がっただけだって。見た目は金髪で派手だけど、ゲームが好きでジャンルも幅広くて、レトロゲーまでやるって言ってたよ」
「なかなかやり手だな」

 顎に手を当ててなにかを考え込んでた酒井が口を開く。

「璃央くんに言っといた方がいいんじゃない?」

 それは俺も思ってたけど……

「友達できた~って報告するの痛々しくないか?」
「そういう方には取らないでしょ、ヤキモチ焼きだったから」

 そりゃこの3人と話してるだけで嫉妬心剥き出しだったし、離れる時も不安そうだったしな。でも言ったらもっと不安にさせるかも……穏便に済ませるにはどう伝えるのがいいのか……

「うーん……ちょっと伝え方考える……」
「こういうのは拗れる前に言うべき」
「そうだな」
「そうそう」
「が、がんばります……」




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