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2かぼ!かぼちゃパンツ陛下

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 ランの話は長かった。記憶力が良いのか3年前の口喧嘩の内容まで丁寧にお話ししてくれた。

 纏めると、18歳と言う若さで国王になったアダムと、早く跡継ぎを作って欲しいアダムの祖母が対立。

 20歳になると祖母が公爵家のご令嬢と結婚させようと強硬手段に出てしまう。

 ついに大喧嘩に発展し「自分はまだ子供だから結婚なんて早い」と言ってしまい、優秀な魔法使いでもあった祖母に子供の姿にされてしまった。

 アダムは焦るどころかこれで暫く結婚しろと言われないと安堵したらしい。しかしその2日後、なんと祖母が心臓麻痺で急逝。

 魔法を掛けた本人が他界してしまったのだから解けると思いきや、魔法はまるで呪いのように強かった。

 できる事は全て試したが魔法は解けず、成長すらしていない。
 これは一大事だと思いつく方法は試し続け、他国の文献まで調査し、ようやく呪いを打ち消す奇跡の力を持つと言うコントラーバ国の聖女伝説に行きついた。

 早速コントラーバ王に連絡を取り確認したところ、今の平和なコントラーバには必要ないので出来るならそっちで召喚してもいいよ。と、軽く召喚方法を教えてくれたらしい。

 そうして本来コントラーバの聖女である私はマンドローレへと引き渡された。

「なるほど、それで私をマンドローレに召喚したと……」

「うちの陛下がすみません。なにぶん子供ですので大目に見て頂けませんでしょうか?」

 嘘くさい笑顔を見せたラン。分かりやすい作り笑顔だけど、たった今言ってましたよね?本当のアダムは25歳だって。
 でももう来てしまったものは仕方がない。

「元の世界に帰れます?」

「申し訳ないのですが帰る方法はないそうです。でも、歴代の聖女様達は喜んでコントラーバに骨を埋めたそうですよ」

 異世界だと分かった瞬間、心のどこかで予想は出来ていた。ランに詳しく聞くと、私は日本に最初から存在しなかった事になるので問題はないらしい。
 それを聞いて気がとても楽になった。
 
 格闘技の師範である父はあり得ないほど厳しく、私は幼い頃から男兄弟に囲まれ毎日稽古。

 友人さえも父親に値踏みされた学生時代。
 そしてついこの前、父のお弟子さんを紹介したいとお見合い写真を見せられ、有無を言わさず結婚させられそうな恐怖を感じていた。

 だから祖母からの結婚の勧めを拒んだアダムの気持ちがよく分かる。
 私も子供に戻って結婚から逃げられるなら子供になる方を選ぶわ。全く好きでも好みでもない人と一生添い遂げるなんて無理。

 ここにいれば働かなくても生活の保障もしてくれると言うし、今まで厳しかった分食っちゃ寝宮殿暮らしになると思えば悪くない。むしろ大出世。

 私は早速膝立ちになり、アダムに向き合った。
 青空にサファイアの輝きを散りばめたような美しい瞳から期待が伝わって来る。

 それにしても可愛い。可愛すぎるのよ。あまりの見た目の可愛さについ口元が緩んでしまう。

「やってみるね」

 そうは言ったものの、聖なる力の使い方とやらがサッパリ分からない。

 漫画で見るようにアダムの頭に手を差し出し、大人に戻れと念じてみたが何も起こらなかった。
 直接触れないとダメなのかもしれない。
 そう思い王冠を外し、アダムの頭にポンと手を乗せ力を入れる。

「痛い」

「あ、ごめんね、ちょっと痛かったね」

「なんだその言い方は。子供じゃないと言っているだろう」

「ごめんごめん」

 アダムは怒ったぞアピールをしたいのかぷうっと頬を膨らました。

 はうっ。何この中身25歳。可愛すぎる!普通の大人は頬を膨らませて怒りませんけど?何故そんなわざわざ可愛い顔を!

 心の中でツッコミを入れつつ、思わず頭を撫でる。これは可愛い子供を見た時の衝動のようなものである。

 輝く柔らかなホワイトブロンドの髪の毛は撫で心地も良く、何度も撫でているとミニ陛下は不満そうに口を結び瞳を光らせた。

「ちゃんと解こうとしてる?」

 バレた。

「してんだけどね。そもそもどうやったら解けるのか教えてほしいかな」

「どうやって?」

 ミニ陛下がギロリとランを見ると、ランは困ったように笑った。

「やだなぁ。私に分かる訳ないじゃないですか。聖女様じゃないと」

 ランの言葉にミニ陛下の視線がギロリと私に移る。

「そんな目で見られても私が知る訳ないじゃない」

 言い方が冷たかったのかミニ陛下の口元がへの字になり、拗ねたような表情を見せた。

 そんな可愛い顔をされても分からない物は仕方がない。
 が、わざわざ異世界の人間を呼び出すと言う事は、この世界には無い技術を使うからかもしれない。

 そう考えると、古来から童話やアニメで大人になったり子供になったりするアイテムと言えば怪しい液体や飴が定番だ。

 それが今日は私の上着のポケットに同僚から貰った苺味の飴が入っている。

 普段は貰ってすぐ食べる飴も、聖女であるが故この国に召喚される事を見越し、食べずにポケットに入れていた可能性がある!

 これがキーアイテムに違いない。これでアダムは大人に戻って私は食っちゃ寝暮らし。

「きっとこれだわ!食べてみて」

「ほう」

 大人に戻れと念を込めてから飴を差し出すと、アダムは緊張した面持ちで封を開け、慎重に飴を口に入れた。
 ゆっくりと飴を舐める様子をランと2人で見守る。

「美味ちい」

 飴のせいで舌を噛んだのか赤ちゃん言葉になったアダム。これは母性本能がくすぐられる。

「はぁっ、可愛い!可愛すぎるっ、我慢できん!」

 本能の赴くまま、わしゃわしゃと頭を撫でると、アダムは両手で頭を庇い抵抗した。

「やっ、止めろ!何するんだ」

 必死に抵抗する表情が可愛くてまたキュンとしてしまう。

「だって可愛すぎて」

「可愛いと言うな!しかも全然元の姿に戻らないとはどう言う事だ!」

それだよね。

「もしかしたらと思ったんだけど違ったみたいね。怪しい液体でも作ってみるか……」

「怪しい液体だと?!僕に何を飲ませるつもりだっ」

「トカゲが定番じゃない?適当にそれっぽい怪しい液体を……」

「トカゲ?適当っ?!」

「冗談よ」

 こうして押し問答が続き「全魔力と引き換えに召喚したのに力が使えないなんて詐欺だっ、僕の魔力を返せ!」となった訳で。

 お互い罵り合い、かぼちゃパンツ陛下と名ばかり聖女と言う名称が出来上がってしまったのだった。

「ねぇかぼパン、私は本当に聖女なの?」

「略すな、この名ばかり聖女!僕も今疑っている」

「じゃあ、ラン!私の名前を知っていたけど間違えてない?同姓同名の他人じゃない?私は本当に聖女なの?」

「多分……」

 白百合の君のなんとも歯切れの悪い答えに私もミニ陛下もポカンと口を開けるしか無かった。

「多分かーい……」

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