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本命彼女現わる
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廉と静香さんは、顔を赤らめたフロアスタッフの女の子に案内され一番奥の席へ着いた。
二人が向かい合って座り、テーブルに置かれていたメニューを廉が手に取り、さりげなく静香さんに渡している。
その流れる様なやり取りからも、二人がよく一緒にご飯を食べに行く間柄だと分かってしまう。
私が立っている厨房横のスペースからは二人のやり取りが余す事なく見てとれる。
静香さんが手に持ったメニューを廉に見せながら何かしらを話、それに彼が頷き返す。二人の目と目が交差し、時折り廉の指先がメニューの上を滑り、静香さんの手とぶつかりそうになる。
そんな細かな動作まで目で追っていた自分に気づき小さくため息を溢す。
………本当、お似合いの二人よね。
「ご注文をお伺い致します。」
頃合いを見て二人の席へ近づき声をかける。
………平常心、平常心………
心の中で念仏の様に唱えながら営業スマイルを顔に貼り付けテーブル横に立っていると。
「ワインを頼みたいのですが、それに合うツマミのお勧めはありますか?」
「お飲みになるのは赤ワインと白ワインどちらになさいますか?」
「いや、まだ決めていないんだが………
静香はどっちがいい?」
「そうねぇ~白ワインかしら………」
………なんだこの恋人同士の様な会話は。
『静香』なんて呼び捨てにしちゃってさ。公私共に深い仲ですってところかしら。さっきから二人が醸し出す柔らかい雰囲気に私の心がドス黒く濁っていく。
まぁ、たまたま話題になった店に入ってみたらちょっと手を出した女が働いていて驚いたが、本命彼女の手前他人の振りをしろってところね。
私を店員としてしか見ていない廉のポーカーフェイス振りに感心してしまう。
「でしたら、朝獲れのスズキを使ったカルパッチョは如何ですか?白ワインにも合うかと思います。もし、赤ワインをお飲みになる様なら、牛の胃袋をトマトソースで煮込んだトリッパもお勧めです。」
「じゃあ、先に白ワインにして、後で飲めそうなら赤ワインにしようか。」
「えぇ。そうしましょう。」
優しい笑顔の静香さんを廉が見つめている。
………やってらんないわ………
これぞ何も知らない本妻と浮気相手の夫を憎悪を込めて見つめる愛人の立ち位置よね。一番タチの悪い男が全く動じていないのが腹立たしいが、波風を立てるつもりはない。
「じゃあ、スズキのカルパッチョとカプレーゼをお願いします。」
「スズキのカルパッチョとカプレーゼですね。お待ちください。」
注文を受け、立ち去る間際に一瞬静香さんと目が合い慌てて逸らす。
………まさか気づいてないわよね?
三年前に一度だけ会った女の事なんて覚えている訳ないか。
私は注文を厨房に伝えると一息つくため、レジ横に移動しチーフに話かける。
「チーフ、申し訳ありません。やっぱり具合が悪いので30分早いですが早退して大丈夫ですか?」
「おいっ。大丈夫かぁ?
さっきも顔色悪かったし早く帰った方がいいぞ。」
「ありがとうございます。」
「あんま無理すんなよ。美咲に休まれると俺達が困るからな。」
「そう言って頂けるとありがたいです。体調治して、明日は元気に出勤しますね。」
「了解。まぁ、無理だったら連絡くれ。」
「わかりました。」
私はチーフに笑いかけ頭を下げ、二階の控え室へと向かった。
そんなチーフとのやり取りを廉がずっと見つめていたなんて気づかずに。
………はぁ…まだ廉は帰って来ないか。
真っ暗な部屋の中、スマホの時計を確認すると夜中の1時を過ぎたところだった。
………寝られない………
バイト先から帰宅して、軽い夕飯を済ませ、お風呂にも入り11時にはベットに入ったが眠れない。
結局のところ廉と静香さんの動向が気になって寝られないのだ。
………二人はあの後、一緒にどこかへ行ったのだろうか?
帰り際、チラッと盗み見た二人は何やら楽しい会話をしているのか顔を寄せ合い笑い合っていた。ワイングラスを重ねる仕草なんて美男美女の二人がやれば様になる。二人を羨望の眼差しで見つめる周りの目も気にならないのか完全に二人の世界だった。
あんなに仲睦まじいカップルなんだもの、食事の後はホテルのバーにでも寄って、そのまま高級ホテルにお泊りかしらね。
廉も私なんかにちょっかい出してないで、さっさと静香さんと結ばれればいいのよ。あの様子だと静香さんも廉の事を少なからず想っているはず。
じゃなきゃ、三年前に私の前に現れてあんな辛辣な事言うはずないもの。
きっと二人は、今夜長年の想いを打ち明け結ばれるんだわ。
そしたら私も廉の性のはけ口から解放されるじゃない。
廉の居なかった生活に戻るだけ………
ギュッと目を瞑ると、一粒涙がこぼれ落ちる。
二回目の失恋になるのかな………
体の関係を持ってしまっただけに三年前よりも辛く感じる。
明日、合コンへ参加すると瑠璃に返事をしよう。
私も前に進まなきゃ………
廉を忘れるために………
二人が向かい合って座り、テーブルに置かれていたメニューを廉が手に取り、さりげなく静香さんに渡している。
その流れる様なやり取りからも、二人がよく一緒にご飯を食べに行く間柄だと分かってしまう。
私が立っている厨房横のスペースからは二人のやり取りが余す事なく見てとれる。
静香さんが手に持ったメニューを廉に見せながら何かしらを話、それに彼が頷き返す。二人の目と目が交差し、時折り廉の指先がメニューの上を滑り、静香さんの手とぶつかりそうになる。
そんな細かな動作まで目で追っていた自分に気づき小さくため息を溢す。
………本当、お似合いの二人よね。
「ご注文をお伺い致します。」
頃合いを見て二人の席へ近づき声をかける。
………平常心、平常心………
心の中で念仏の様に唱えながら営業スマイルを顔に貼り付けテーブル横に立っていると。
「ワインを頼みたいのですが、それに合うツマミのお勧めはありますか?」
「お飲みになるのは赤ワインと白ワインどちらになさいますか?」
「いや、まだ決めていないんだが………
静香はどっちがいい?」
「そうねぇ~白ワインかしら………」
………なんだこの恋人同士の様な会話は。
『静香』なんて呼び捨てにしちゃってさ。公私共に深い仲ですってところかしら。さっきから二人が醸し出す柔らかい雰囲気に私の心がドス黒く濁っていく。
まぁ、たまたま話題になった店に入ってみたらちょっと手を出した女が働いていて驚いたが、本命彼女の手前他人の振りをしろってところね。
私を店員としてしか見ていない廉のポーカーフェイス振りに感心してしまう。
「でしたら、朝獲れのスズキを使ったカルパッチョは如何ですか?白ワインにも合うかと思います。もし、赤ワインをお飲みになる様なら、牛の胃袋をトマトソースで煮込んだトリッパもお勧めです。」
「じゃあ、先に白ワインにして、後で飲めそうなら赤ワインにしようか。」
「えぇ。そうしましょう。」
優しい笑顔の静香さんを廉が見つめている。
………やってらんないわ………
これぞ何も知らない本妻と浮気相手の夫を憎悪を込めて見つめる愛人の立ち位置よね。一番タチの悪い男が全く動じていないのが腹立たしいが、波風を立てるつもりはない。
「じゃあ、スズキのカルパッチョとカプレーゼをお願いします。」
「スズキのカルパッチョとカプレーゼですね。お待ちください。」
注文を受け、立ち去る間際に一瞬静香さんと目が合い慌てて逸らす。
………まさか気づいてないわよね?
三年前に一度だけ会った女の事なんて覚えている訳ないか。
私は注文を厨房に伝えると一息つくため、レジ横に移動しチーフに話かける。
「チーフ、申し訳ありません。やっぱり具合が悪いので30分早いですが早退して大丈夫ですか?」
「おいっ。大丈夫かぁ?
さっきも顔色悪かったし早く帰った方がいいぞ。」
「ありがとうございます。」
「あんま無理すんなよ。美咲に休まれると俺達が困るからな。」
「そう言って頂けるとありがたいです。体調治して、明日は元気に出勤しますね。」
「了解。まぁ、無理だったら連絡くれ。」
「わかりました。」
私はチーフに笑いかけ頭を下げ、二階の控え室へと向かった。
そんなチーフとのやり取りを廉がずっと見つめていたなんて気づかずに。
………はぁ…まだ廉は帰って来ないか。
真っ暗な部屋の中、スマホの時計を確認すると夜中の1時を過ぎたところだった。
………寝られない………
バイト先から帰宅して、軽い夕飯を済ませ、お風呂にも入り11時にはベットに入ったが眠れない。
結局のところ廉と静香さんの動向が気になって寝られないのだ。
………二人はあの後、一緒にどこかへ行ったのだろうか?
帰り際、チラッと盗み見た二人は何やら楽しい会話をしているのか顔を寄せ合い笑い合っていた。ワイングラスを重ねる仕草なんて美男美女の二人がやれば様になる。二人を羨望の眼差しで見つめる周りの目も気にならないのか完全に二人の世界だった。
あんなに仲睦まじいカップルなんだもの、食事の後はホテルのバーにでも寄って、そのまま高級ホテルにお泊りかしらね。
廉も私なんかにちょっかい出してないで、さっさと静香さんと結ばれればいいのよ。あの様子だと静香さんも廉の事を少なからず想っているはず。
じゃなきゃ、三年前に私の前に現れてあんな辛辣な事言うはずないもの。
きっと二人は、今夜長年の想いを打ち明け結ばれるんだわ。
そしたら私も廉の性のはけ口から解放されるじゃない。
廉の居なかった生活に戻るだけ………
ギュッと目を瞑ると、一粒涙がこぼれ落ちる。
二回目の失恋になるのかな………
体の関係を持ってしまっただけに三年前よりも辛く感じる。
明日、合コンへ参加すると瑠璃に返事をしよう。
私も前に進まなきゃ………
廉を忘れるために………
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