NG-Days

カラスヤマ

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②狂った世界

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【この世界では、運のない者は悪と見なされ、生き残れない。運のある者だけが、正義。価値ある存在】


狂ってる。それでも僕達は、そんな世界でまだ『生』にしがみついていた。


僕たち負け組は、ドブネズミと仲良く暮らすしかない。……ちなみに昨夜、また耳をネズミに噛られましたよ。

「…………は…ぁ……」

不運にもトラックにはねられ、死亡した僕は、天国でも地獄でもなく、この異世界に転生? していた。前世の記憶は確かにあり、昨日のことのように思い出すことが出来る。

まぁ……死んでしまったのなら仕方ない。両親を早くに亡くし、親戚の家をたらい回しにされていた僕を悲しむ人間もいないだろう。

唯一、僕の死を悲しむとしたら、可愛がっていた愛猫くらいか……。
僕にだけは、懐いてくれたし。


「はぁ………会いたいな」

「相変わらず、しみったれた顔してるなぁ。気持ちの悪い男……」

「別にいいだろ。この人生に絶望してんだ。ほっといてくれ」

僕の前まで来た猫耳娘は、激しく体を反転させ、それに伴い鞭のようにしなった尻尾が右頬を容赦なくビンタした。

「ぃ、痛ってっ!  いきなり、何すんだ!!!  ふざけんな、バカ」

顎をその細い指先でつままれた。激しい殺気。恐くて、相手の顔をまともに見れない。

「バ……なに? もう一度、言ってくれませんかね」

「………ごめんなさい」

「もう…………。はぁ~~。勘違いしないでよ。私はさ、ダーリンにはもう少ししっかりして欲しいだけなんだ。心配してるんだからね?」

「う…ん……。分かってる。もうすぐ朝飯の準備が出来るから。また、食ってくだろ?」

「もっちろん!!」

何とか、死を回避した僕は、いつものように猫耳娘のネムと一緒に朝飯を一緒に食べた。ネムの家は近所で、頻繁に僕の家に遊びに来ていた。…………やはり、猫には好かれるタチらしい。

家の外はいつもと違い、祭りのように人で溢れていた。

そうか……。今日は、『あの日』だった。アイツらが、地上に降りてくる日。最悪なイベントデー。



【運試しジャンケン】


実は、最下層の僕たちにも一年に一度だけ現状を打開出来る、起死回生のチャンスが用意されている。

雲より高いタワーから、使者がやってきて、僕たちの運を試す。勝てば、人生逆転。その瞬間から、幸福な未来が約束される。でも負けの代償も大きく、今度は下層地区に落とされるだけじゃ済まされない。負ければ………確実な『死』。その場で殺される。

それでも今、使者の前には長蛇の列が出来ていた。


「次……」

パン!!


「次…………」


パン!!

「次、次、次」


パン!!    パン!!   パン!!

ゾンビゲームのように簡単に頭を撃ち抜かれた人間が、そこら中に転がっている。亡骸を面倒臭そうにゴミ収集車に乗せる奴隷二人。その様子を煙草を吸い、笑いながら見ている2メートル近い長身の男。

恐くなったのだろう。僕の側にいたネムが、小さく震えていた。


「大丈夫?」

「こわぃ………。今もチビり中。ねぇ、ダーリン。私達って人間じゃないの?」

「人間だよ。人間じゃないのは、アイツの方。それより、パンツ替えたら?」

僕にいつも余ったパンを分けてくれる、優しいパン屋の主人が引きずられ、僕達の前を運ばれていく。

「………ほんと………糞だな。この世界は」

僕は、列の最後尾に並んだ。

「ダメッ!! 殺される。何、考えてんだよ、このバカッ!!」

「大丈夫だよ」

「私を1人にしないで!  これから誰が私の面倒を見るの? 食事に洗濯……その他諸々。もうっ!!」

「……………それくらい、自分でやってください」


僕の体から、泣きつくネムを強引に引き離す奴隷。

「一度列に並んだら、逃げちゃダメねぇ」

「僕は、逃げませんよ」


やっと、順番が来た。

「お前が最後か………。結局、今年も勝てる人間はナシ。分かっていたことだが、やっぱりお前らは、クズだ! 生きる価値のないゴミ。ゴミが、人間になろうとするんじゃねぇよ!!」

使者が吐いた唾が、僕の破けたズボンにかかった。


「なんだ……お前。ヘラヘラ笑いやがって。ぶち殺すぞ、貴様」

「久しぶりに…………『運』を解放しよう」


曇天。

冷たい雨が降ってきた。

この場には、使者と僕。奴隷二人に友達のネム。あとは、野次馬13人。


雷鳴。

「1億分の1以下……。お前に雷が落ちる確率。運があるなら、回避してみ?」

「何を言っ」


ビッッーーーーーッーーー。




「はい。僕は、パー。………グーしか出せないアナタの負けだよ」



この世界は、焦げ臭い。吐き気がする。
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