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虚しい飲み会

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………やっぱり来なきゃ良かった。

瑠璃に誘われて来た飲み会という名の合コンは小さなカフェを貸し切った立食形式のものだった。

どうやら今回の飲み会の主催者側にカフェのオーナーと知り合いの人がいて、安く提供してくれる事になったらしい。

会費の安さからは想像出来ないくらいの美味しそうな料理が並んでいる。

パッと見た感じだと和洋折衷何でもありの創作料理って感じね。
前菜からメイン、デザートまで食べやすい様に小振りに仕上がった料理の数々を見て女の子達が目を輝かせている。

店内の雰囲気もソファ席が所々に配置され、淡い間接照明に照らされ良いムードになっていた。

飲み会が開始され、すでに1時間。ざっと見回してみても既に数組のカップルが出来、ソファ席で談笑していたり、何人かの男女が輪になって笑いながらお酒を飲んだりしている。

………今日の合コンは当たりなんだろうなぁ………

私はそんな事を考えながら、料理を数種お皿に取ると一人窓際に置かれたソファへ向かい座るとボンヤリと外を眺めていた。

窓からは、ライトに照らされた木々が水面に写り、時折風で波紋が作られ水面がキラキラと輝いて見える。

飲み会が始まってから数人の男性に声を掛けられたが、私のあまりに素っ気ない態度にいつしか声を掛ける人はいなくなった。誰だって愛想の良い女性と話していた方が楽しいし、魅力的だろう。
合コンであれば尚更話しやすい女性に男性が群がるのは必然だ。

………廉も私がもっと素直で可愛い性格をしていたら振り向いてくれたのかな………

廉を忘れて次に進む為に参加したはずなのに、結局廉の事を考えてしまっている。

そろそろ帰ろうかな………


「ここから見る景色も素敵ですね。紅葉した木々が水面に写って、とっても綺麗だ。」

突然かけられた言葉に思わず振り向くと、一人の男性が立っていた。
淡いブルーのシャツにベージュのチノパンを合わせただけのシンプルな格好なのに妙に様になっているのは、スラッとした体型のせいだろう。でも程良く筋肉がついているのか軟弱な印象は受けない。
緩くパーマをかけた焦げ茶色の髪に優しそうな目元は、はっきり言ってイケメンの部類に入る。
先ほどまで数人の女子に囲まれて談笑していた筈の男が目の前にいる。

………なぜ、私のところに来たよ?

彼を狙っていたと思われる女子達からの冷たい視線が突き刺さる。

逃げたいが逃げられない………

たまたま座ったソファ席は奥まった所にあり、この男が完全に退路を塞いでいる状態だ。退いてもらわないと出られない。

こんな一番奥のソファ席なんて座らなきゃ良かった。今更後悔しても遅いが………

「あの。隣座ってもいいですか?」

………ここでダメとは言えないよなぁ………
適当に話を合わせ、さっさと退散してもらおう。

「どうぞ。」

私はソファ席の端に移動し隣を開けると話しかけて来た男がゆっくりと座る。
その拍子に、思いの外沈み込んだ座面にバランスを崩し男の方へ倒れ込んでしまった。

「あっ‼︎」

そんな私を難なく抱き留めた彼に私は慌てふためく事となった。

「…ご…ごめんなさい!」

「大丈夫ですか?このソファ、結構フカフカしてるから仕方ないですよ。」

………見知らぬ人に抱きついてしまった。

ゆっくり体を起こしてくれた彼を見つめ恥ずかしさで顔から火が出る。

「本当にごめんなさい。倒れ込んじゃうなんて…本当にすいません。」

横に座った彼に頭を下げ気づいてしまった。

………嘘…汚しちゃった。

彼のブルーのシャツには、私が持っていたお皿に残った料理のソースが飛び散っていたのだ。

「嘘…やだ、どうしよう。ごめんなさい!服染みになっちゃった。」

慌てて持っていたハンカチで染みを拭くが取れる気配はない。

「あっ、大丈夫ですよ。これくらいの染み大した事ないですから。」

「でも、それじゃ余りにも申し訳ないです。クリーニング代出しますから。」

カバンから財布を取り出そうとした私の手を彼がやんわりと掴む。

「本当に大丈夫ですから。気にせずドカッてソファに座った俺も悪いですから。
あれじゃ貴方がバランスを崩すのも無理ない。気にしないでください。」

「でも………」

「じゃあ、こうしましょ。
俺と一回デートしてください。それでチャラにしませんか?」

「えっ⁇えぇぇぇぇ………私とですか?」

「はい。」

「………私、無口だし気の利いた事も楽しい会話も出来ないと思いますよ。たぶんつまらないデートになると思いますが。
わざわざ私ではなく、可愛らしい女性がたくさんいると思いますけど。」

私はチラッと先程睨んでいた女子達の方へ目配せした。

「あぁ……男に媚び売る女は興味ないんで。」

………左様ですか。

冷たい視線をアチラに投げ、切り捨てる彼の意外な一面を見てふと思う。

この男も一筋縄ではいかないタイプか。

「飲み会が始まってからずっとつまらなそうにしてましたよね。何人かに声かけられていたけどそっけなかったし。
だから、返って興味が湧いたんです。
何で興味もない合コンに参加したんだろうってね。」

「えっ?はぁ、まぁ………
友達に誘われて断り切れずに………」

瑠璃には申し訳ないが、そういうていにしておこう。

「もしかして彼氏がいるから出来るだけ周りと関わらない様にしていたとか?」

………彼氏か………

一瞬、脳裏に廉の顔が浮かぶが慌てて打ち消す。

あれは、彼氏というよりセフレかぁ………

「彼氏がいたら合コンなんて参加してませんよ。」

「じゃあ、俺とデートするのは何の問題もないですよね。あっ、俺…柏木司かしわぎつかさって言います。貴方の名前は?」

今更ながらに名前を言ってなかったのに気づく。

「安城美咲って言います。」

「じゃあ、美咲ちゃんって呼んでいいですか?」

「はぁ…まぁ………」

………この人…意外とグイグイ来るタイプなのぉ………?

まんまと司の術中にはまった美咲は、あれよあれよとデートをすることを承諾させられていた。

その後も話し上手な司のペースに嵌り、結局最後までその場を立ち去る事も出来ず、最寄りの駅まで送られる羽目になっていた。

「じゃあ、また連絡するね。おやすみ美咲ちゃん。」

手を振り颯爽と去って行く司を見送りながらふと思う。

………私、チョロ過ぎじゃないかしら………

まぁ、いっか。
廉を忘れられるかもしれないし………

そんな事を考えながらホームに走り込んできた電車に乗り込んだ。




………時を少し戻したカフェ前………

一台の高級外車を背に一人の男がタバコをくわえ、天を仰いでいた。

道行く人達が、サングラスをかけ物想いに耽ける男をチラチラと眺め囁きあっているがそんな事も気にならないほど、何かを考えている様子。

………合コンかぁ………
美咲がそんな低レベルの飲み会に参加するなんてな。

一緒に歩いていた男は、合コンで知り合った間男と言ったところか………

あの男の事も調べてみる必要がありそうだな。

目を引く容姿の男。
まぁ、女慣れはしてそうだ。

そんな男に美咲を奪われてたまるか。

車に乗り込んだ廉は、美咲の動向を追うべく車を発進させた。
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