明日は、晴れますか?

カラスヤマ

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悪運

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「どうされたんですか?」

ナタリが心配そうに僕の顔を覗いていた。

「あぁ、ごめんごめん。ちょっと昔のことを思い出してて。ボーッとしてた」

「ボケッとしてるのは、いつものことじゃん」

「ひでぇな、相変わらず」

「フフ」

僕は、八年ぶりにあの『運』に支配された国【ガンバナ】に戻ってきた。

二度と来ることはないと思っていた。風の噂で、あの事を知るまでは……。気になって、気になって。どうしても自分の目で一度確かめたかった。

検問を通り、一歩中に入る。それだけで、以前とは違うことが分かった。
同じ国とは思えないほど、町全体の雰囲気が明るくなっていて、商店も多く活気に満ちている。笑い声も聞こえる。確か、五年前。新国王に世代交代してから『運』のあるなしで差別してきた国の法律が撤廃され、平等な社会実現を目指すことになったらしい。
まぁ、正確に言うと国王の奥さんが影の権力者らしいが。

町の中央にそびえる巨大なタワー。雲を突き抜け、天辺が見えない。
最上階は、国王とその家族の居住スペースになっているとか、いないとか。

僕は、タワー入口を警護する兵士に身分証を見せた。無線機のようなもので、誰かと話をしている。しばらくして、再度僕の顔を見た屈強な男は、シュピッッ!!っと音が出るように素早く敬礼すると、僕達を丁寧に中に通した。

「おいっ! どうなってるんだよ。もしかして、国王と知り合いなの?」

珍しくアタフタしているメリーザが面白い。

「少し違う。僕の知り合いは、国王の奥さん。王妃ね」

僕達は、呪文の描かれた円の中に入ると青白い光のカーテンに包まれ、一瞬で最上階に運ばれた。

窓から外の様子を見ると、遥か先に隣国のナユル砂漠が黄金のように輝いて見えた。

「キレイ………夢みたい」

「ねぇ、ねぇ。ここに住みたい」

二人は、目を輝かせていた。
そんな僕達の前に長身の執事が現れた。

「ニート様。こちらへ。他の二人は、こちらで休憩していただきます」

大きな赤い扉を開けると、部屋の中央に百人は座れるんじゃないかと思われる巨大なテーブルがあり、その上に見たことのない豪華な食事がズラーーと並んでいた。涙が出るほど食べたかったが、どうやら僕は違う部屋らしく、ここでナタリとメリーザとは別行動になった。

少し歩くとこの階に不釣り合いな平凡な扉があり、中に入るとやはり平凡な作りの部屋になっていた。

「久しぶりだね、お兄ちゃん」

「あぁ………」

中には、僕が会いたかった人物がいて。でも美しく、気高く成長した彼女の姿をなかなか直視出来ずにいた。

僕が以前。この国で出会った女の子。
今は、この国の王妃。

「出世したなぁ」

「何それ。今日は、私に会いに来てくれたの?」

「うん。久しぶりに懐かしくなってさ。会いたくなった。………元気そうだね、安心したよ」

「お兄ちゃんも。八年ぶりだよね。全然変わってない。相変わらず、貧乏そうだし」

「うん……。貧乏から抜け出せないんだよ、なかなか」

僕は、目の前にリュックを置くとシルクハットに手を突っ込み、中から選りすぐりの逸品を出して、王妃に見せた。

「そんなガラクタ要りません」

「ひでぇ! 良いものばかりなのに……。あっ、この貝殻なんてさ、海の音がするんだよ。寝る時に最高のヒーリングミュージック」

「要りません」

「いやいや、ほんと。どれでも良いから買ってよ」

僕は、相手に土下座する勢いで頼み込んだ。

「それは?」

「あぁ、これは。懐かしの勾玉。雷を封じ込めたやつ。今なら、たったの十万だよ」

「確か、握りつぶすんだよね。そしたら、目の前に雷が落ちる」

「いや、これさ。使い方、間違っていたんだ。握りつぶすと、誰に雷が落ちるか分からない。本当は、雷を落としたい相手を強く想って触るだけ」

友達は、勾玉を僕から受け取るとベランダに出た。そして、優しくその勾玉を両手で包み、目を閉じ願った。すぐに雨雲が空を覆い、雷が鳴り始める。

「落として! 私に」


ビカッッ!!

雷が、遥か先で落ちた。

「無理だよ。君は、強大な運に守られてる。こんな勾玉程度の力じゃ、君を殺せない。………前は、その運の力で僕を二度助けてくれたよね。一度目は、使者とのジャンケン。二度目は、フロアマスターの女との命懸けゲーム。だから君は、僕の命の恩人だよ」

女は、泣き笑いのような顔で、

「運なんていらない。………普通がいい」

周りに嘘をつき、普通を演じ、下層地区に自ら望んで落ちた。それでも、どんなに普通に憧れても。強大な運は、彼女を放っておかず、勝者へと導く。
宝くじの一等しか当たらない人生。
負けることのない人生。

もし、彼女の運を消す方法があったとしても僕がそれを施す前に『彼女の運』は僕を許さず、躊躇なく殺すはず。

「はい。十万エン。もう遅いし………。今夜は、ゆっくりしていってね。可愛い女の子達も一緒に」


僕が見た彼女は、あの当時と全く同じ。とてもつまらなさそうな顔をしていた。
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