NG-Days

カラスヤマ

文字の大きさ
上 下
9 / 20

⑨訪問者

しおりを挟む
普通の平和な日常が戻り、やっと悪夢でうなされなくなった頃、僕のボロ家を訪ねてきた人間がいた。短パン姿のモデル体型の女性だった。黒龍を模した仮面を被っており、素顔は分からない。腰に短銃を発見し、緊張が走った。

「突然、お邪魔してすみません。私、ハルミと申します。タワーの警備責任者を任されています。………現在、前田様が一階のフロアマスターとなっています。ご存知ですよね?  それなのに、どうしてまだこんなごみ溜にいるんですか?  早くタワーにお戻り下さい」

「どこで何しようと僕の勝手だろ。アナタに指図される覚えはないし。そもそもフロアマスター? そんなワケ分からないものになった覚えもないし。勝手に決めないでくれよ」

「……………私の説明不足でした。大変申し訳ありません。そもそもあのタワーはですね、フロアごとに基本的に選ばれた者が一人で支配しています。一人一人、彼らがタワーを支える大きな柱なのです。ワンフロアでも不在になりますと、タワー全体の力のバランスが崩れてしまいます。……ですから、前田様。お戻り下さい。お願いします!」

この女性は、先ほどから何かにひどく怯えている。小刻みに震えていた。僕が拒否する度に、彼女の『運』がその体から蛇口全開の水道のように漏れだしていた。

つまり、それは彼女が着実に死に近づいているということで。僕を連れて戻らないと、彼女は間違いなく誰かに処刑されることを示唆していた。

「分かったよ………」

しぶしぶ了解した僕は、あのタワーに戻る条件をいくつか彼女に提示した。町の人をこれ以上虐げないこと。それと、僕と一緒にネムと鮎貝を僕の世話役として連れていくこと。この二つは、絶対に譲らなかった。

次の日。朝早く。
約束の時間、30分前。

僕は、タワー入口で手を擦り合わせながら二人を待っていた。簡単な話だけして、最終的な判断は二人に任せた。
危険なこのタワーに好き好んで住む人間はいない。あの悪夢のゲーム。殺戮の噂は、町中に広まっていた。

今もタワー内部は、死の香りで満ちている。強制なんか出来るわけない。……………でも本音を言うと、一緒についてきて欲しかった。僕自身、本当は恐くて恐くて仕方なかったから。

ザッ……。
ザッ………。

小さな足音と可愛い欠伸。思わず、頰が緩んだ。

「ふぁ~~…………眠いぃ。なんで、こんな時間を指定するんだよぉ」

「おはようございます。前田さん」

涙が出るほど嬉しかった。実際、少し泣いていた。

「あり…が…とう…………。ほんと、ごめんな。巻き込んで」

「前に言ったろ? ダーリンと一緒なら地獄も天国に変わるって。だから、そんな情けない顔するなよ。フロアマスターさん」

「私達は、大丈夫ですから。前田さんのやりたいように盛大に暴れ狂ってください!」

「…えっ………いや、暴れないよ? なんか、勘違いしてない?」

三人仲良く、横一列でタワー内部に入った。相変わらず、目が眩むような白さと異常なほどの清潔さ。

ここが、新しい我が家。これからどうなるんだろう。

「ねぇ、ねぇ。ダーリン。このベッド広いから三人で寝れるね! ひゃっほーーー!!」

「男の子と一緒に寝るのは、ちょっと……(チラッ)」


この二人の笑顔だけは死んでも守ろうと、前任者、あの女性が亡くなった部屋で静かに誓った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

裏アカ男子

やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。 転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。 そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。 ―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

魔獣っ娘と王様

yahimoti
ファンタジー
魔獣っ娘と王様 魔獣達がみんな可愛い魔獣っ娘に人化しちゃう。 転生したらジョブが王様ってなに? 超強力な魔獣達がジョブの力で女の子に人化。 仕方がないので安住の地を求めて国づくり。 へんてこな魔獣っ娘達とのほのぼのコメディ。

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

処理中です...