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6 悪者
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悪者退治がパパの予想より早く終わると、暇な時間が私には残る。
私の部屋にある暇潰しの道具は、お人形と本が二冊だけ。
あっ!
お菓子の残りが少ないから、大事に食べなきゃ……。パパにまた頼まないといけない。
私は、チョコ味の飴を舐めながら、何度も読んだ本をまた最初から読み始めた。主人公の女の子が、無人島で暮らす話。でも、なぜか最後の数枚が破られていた。だから女の子が海を見つめ、何かを言おうとしている場面で話は終わっていた。
「…………」
本を閉じ、私は真っ白な床に寝転がった。手足をバタバタ動かす。海で泳ぐフリ。
海。見たことない。きっと、私の想像を越えたもの。
「海……見たいな」
パパは、この部屋から出ることを絶対に許さない。だから私は、死ぬまでこの部屋にいるしかない。その事を考えると胸が痛くなった。たまに目から涙も出る。
これって、体の病気かな?
今度パパに言って、お医者さんに診てもらわないと。
「……………」
天井には、黒いスピーカーとこの部屋の空気を浄化する装置が設置されている。
部屋の前方には、扉がーー
本気を出せば、あの扉ぐらい破壊出来そう。そうしたら、外の世界を見れる。
ダメダメッ!
パパを困らせちゃダメ。それに外は、危ないし。
もう………考えるのはよそう。私は、今のままでも十分幸せなんだから。
ビーーーーーーーッ!!
ビーーーーーーッ!!
今まで聞いたことのない音が、白い部屋に響いた。
なんだろう………。
「パパ? 何、この音」
返事がない。スピーカーからは、遠くで誰かが怒鳴っている声。あと、足音が聞こえる。
しばらくして、パパの声がした。
「部屋から出なさい」
「えっ!?」
「早く出て、あの悪者を殺すんだ」
「でも……パパ。部屋の外は危険だから、前にダメだって」
「いいから早く出ろ! そして、殺せ。それが、お前なんだから」
パパ……。すごく怒っている。
私は、産まれて初めて外の世界を裸足で歩いた。
ペタペタ………
ペタペタ…………
想像じゃない。これが、リアルな世界。
すごく興奮していた。地面から、足が少し浮いているようなフワフワした感覚。頭が痺れ、全身が震えた。
見たことのない、変わった機械がそこにも……あそこにも。
暗い廊下をドキドキしながら進むと、何度も走っている人にぶつかった。
「あっ………ごめんなさい」
すっごく睨まれた。みんな大変そう。
きっと、パパが言っていた悪者退治で忙しいんだね。
「これが、外の世界…………」
少しホコリっぽいけど、面白い。
皆の邪魔をしたら悪いから、私はなるべく壁のそばを静かに歩いた。
薄い壁から誰かの悲鳴が聞こえた。一人や二人じゃない。もっとたくさん。
「…………………臭い」
もう何も聞こえない。だけど、今は私が嫌いなアノ臭いがする。
狭い通路の角を曲がると、綺麗な女の人が立っていた。その人の両手からは、血がタラタラと流れている。この人の血じゃない。良く見ると赤い床には、首や手足がない人が何人も転がっていた。
「私を殺しに来たの?」
パパが言っていた悪者は、きっとこの人。
「はい……」
「可愛い殺し屋ね。ちなみにアナタは、いつからこの施設にいるの?」
「…………産まれた時から」
「ふ~ん。私は、5歳からだよ。もう15年以上、ここにいる。じゃあ、アナタも【最終段階】まで進んでいるわね……。今まで、この地獄から逃げたいと思わなかったの?」
地獄………。
「地獄は、外の世界でしょ? 危険がいっぱい」
「それは、違うよ。外は、素晴らしい世界だよ。毎日毎日、罪のない少女を生体実験してる。こんな場所こそ、地獄じゃない?」
「違うっ!!」
シュッッ!!
私は、目の前の女の胸に腕を突き刺した。
後ろから、パパの声がする。早く殺せと怒鳴っている。女に腕を掴まれ、少しも抜くことが出来ない。今までの悪者とは全然違う。獣みたいに醜くならないし。
「アンデッド……。あなたは、こんな場所にいたらダメだよ」
頭をゆっくり、撫でられた。
私に触れた人間は、あなたが初めて。
「………悪者のくせに」
どうして。
どうしてーーーーーー
こんなにあなたは、優しいの?
女は、私の頭を撫でながら静かに死んだ。微笑んだまま。こんなに綺麗な死に顔は、今まで見たことがない。
「良くやったっ!!偉いぞ。 ご褒美に、お前の大好きなケーキをあげよう。大きい苺をたくさん乗せて。だから、ほら。パパと一緒に部屋に戻るよ」
「…………………」
本の中の女の子。今なら彼女が海を見つめ、何を言おうとしていたのか分かる。
「生きたいの。だから私は、外に行く」
「なに? はぁ………。お前もか………。どいつもこいつも不良品ばかりだ」
ごめんね、パパ。私ね、もうあの部屋には戻らない。
だから、邪魔しないで。
お願いします。
白くて大きな施設を出た。初めて、土の上を裸足で歩く。チクチクした。
甘い花の香り……。虫の声………。眩しい太陽。手が届かない青空。
私を待っていたかのように、外の世界はこんな私を受け入れてくれた。まだ鼻の奥に残っているパパやその他の血の臭い。私は深呼吸して、過去と一緒にそれらを全て吐き出した。
「………………」
あの女の人にも見せてあげたかった。この景色を。
私が殺してしまったから、もう叶わない。
「ごめんなさい」
道の真ん中に黒い車が停まっていて、白髪の男が私を手招きしている。
「お嬢ちゃん。君が、あの有名な生物兵器かい? 世界を滅ぼす悪魔の子」
「アナタは、悪い人?」
「そうだよ。僕はね、君みたいな兵器を戦争の道具として利用するために来たんだ。潜在的な戦闘力に加えて、触れた者をゾンビ化する呪われたその体。敵国の脅威になるのは間違いない!」
パパ………私ね。今、やっと分かったよ。
「ようこそ地獄へ」
私が一番の悪者なんだってーーーーー
私の部屋にある暇潰しの道具は、お人形と本が二冊だけ。
あっ!
お菓子の残りが少ないから、大事に食べなきゃ……。パパにまた頼まないといけない。
私は、チョコ味の飴を舐めながら、何度も読んだ本をまた最初から読み始めた。主人公の女の子が、無人島で暮らす話。でも、なぜか最後の数枚が破られていた。だから女の子が海を見つめ、何かを言おうとしている場面で話は終わっていた。
「…………」
本を閉じ、私は真っ白な床に寝転がった。手足をバタバタ動かす。海で泳ぐフリ。
海。見たことない。きっと、私の想像を越えたもの。
「海……見たいな」
パパは、この部屋から出ることを絶対に許さない。だから私は、死ぬまでこの部屋にいるしかない。その事を考えると胸が痛くなった。たまに目から涙も出る。
これって、体の病気かな?
今度パパに言って、お医者さんに診てもらわないと。
「……………」
天井には、黒いスピーカーとこの部屋の空気を浄化する装置が設置されている。
部屋の前方には、扉がーー
本気を出せば、あの扉ぐらい破壊出来そう。そうしたら、外の世界を見れる。
ダメダメッ!
パパを困らせちゃダメ。それに外は、危ないし。
もう………考えるのはよそう。私は、今のままでも十分幸せなんだから。
ビーーーーーーーッ!!
ビーーーーーーッ!!
今まで聞いたことのない音が、白い部屋に響いた。
なんだろう………。
「パパ? 何、この音」
返事がない。スピーカーからは、遠くで誰かが怒鳴っている声。あと、足音が聞こえる。
しばらくして、パパの声がした。
「部屋から出なさい」
「えっ!?」
「早く出て、あの悪者を殺すんだ」
「でも……パパ。部屋の外は危険だから、前にダメだって」
「いいから早く出ろ! そして、殺せ。それが、お前なんだから」
パパ……。すごく怒っている。
私は、産まれて初めて外の世界を裸足で歩いた。
ペタペタ………
ペタペタ…………
想像じゃない。これが、リアルな世界。
すごく興奮していた。地面から、足が少し浮いているようなフワフワした感覚。頭が痺れ、全身が震えた。
見たことのない、変わった機械がそこにも……あそこにも。
暗い廊下をドキドキしながら進むと、何度も走っている人にぶつかった。
「あっ………ごめんなさい」
すっごく睨まれた。みんな大変そう。
きっと、パパが言っていた悪者退治で忙しいんだね。
「これが、外の世界…………」
少しホコリっぽいけど、面白い。
皆の邪魔をしたら悪いから、私はなるべく壁のそばを静かに歩いた。
薄い壁から誰かの悲鳴が聞こえた。一人や二人じゃない。もっとたくさん。
「…………………臭い」
もう何も聞こえない。だけど、今は私が嫌いなアノ臭いがする。
狭い通路の角を曲がると、綺麗な女の人が立っていた。その人の両手からは、血がタラタラと流れている。この人の血じゃない。良く見ると赤い床には、首や手足がない人が何人も転がっていた。
「私を殺しに来たの?」
パパが言っていた悪者は、きっとこの人。
「はい……」
「可愛い殺し屋ね。ちなみにアナタは、いつからこの施設にいるの?」
「…………産まれた時から」
「ふ~ん。私は、5歳からだよ。もう15年以上、ここにいる。じゃあ、アナタも【最終段階】まで進んでいるわね……。今まで、この地獄から逃げたいと思わなかったの?」
地獄………。
「地獄は、外の世界でしょ? 危険がいっぱい」
「それは、違うよ。外は、素晴らしい世界だよ。毎日毎日、罪のない少女を生体実験してる。こんな場所こそ、地獄じゃない?」
「違うっ!!」
シュッッ!!
私は、目の前の女の胸に腕を突き刺した。
後ろから、パパの声がする。早く殺せと怒鳴っている。女に腕を掴まれ、少しも抜くことが出来ない。今までの悪者とは全然違う。獣みたいに醜くならないし。
「アンデッド……。あなたは、こんな場所にいたらダメだよ」
頭をゆっくり、撫でられた。
私に触れた人間は、あなたが初めて。
「………悪者のくせに」
どうして。
どうしてーーーーーー
こんなにあなたは、優しいの?
女は、私の頭を撫でながら静かに死んだ。微笑んだまま。こんなに綺麗な死に顔は、今まで見たことがない。
「良くやったっ!!偉いぞ。 ご褒美に、お前の大好きなケーキをあげよう。大きい苺をたくさん乗せて。だから、ほら。パパと一緒に部屋に戻るよ」
「…………………」
本の中の女の子。今なら彼女が海を見つめ、何を言おうとしていたのか分かる。
「生きたいの。だから私は、外に行く」
「なに? はぁ………。お前もか………。どいつもこいつも不良品ばかりだ」
ごめんね、パパ。私ね、もうあの部屋には戻らない。
だから、邪魔しないで。
お願いします。
白くて大きな施設を出た。初めて、土の上を裸足で歩く。チクチクした。
甘い花の香り……。虫の声………。眩しい太陽。手が届かない青空。
私を待っていたかのように、外の世界はこんな私を受け入れてくれた。まだ鼻の奥に残っているパパやその他の血の臭い。私は深呼吸して、過去と一緒にそれらを全て吐き出した。
「………………」
あの女の人にも見せてあげたかった。この景色を。
私が殺してしまったから、もう叶わない。
「ごめんなさい」
道の真ん中に黒い車が停まっていて、白髪の男が私を手招きしている。
「お嬢ちゃん。君が、あの有名な生物兵器かい? 世界を滅ぼす悪魔の子」
「アナタは、悪い人?」
「そうだよ。僕はね、君みたいな兵器を戦争の道具として利用するために来たんだ。潜在的な戦闘力に加えて、触れた者をゾンビ化する呪われたその体。敵国の脅威になるのは間違いない!」
パパ………私ね。今、やっと分かったよ。
「ようこそ地獄へ」
私が一番の悪者なんだってーーーーー
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