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振り返り その後勧誘されることは一切なかった
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不動産会社を辞めた後たまたま佐藤さんと再会した成り行きで、マルチ商法コミュニティに顔を出すようになってしまった僕だが、さすがに研修会まで持ち出されたところで手を引いた。
思い返せば最初からほとんど仕組まれていて、勉強会の最後の5分に代表が畳みかけてきたのが本当の目的だった。
それまでのプロセスは、いい人たち、キラキラした世界、楽しい雰囲気、サオリさんみたいな女性と仲良くなれるかもという夢を見せてなし崩し的に仲間に組み込もうという段取りに過ぎなかったのだ。
勉強会を途中で飛び出してきてしまったので、その後佐藤さんからしつこく勧誘を受けるのも覚悟していた。
さすがにいいように騙されて大事な時間を無駄にしたという怒りに似た感情もやっと生まれたので、最悪の場合は連絡を全て無視、町で出会っても無視、という覚悟も決めていた。
ところが勉強会当日の「今日はお疲れ様でした」的なメッセージすら無く、完全に脈ナシと判断されたのか佐藤さんから一切の連絡がなかったのは拍子抜けだった。
まず全てはこのマルチ商法コミュニティの勧誘プロセスとして確立されていたことが、後になってみるとよくわかった。
(1)まず川崎であったような同年代の飲み会
15人くらいの飲み会の中で僕のような勧誘ターゲットは3~4人
マナミさんのようにキラキラした世界にいる憧れの人担当
佐藤さんのようにターゲットを直接連れてくるスカウト担当
サオリさんのようにちょっとした色仕掛けでターゲットをその気にさせる担当
それぞれが役割をきっちり演じている。
僕が誘われたのは当日なのだが、おそらくこういった飲み会は同じ店で2週間周期くらいで定期的に開催されていて、ターゲットが見つかるたびに偶然を装って呼ばれる。
ここでは次回のアポイントを取り付けることだけが目標だ。
後で我に返ってキャンセルされないために敢えて次回の1000円を先払いさせたのだと思う。
(2)佐藤さんとの1対1のランチ
これは全ターゲットにやっているかは不明。佐藤さんのアドリブの可能性が高い。
通常だと先に友達や同僚との会話でキラキラした世界をちらつかせて飲み会に誘うんだと思うが、僕の場合自分から飲み相手募集して急遽飲み会に組み込んだので、念押しの為に佐藤さんが組んだのだと思う。
目的はキラキラした素晴らしい人たちとの出会いで私は変わったという話を吹き込んで、憧れを抱かせること。
(3)タワマン食事会
キラキラした羨ましい成功者の世界を見せることが目的だと思うが、今思えばいろいろ怪しい。
マナミさんが住んでいるマンションの住民用パーティールームとのことだったが、多分スンで無くても使用料を払えば貸し切れる場所だ。
友達のシェフというのも嘘で雇われた人。
サオリさんがつきっきりで僕と親しくしたのも、色仕掛けの側面もあるだろうけど、ボロが出ないように監視していた可能性も高い。そうでないとトイレまで付いてきたりしない。
これも最初の飲み会と同様、定期的に開催されていて勧誘の第二段階として組まれているものだろう。
この日の参加者のうち数人が僕と同じターゲットで、他は成功者を演じるサクラに近い。
(4)勉強会
代表のよどみない講義の様子からしてこれも定期開催されている。
1~2週間後というわざと考える暇を与えないタイミングでの研修会に勧誘して、あとはマルチ商法の歯車に組み込んでしまう最終段階だったと思う。
後ろの席で研修申し込みに乗り気だった参加者も多分サクラだ。
たぶん、研修後にディストリビューター契約をすると何十万円分の化粧品を買わされ、その元を取るために自分も佐藤さん達と同じように誰彼かまわず周囲の人を勧誘し続けないサイクルに入ってしまうのだ。
たかが一人をマルチ商法に勧誘するためにそこまでするか?と思わなくはないけれどそれだけ必死なのだろう。
成功者としてキャラ付けされてる代表とかマナミさんとやらも実際のところはどうだかわからない。タワマンにも住んでないだろうし新たな参加者を必死で集め続けないと借金を被ってしまうような立場ではないだろうか。
勧誘し続けるのが業務と考えれば、定期的な飲み会を開いて徹底した役割を演じ続けたり、facebookに張り付いて次なるターゲットを常に探し続けていたとしても不思議ではない。
佐藤さんはコミュニティの中では中堅どころの営業担当、サオリさんは色仕掛けの営業サポート、成功者を演じる人たちですら日々のノルマに怯える中間管理職、その上にさらに元締めみたいな自分は何もしないでお金だけ吸い上げてる人たちがいるんじゃないかなと思っている。
それぞれみんなでめちゃくちゃ尊敬し合ってる仲のいい人たちを演じていましたが、実際のところは仕事の同僚か場合によっては限られた勧誘対象のパイを奪い合うライバル関係かと。
サオリさんと佐藤さんが友達というのも嘘だったと思う。
思い返すと佐藤さんとサオリさんが同じ大学だったとか一緒に遊びに行ったとかの具体的な仲良しエピソードはひとつも聞いたことはなかった。
あちこちで男性ターゲットに思わせぶりにして営業サポートしてるんだと思う。
僕としては何回か参加して時間の無駄をしたこと、飲み会と勉強会の会費ちらほらと交通費程度の損害しかなかったのでそこまで悔しい気持ちはない。
ただ、完全に向こうのペースに乗せられて冷静に考えておかしなことも疑問を抱く前に次のステップに進んでいたのはちょっと怖い。
彼等の手法はとにかく考える隙を与えずにどんどん次のステップに進ませて、ここまで来たんだから次も行ってみようと思わせること。
途中で嫌な気持ちにさせられることはなく、むしろ一緒にいて楽しいと思わされたほどだった。
冷静に後から振り返るとやっぱりちょっと怖い。
とはいえ普通にしてたらできないマルチ商法のみなさんの世界を、のぞき見できたのはいい経験になった。
潜入取材できたと思えば悪くないはず。
みんな人間関係がめちゃくちゃになって友達を全部失う前に足を洗ってくれたらと願うばかりだ。
あとは久しぶりに新しく出会った女性のサオリさんとワンチャン仲良くなれるかもって淡い期待をしたのは馬鹿でした。それだけは恥ずかしい限りだ。
佐藤さんとはその後もfacebookで繋がっていましたが、従来通りキラキラした生活のアップロードは続いた。
マルチ商法をやっている人特有なのか、ふるさと納税とか期日前投票など社会貢献してるアピールが強いのが特徴に思う。
マルチ商法のことを彼等はネットワークビジネスと呼んでいて賢いお金の稼ぎ方なので誇らしいとすら思っているようだ。
でもそれは表向きのこと。
彼等自身も何かしら後ろめたい思いは常に抱いているので、社会貢献をアピールしているのではないだろうか。
ただ1年を過ぎたくらいからどうも投稿頻度が落ちてきたので、佐藤さん自身もこのマルチ商法のコミュニティから足を洗ったのかも知れない。
そもそもそれ一本で生活していけるような収入があるとも思えない。
以上が最初の飲み会に参加してから、勉強会を抜け出して縁を切るまでのいきさつです。
僕のこのしょぼい経験談が同じように勧誘されそうになっている人の何か参考になれば幸いです。
(完)
思い返せば最初からほとんど仕組まれていて、勉強会の最後の5分に代表が畳みかけてきたのが本当の目的だった。
それまでのプロセスは、いい人たち、キラキラした世界、楽しい雰囲気、サオリさんみたいな女性と仲良くなれるかもという夢を見せてなし崩し的に仲間に組み込もうという段取りに過ぎなかったのだ。
勉強会を途中で飛び出してきてしまったので、その後佐藤さんからしつこく勧誘を受けるのも覚悟していた。
さすがにいいように騙されて大事な時間を無駄にしたという怒りに似た感情もやっと生まれたので、最悪の場合は連絡を全て無視、町で出会っても無視、という覚悟も決めていた。
ところが勉強会当日の「今日はお疲れ様でした」的なメッセージすら無く、完全に脈ナシと判断されたのか佐藤さんから一切の連絡がなかったのは拍子抜けだった。
まず全てはこのマルチ商法コミュニティの勧誘プロセスとして確立されていたことが、後になってみるとよくわかった。
(1)まず川崎であったような同年代の飲み会
15人くらいの飲み会の中で僕のような勧誘ターゲットは3~4人
マナミさんのようにキラキラした世界にいる憧れの人担当
佐藤さんのようにターゲットを直接連れてくるスカウト担当
サオリさんのようにちょっとした色仕掛けでターゲットをその気にさせる担当
それぞれが役割をきっちり演じている。
僕が誘われたのは当日なのだが、おそらくこういった飲み会は同じ店で2週間周期くらいで定期的に開催されていて、ターゲットが見つかるたびに偶然を装って呼ばれる。
ここでは次回のアポイントを取り付けることだけが目標だ。
後で我に返ってキャンセルされないために敢えて次回の1000円を先払いさせたのだと思う。
(2)佐藤さんとの1対1のランチ
これは全ターゲットにやっているかは不明。佐藤さんのアドリブの可能性が高い。
通常だと先に友達や同僚との会話でキラキラした世界をちらつかせて飲み会に誘うんだと思うが、僕の場合自分から飲み相手募集して急遽飲み会に組み込んだので、念押しの為に佐藤さんが組んだのだと思う。
目的はキラキラした素晴らしい人たちとの出会いで私は変わったという話を吹き込んで、憧れを抱かせること。
(3)タワマン食事会
キラキラした羨ましい成功者の世界を見せることが目的だと思うが、今思えばいろいろ怪しい。
マナミさんが住んでいるマンションの住民用パーティールームとのことだったが、多分スンで無くても使用料を払えば貸し切れる場所だ。
友達のシェフというのも嘘で雇われた人。
サオリさんがつきっきりで僕と親しくしたのも、色仕掛けの側面もあるだろうけど、ボロが出ないように監視していた可能性も高い。そうでないとトイレまで付いてきたりしない。
これも最初の飲み会と同様、定期的に開催されていて勧誘の第二段階として組まれているものだろう。
この日の参加者のうち数人が僕と同じターゲットで、他は成功者を演じるサクラに近い。
(4)勉強会
代表のよどみない講義の様子からしてこれも定期開催されている。
1~2週間後というわざと考える暇を与えないタイミングでの研修会に勧誘して、あとはマルチ商法の歯車に組み込んでしまう最終段階だったと思う。
後ろの席で研修申し込みに乗り気だった参加者も多分サクラだ。
たぶん、研修後にディストリビューター契約をすると何十万円分の化粧品を買わされ、その元を取るために自分も佐藤さん達と同じように誰彼かまわず周囲の人を勧誘し続けないサイクルに入ってしまうのだ。
たかが一人をマルチ商法に勧誘するためにそこまでするか?と思わなくはないけれどそれだけ必死なのだろう。
成功者としてキャラ付けされてる代表とかマナミさんとやらも実際のところはどうだかわからない。タワマンにも住んでないだろうし新たな参加者を必死で集め続けないと借金を被ってしまうような立場ではないだろうか。
勧誘し続けるのが業務と考えれば、定期的な飲み会を開いて徹底した役割を演じ続けたり、facebookに張り付いて次なるターゲットを常に探し続けていたとしても不思議ではない。
佐藤さんはコミュニティの中では中堅どころの営業担当、サオリさんは色仕掛けの営業サポート、成功者を演じる人たちですら日々のノルマに怯える中間管理職、その上にさらに元締めみたいな自分は何もしないでお金だけ吸い上げてる人たちがいるんじゃないかなと思っている。
それぞれみんなでめちゃくちゃ尊敬し合ってる仲のいい人たちを演じていましたが、実際のところは仕事の同僚か場合によっては限られた勧誘対象のパイを奪い合うライバル関係かと。
サオリさんと佐藤さんが友達というのも嘘だったと思う。
思い返すと佐藤さんとサオリさんが同じ大学だったとか一緒に遊びに行ったとかの具体的な仲良しエピソードはひとつも聞いたことはなかった。
あちこちで男性ターゲットに思わせぶりにして営業サポートしてるんだと思う。
僕としては何回か参加して時間の無駄をしたこと、飲み会と勉強会の会費ちらほらと交通費程度の損害しかなかったのでそこまで悔しい気持ちはない。
ただ、完全に向こうのペースに乗せられて冷静に考えておかしなことも疑問を抱く前に次のステップに進んでいたのはちょっと怖い。
彼等の手法はとにかく考える隙を与えずにどんどん次のステップに進ませて、ここまで来たんだから次も行ってみようと思わせること。
途中で嫌な気持ちにさせられることはなく、むしろ一緒にいて楽しいと思わされたほどだった。
冷静に後から振り返るとやっぱりちょっと怖い。
とはいえ普通にしてたらできないマルチ商法のみなさんの世界を、のぞき見できたのはいい経験になった。
潜入取材できたと思えば悪くないはず。
みんな人間関係がめちゃくちゃになって友達を全部失う前に足を洗ってくれたらと願うばかりだ。
あとは久しぶりに新しく出会った女性のサオリさんとワンチャン仲良くなれるかもって淡い期待をしたのは馬鹿でした。それだけは恥ずかしい限りだ。
佐藤さんとはその後もfacebookで繋がっていましたが、従来通りキラキラした生活のアップロードは続いた。
マルチ商法をやっている人特有なのか、ふるさと納税とか期日前投票など社会貢献してるアピールが強いのが特徴に思う。
マルチ商法のことを彼等はネットワークビジネスと呼んでいて賢いお金の稼ぎ方なので誇らしいとすら思っているようだ。
でもそれは表向きのこと。
彼等自身も何かしら後ろめたい思いは常に抱いているので、社会貢献をアピールしているのではないだろうか。
ただ1年を過ぎたくらいからどうも投稿頻度が落ちてきたので、佐藤さん自身もこのマルチ商法のコミュニティから足を洗ったのかも知れない。
そもそもそれ一本で生活していけるような収入があるとも思えない。
以上が最初の飲み会に参加してから、勉強会を抜け出して縁を切るまでのいきさつです。
僕のこのしょぼい経験談が同じように勧誘されそうになっている人の何か参考になれば幸いです。
(完)
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