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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その111 ちぃの行方
しおりを挟む「先生! ちぃの状態は……?」
あのまま病院へと顧問の蒼川先生と向かったちぃ。僕らもそれを追いかけるようにして病院へと向かったのだが……。病室から出てきたのは蒼川先生だけだった。
「蒼崎さんですが……」
いつになく冷酷な表情でそう告げる先生を見て、僕はごくり、と生唾を飲み込んだ。
……こんな先生を見たことがなかったせいか、何故か緊張してしまっていた。
もしかしてちぃは……もうこれ以上、太鼓を叩けない状態になっているのかもしれない。
そうなっていたならば、僕は彼女にどう接すればいいのだろうか……。
そう考える中、先生は「こほん」と咳払いをひとつする。
「……今、トイレに行っているところです」
「……はい?」
トイレ……? ちぃは今、トイレに行っている……だって?
「先生、ちぃちゃんの傷はなんともないんですか……?」
「えぇ。大したケガではなかったようです」
改まって望子先輩が尋ねる。……どうやら僕の思っているよりはるかにマシだったようだ。
僕はその知らせを聞いて、ほっ、と胸を撫で下ろした。
「……ただ、次の試合には確実に出場できませんね」
「え……。じゃあ、次の試合はどうすればいいんですか……!」
と、必死になって訴えかける望子先輩。その様子は、なんだかいつもとは違う雰囲気で僕はびっくりしてしまった。
「路世先輩、どうして望子先輩はあんなに必死なんですか? ちぃが出れないのなら、僕がちぃの分まで太鼓を叩けばいいんじゃないんですか?」
「いいや、それはダメなんだ。大会の規定で、試合に出た者は一度太鼓を叩けばその試合で続けて太鼓を叩くことはできないことになっているんだ」
と、僕にしか聞こえないような声でそう説明してくれる。……だから望子先輩はあそこまで必死になっているのか。
「……というか、ケン後輩。大会規定をよく読まなかったのか?」
「いや……ざっくりとしか読んでなくて……」
あはは……と苦笑する僕に、路世先輩はため息を吐いていた。
「……分かりました。では、こちらで代理を探しておきましょう」
「代理って……試合は明日なんですよ!? そんな早く見つけられるわけ……」
話の腰を折るかのように、蒼川先生はその場を立ち去ろうとする。
「……貴方たちは、今のうちにしっかりコンディションを整えていてくださいね」
そう最後に言い残すと、蒼川先生はその場から去っていくのだった。それと入れ替わるようにちぃがこちらへ向かってくる。
「……すみません、望子さん、路世さん、先輩……。こんなケガしてしまって……」
「ううん。ちぃちゃんは悪くないよ。私と鍵くんだけで、なんとかしてみせるから!」
と、望子先輩はいつもの調子を取り戻していた。しかし……明日の試合、蒼川先生はどうするのだろうか……?
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