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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その47 エントリー

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 その日の放課後。僕たちはとんでもないものを目撃してしまったのだ。

「お、おい! お前たち!」

 くるり、とイスを回転させながら路世先輩は慌てながら僕らに声をかける。
 僕とちぃはいつも通り読書をし、望子先輩は自分の物置となっている部室の押入れの中を整理している真っ最中だった。

「どうしたんですか、路世先輩? そんなに慌てて」

 というか、僕は路世先輩の慌てふためく姿をこの目で初めて見てしまった。
 いつもはクールで冷静な路世先輩だが、こうして慌てている姿は普通なんだなーと僕は思ってしまった。
 ……いや、そりゃ慌てている時にクールな口調で「タイヘンだー」とか言われても、本当に大変なのか疑ってしまうけれども。
 それでも、いつもクールな路世先輩の意外な一面を見れて僕は驚いてしまったのだ。

「これ! これを見てくれ!」

 と、路世先輩はパソコンの画面を指差す。
 僕とちぃは読んでいた本にしおりを挟み、望子先輩は荷物をそのまま放置した状態にして、みんな揃ってパソコンの画面の前へと集まる。
 そこには僕たちのこの前の試合の動画が動画サイトにアップロードされており、更には別のウィンドウには「どん・だー」の予選応募チームの中に僕ら「b’s」の名前までもが記載されていたのだ。

「へー。僕たちのこの前の試合の動画もあがってるし、結局どん・だーには出場するようにしたんですね」

 と、感心しながら僕はそう呟いた。
 きっとこれも望子先輩が単独でやってくれたのだろう。先輩はいつも口に出すより行動するのが先な人だから、今回もつい先にこんなことをしてしまったのだと僕は思った。
 しかし、僕の予想は裏切られ、望子先輩は険しい顔つきでこんなことを口にしたのだ。

「……どうして、私たちがどん・だーに出場するようになってるんだろ?」
「……え? 先輩がやったんじゃないんですか?」

 意外だった。
 この前の結果の嬉しさのあまり、望子先輩が独断で応募したのかと思っていたが……望子先輩ですら、僕らが「どん・だー」の予選に応募していることを知らなかったのだという。

「私はまだ、みんなと話してからにしようと思ってたんだけど……」
「じゃ、一体誰が……?」

 僕はうーん……と唸った。
 心当たりのある人間はすでにこの部室にいるのだが、全員知らないのだ。
 つまり、第三者が僕らを「どん・だー」に出場させようと計画しているということなのだ。
 一体誰が、どんな目的なのか、まったく検討はつかないが、それでも誰かがやっていることには違いなかった。

「それに、この前の練習試合も相手チームもウチも誰もビデオなんて撮ってなかったんだよ? それなのに、どうして動画サイトにこんな動画があがってるんだろ?」

 と、望子先輩は頭を抱えながら、うーん……と唸り始めた。
 つまり、今回の「どん・だー」予選への出場も、練習試合のビデオのアップロードも、すべて望子先輩がやったことではないのだ。
 誰かが試合のビデオを撮り、そして僕らを「どん・だー」へと出場させようと計画を立てているのかもしれない。

「誰がなんの目的かは知らんが……少なくとも、俺たちに危害を加えることはなさそうだな」
「……どうしてそう断言できるんですかね、路世先輩」

 さっきまで驚いていた路世先輩だが、いつの間にかいつものクールな口調に戻っていた。
 しかし、それでも僕にはまったく分からなかった。
 一体誰が、なんのために僕らの試合の動画をアップロードし、更には「どん・だー」予選にまで出場させたのだろうか。
 真相はわからないまま、こうして放課後は過ぎていくのだった。
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