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呪縛
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店に戻り、遅めの風呂に入っていると先ほどのアイツの死に様がぶり返し、吐きそうになった。
目を閉じると少しだけ落ち着いた。
両手を見つめ、深いため息。
この手で人を殺したのは、もう何度目か………。
普通の暮らし、幸せを手に入れる。そんな『普通』ですら、僕には手の届かない夢物語。
項垂れていると、風呂場のドアが急に開いた音で現実にひきもどされた。僕しかいない狭い風呂場にタオルを巻いたメリーザが現れた。
「は、えっ、えっ、何ッ!?」
「一緒に入るって言ったじゃん……」
頬を赤らめ、僕が入っている湯船にスススッと静かに入ってきた。小さな体のメリーザだが、そもそも湯船自体が小さいので二人入るとスペース的な余裕はほぼない。気を付けないと、すぐに肌と肌が触れ合う。
慌てて風呂から上がろうとした。……が、メリーザに両肩を凄い力で押さえ込まれ、立つことが出来ない。出ることを諦め、せめて直視しないようにメリーザに背を向けた。
「メリーザは、性奴隷じゃないよ。こ、こ、こんなことしなくていい」
「………私が好きでやってるから、気にするな」
タオルをとったメリーザが、背中に触れる。柔らかい二つの感触が伝わると、脳にビリビリと細かい電気が走った。
「ニート。さっきは、ありがとう。助けてくれて……。ナタリもあんたに感謝してる」
「うん。でもさ、こんなことをして欲しくて助けたわけじゃない。だから。もう風呂出るよ」
慌てて、湯船から出る。
今度は、メリーザに邪魔されなかった。
「そんなに私とヤるの嫌なんだ。もしかしたらお前、男が好きなの?」
「違うよ。それにメリーザが嫌なわけでもない。ただ………ごめん。これ以上は………ごめん」
僕は、振り返らずに風呂場を後にした。
忘れよう。
でも決して、忘れられない。
昔、あの女達に性的なイジメを受けていた頃のキツすぎる記憶が容赦なく襲い、寒くもないのに全身が震えた。
すぐに布団に入り、寝ようと努力して数時間ーーー。いまだに睡魔は、訪れない。
「っ!?」
布団に入ってくる二つの存在。見なくても誰かは分かった。
「さっきは、ごめん。お前の気持ちも考えないで……。ごめんなさい」
メリーザは、泣いていた。
「ご主人様……。私達の心と体は、アナタのものです。二度と困らせることはしないので……だか…ら……。だから、私たち…………捨てない…で……」
ナタリも泣いていた。
「こっちこそ、ごめん」
この涙の意味は?
分からない。
だけど自分の頬を流れる気持ちが止まらなかった。二人を抱き寄せる。二人は、子猫のように僕に身を委ねてきた。
「これは、僕の独り言なんだけど」
僕は、『過去』の闇を吐き出した。今まで誰にも話したことのないツラい過去。
僕がまだ声変わりすらしていない子供だった頃、町に唯一あった市民学校に通っていた。ちょうど親が遺してくれた雑貨店を継ぐ決意をし、色んな知識をとにかく蓄えたかった。
でも、それは最大の選択ミス。
あんな学校に行ったから、僕はあの女達に毎日のようにイジメられた。でも体の痛みは我慢できた。ある日、学校で性教育を受け、僕の体に興味を持った女達は、僕にムリヤリ安い媚薬を飲ませ、毎日のように僕を性のはけ口にした。全く好きじゃない女達と何時間も馬乗りにされる毎日。生き人形のようだった。やりすぎて、下半身から血が出たこともある。
一年後、卒業した女達は、
「お前も毎日、性処理出来て良かったね~。だからさ~、 ありがとうございましたって言えよ」
「……………」
「早く言え、ノロマ。もし言わなきゃ、お父様にお前に犯されたって言うからな。ヤったのは事実だし。警察に逮捕されたら、あのボロ店も流石に終わりだろうなぁ~」
下卑た笑い声。
「………ありがとうございました」
「うん。私さ、来週ハルコンに引っ越すんだ。だから、もう二度とお前に会うことはない。助かったよ~、お前のその惨めな顔を見なくてすむからな~」
「………………………」
その夜、見よう見真似で忘却香を作った。このままでは、憎しみであの女を殺してしまうから。
忘却香の効果で二年くらいは呪縛から解き放たれた。でも次第にその効果が薄れ、今では最高級、高濃度の忘却香でも一時間も忘れることが出来ない。それほど根深く、今も僕を支配する闇。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……だから、メリーザやナタリが嫌いとかじゃなく…て……ごめん……」
僕の話を静かに聞いていた二人は、両サイドから僕を優しく抱き締めてくれた。母親に甘えた記憶のない僕は、二人の胸の中で赤ん坊のように甘え、泣き続けた。
目を閉じると少しだけ落ち着いた。
両手を見つめ、深いため息。
この手で人を殺したのは、もう何度目か………。
普通の暮らし、幸せを手に入れる。そんな『普通』ですら、僕には手の届かない夢物語。
項垂れていると、風呂場のドアが急に開いた音で現実にひきもどされた。僕しかいない狭い風呂場にタオルを巻いたメリーザが現れた。
「は、えっ、えっ、何ッ!?」
「一緒に入るって言ったじゃん……」
頬を赤らめ、僕が入っている湯船にスススッと静かに入ってきた。小さな体のメリーザだが、そもそも湯船自体が小さいので二人入るとスペース的な余裕はほぼない。気を付けないと、すぐに肌と肌が触れ合う。
慌てて風呂から上がろうとした。……が、メリーザに両肩を凄い力で押さえ込まれ、立つことが出来ない。出ることを諦め、せめて直視しないようにメリーザに背を向けた。
「メリーザは、性奴隷じゃないよ。こ、こ、こんなことしなくていい」
「………私が好きでやってるから、気にするな」
タオルをとったメリーザが、背中に触れる。柔らかい二つの感触が伝わると、脳にビリビリと細かい電気が走った。
「ニート。さっきは、ありがとう。助けてくれて……。ナタリもあんたに感謝してる」
「うん。でもさ、こんなことをして欲しくて助けたわけじゃない。だから。もう風呂出るよ」
慌てて、湯船から出る。
今度は、メリーザに邪魔されなかった。
「そんなに私とヤるの嫌なんだ。もしかしたらお前、男が好きなの?」
「違うよ。それにメリーザが嫌なわけでもない。ただ………ごめん。これ以上は………ごめん」
僕は、振り返らずに風呂場を後にした。
忘れよう。
でも決して、忘れられない。
昔、あの女達に性的なイジメを受けていた頃のキツすぎる記憶が容赦なく襲い、寒くもないのに全身が震えた。
すぐに布団に入り、寝ようと努力して数時間ーーー。いまだに睡魔は、訪れない。
「っ!?」
布団に入ってくる二つの存在。見なくても誰かは分かった。
「さっきは、ごめん。お前の気持ちも考えないで……。ごめんなさい」
メリーザは、泣いていた。
「ご主人様……。私達の心と体は、アナタのものです。二度と困らせることはしないので……だか…ら……。だから、私たち…………捨てない…で……」
ナタリも泣いていた。
「こっちこそ、ごめん」
この涙の意味は?
分からない。
だけど自分の頬を流れる気持ちが止まらなかった。二人を抱き寄せる。二人は、子猫のように僕に身を委ねてきた。
「これは、僕の独り言なんだけど」
僕は、『過去』の闇を吐き出した。今まで誰にも話したことのないツラい過去。
僕がまだ声変わりすらしていない子供だった頃、町に唯一あった市民学校に通っていた。ちょうど親が遺してくれた雑貨店を継ぐ決意をし、色んな知識をとにかく蓄えたかった。
でも、それは最大の選択ミス。
あんな学校に行ったから、僕はあの女達に毎日のようにイジメられた。でも体の痛みは我慢できた。ある日、学校で性教育を受け、僕の体に興味を持った女達は、僕にムリヤリ安い媚薬を飲ませ、毎日のように僕を性のはけ口にした。全く好きじゃない女達と何時間も馬乗りにされる毎日。生き人形のようだった。やりすぎて、下半身から血が出たこともある。
一年後、卒業した女達は、
「お前も毎日、性処理出来て良かったね~。だからさ~、 ありがとうございましたって言えよ」
「……………」
「早く言え、ノロマ。もし言わなきゃ、お父様にお前に犯されたって言うからな。ヤったのは事実だし。警察に逮捕されたら、あのボロ店も流石に終わりだろうなぁ~」
下卑た笑い声。
「………ありがとうございました」
「うん。私さ、来週ハルコンに引っ越すんだ。だから、もう二度とお前に会うことはない。助かったよ~、お前のその惨めな顔を見なくてすむからな~」
「………………………」
その夜、見よう見真似で忘却香を作った。このままでは、憎しみであの女を殺してしまうから。
忘却香の効果で二年くらいは呪縛から解き放たれた。でも次第にその効果が薄れ、今では最高級、高濃度の忘却香でも一時間も忘れることが出来ない。それほど根深く、今も僕を支配する闇。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……だから、メリーザやナタリが嫌いとかじゃなく…て……ごめん……」
僕の話を静かに聞いていた二人は、両サイドから僕を優しく抱き締めてくれた。母親に甘えた記憶のない僕は、二人の胸の中で赤ん坊のように甘え、泣き続けた。
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