14 / 14
主人公
しおりを挟む
「すみません、取り乱しました……もっと語彙を身につけます」
王子が注いだ紅茶からはまだ湯気が出ていた。よかった、まだ冷めてないみたいだ。ベリルが「外行くんならこれ被せとけ」って渡してくれたティーポットカバーのおかげかな。
「前と違う茶葉か」
「すみません、先に王子の好きな茶葉を聞いておけばよかったのですが……」
「これも悪くない」
お気に召してもらえてよかった……王子は涼しげに、でも満足そうに再び紅茶に口をつけた。
「あの、王子のいつも飲まれている茶葉って何ですか? 今日も迷って自分の好きな紅茶を選んでしまったので……今後のために教えてほしいです!」
「お前に任せる」
「えっ……」
「俺は今まで同じ種類の紅茶ばかり飲んでいた。でも、お前が選ぶ紅茶はなかなかだ。だから他にも飲んでやってもいい」
顔を逸らした王子はスコーンにジャムをつけて頬張った。
……嬉しい。そんな風に思ってくれていたのか。俺に任せてくれるなんて、これは自惚れてしまう……!
「せいぜい頑張って大量の茶葉の中から俺の一番好きな茶葉にたどり着くんだな」
「……はい」
やっぱり俺の勘違いな気がしてきた。
結局何の茶葉がいいのかははぐらかされてるし。王子の好みのものを知りたいという好奇心もあったんだけどな~~! でも勝ち誇ってる王子を拝めて感謝!いくらでも馬鹿にしてください!
そんな調子で王子の華麗なティータイムを眺めていると、ふんわりと優しい風が吹いた。
天気も良くて、薔薇と紅茶の香り、そして王子のなによりも可憐な香り……
一生こうして王子のそばにいたいな……
だけど王子とこうしてふたりきりで過ごせる時間も、あまりないのかもしれない。主人公が現れるまでの僅かな……
「俺だったら、よかったのに」
そう口にして、ハッとする。
「? 何か言ったか?」
「あ、いえ……」
なんてことを思っているんだ。主人公と結ばれることがゲームにおいてのハッピーエンドだ。王子の幸せを願わなければならないのに、どうして、こんなにも胸がズキズキするんだ。
「で、元気は出たのか?」
「え」
スコーンを食べ終えた王子はじっと俺を見つめた。元気は出たのかって……それ……
「もしかして、俺のために……ここに連れてきてくれたんですか?」
「隣でため息つかれたら、気になって仕事にならないからだ」
部屋で顔面を思いっきり近づけてきたのも、俺が見たがっていた庭園に連れてきたのも、青い薔薇を見せてくれたのも……全部、俺のため……
「……っ! 元気、いっぱい出ました!」
やっべえ……めちゃくちゃ嬉しい。さっきまでへこんでたのが嘘みたいだ。王子気にかけてくれている。それだけでじゅうぶんじゃないか。
その時、強く風が吹いた。薔薇の花びらが巻き上げられ、東屋の中まで舞い踊った。
「お前は、そうやって笑っているほうがいい」
舞う色とりどりの花びら、煌めく太陽光。背景には薔薇の園、そして視界の真ん中で美麗すぎる顔を微笑ませる王子……
この世のものとは思えないほど綺麗なその光景に、俺は目を見開いた。
見覚えがあったからだ。ゲーム公式サイトのイーディス王子をガン見していた転生前の、あの頃の記憶。そこに数枚だけ載っていた……おそらくだけど、シミュレーションゲームにおける、とても重大な……あれ。
ーースチル。
よく知らないけど、スチルってのはフラグとか建てて、主人公相手になんかイベントが起こって、そんな感じで見れるもんだよな。わ~、イーディス王子のイベント見れてよかった。しかも3Dだし、王子とおんなじ空気吸ってんだぜ? マジ最高だなこのゲーム……ってあれ待てよ。これってもしかして……
主人公って……俺ぇ!?!?
王子が注いだ紅茶からはまだ湯気が出ていた。よかった、まだ冷めてないみたいだ。ベリルが「外行くんならこれ被せとけ」って渡してくれたティーポットカバーのおかげかな。
「前と違う茶葉か」
「すみません、先に王子の好きな茶葉を聞いておけばよかったのですが……」
「これも悪くない」
お気に召してもらえてよかった……王子は涼しげに、でも満足そうに再び紅茶に口をつけた。
「あの、王子のいつも飲まれている茶葉って何ですか? 今日も迷って自分の好きな紅茶を選んでしまったので……今後のために教えてほしいです!」
「お前に任せる」
「えっ……」
「俺は今まで同じ種類の紅茶ばかり飲んでいた。でも、お前が選ぶ紅茶はなかなかだ。だから他にも飲んでやってもいい」
顔を逸らした王子はスコーンにジャムをつけて頬張った。
……嬉しい。そんな風に思ってくれていたのか。俺に任せてくれるなんて、これは自惚れてしまう……!
「せいぜい頑張って大量の茶葉の中から俺の一番好きな茶葉にたどり着くんだな」
「……はい」
やっぱり俺の勘違いな気がしてきた。
結局何の茶葉がいいのかははぐらかされてるし。王子の好みのものを知りたいという好奇心もあったんだけどな~~! でも勝ち誇ってる王子を拝めて感謝!いくらでも馬鹿にしてください!
そんな調子で王子の華麗なティータイムを眺めていると、ふんわりと優しい風が吹いた。
天気も良くて、薔薇と紅茶の香り、そして王子のなによりも可憐な香り……
一生こうして王子のそばにいたいな……
だけど王子とこうしてふたりきりで過ごせる時間も、あまりないのかもしれない。主人公が現れるまでの僅かな……
「俺だったら、よかったのに」
そう口にして、ハッとする。
「? 何か言ったか?」
「あ、いえ……」
なんてことを思っているんだ。主人公と結ばれることがゲームにおいてのハッピーエンドだ。王子の幸せを願わなければならないのに、どうして、こんなにも胸がズキズキするんだ。
「で、元気は出たのか?」
「え」
スコーンを食べ終えた王子はじっと俺を見つめた。元気は出たのかって……それ……
「もしかして、俺のために……ここに連れてきてくれたんですか?」
「隣でため息つかれたら、気になって仕事にならないからだ」
部屋で顔面を思いっきり近づけてきたのも、俺が見たがっていた庭園に連れてきたのも、青い薔薇を見せてくれたのも……全部、俺のため……
「……っ! 元気、いっぱい出ました!」
やっべえ……めちゃくちゃ嬉しい。さっきまでへこんでたのが嘘みたいだ。王子気にかけてくれている。それだけでじゅうぶんじゃないか。
その時、強く風が吹いた。薔薇の花びらが巻き上げられ、東屋の中まで舞い踊った。
「お前は、そうやって笑っているほうがいい」
舞う色とりどりの花びら、煌めく太陽光。背景には薔薇の園、そして視界の真ん中で美麗すぎる顔を微笑ませる王子……
この世のものとは思えないほど綺麗なその光景に、俺は目を見開いた。
見覚えがあったからだ。ゲーム公式サイトのイーディス王子をガン見していた転生前の、あの頃の記憶。そこに数枚だけ載っていた……おそらくだけど、シミュレーションゲームにおける、とても重大な……あれ。
ーースチル。
よく知らないけど、スチルってのはフラグとか建てて、主人公相手になんかイベントが起こって、そんな感じで見れるもんだよな。わ~、イーディス王子のイベント見れてよかった。しかも3Dだし、王子とおんなじ空気吸ってんだぜ? マジ最高だなこのゲーム……ってあれ待てよ。これってもしかして……
主人公って……俺ぇ!?!?
7
お気に入りに追加
161
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
騎士志望のご令息は暗躍がお得意
月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。
剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作?
だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。
典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。
従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。
子爵令息の嫁ぎ先は異世界のようです
あかべこ
BL
地球と異世界が繋がって30年、地球への輸出で産業を成り立たせているクズネツォフ子爵家の三男・ニコライのもとに異世界への見合い話が届く。どうせ不調に終わるだろうと旅行気分でへの見合いに赴くとそこにいたのは年上の優男だった。
指輪一つで買われた結婚。~問答無用で溺愛されてるが、身に覚えが無さすぎて怖い~
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約破棄をされて実家であるオリファント子爵邸に出戻った令嬢、シャロン。シャロンはオリファント子爵家のお荷物だと言われ屋敷で使用人として働かされていた。
朝から晩まで家事に追われる日々、薪一つ碌に買えない労働環境の中、耐え忍ぶように日々を過ごしていた。
しかしある時、転機が訪れる。屋敷を訪問した謎の男がシャロンを娶りたいと言い出して指輪一つでシャロンは売り払われるようにしてオリファント子爵邸を出た。
向かった先は婚約破棄をされて去ることになった王都で……彼はクロフォード公爵だと名乗ったのだった。
終盤に差し掛かってきたのでラストスパート頑張ります。ぜひ最後まで付き合ってくださるとうれしいです。
初夜に「君を愛するつもりはない」と人形公爵から言われましたが俺は偽者花嫁なので大歓迎です
砂礫レキ
BL
リード伯爵家の三男セレストには双子の妹セシリアがいる。
十八歳になる彼女はアリオス・アンブローズ公爵の花嫁となる予定だった。
しかし式の前日にセシリアは家出してしまう。
二人の父リード伯爵はセシリアの家出を隠す為セレストに身代わり花嫁になるよう命じた。
妹が見つかり次第入れ替わる計画を告げられセレストは絶対無理だと思いながら渋々と命令に従う。
しかしアリオス公爵はセシリアに化けたセレストに対し「君を愛することは無い」と告げた。
「つまり男相手の初夜もファーストキスも回避できる?!やったぜ!!」
一気に気が楽になったセレストだったが現実はそう上手く行かなかった。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
愛玩犬は、銀狼に愛される
きりか
BL
《漆黒の魔女》の呪いにより、 僕は、昼に小型犬(愛玩犬?)の姿になり、夜は人に戻れるが、ニコラスは逆に、夜は狼(銀狼)、そして陽のあるうちには人に戻る。
そして僕らが人として会えるのは、朝日の昇るときと、陽が沈む一瞬だけ。
呪いがとけると言われた石、ユリスを求めて旅に出るが…
やり直せるなら、貴方達とは関わらない。
いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。
エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。
俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。
処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。
こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…!
そう思った俺の願いは届いたのだ。
5歳の時の俺に戻ってきた…!
今度は絶対関わらない!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる