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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その33 忘れ物

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「あ、ケンくん」

 と、終礼が終わり、みんな大好き放課後になったばかりのその時。僕は一夜に声を掛けられる。
 僕は帰る支度を済ませ、そのまま流れるように太鼓部の部室へと向かおうとしていた。

「なんだい、一夜?」
「それがね、今日の昼休みにこれが印刷室にあって……」

 と、一夜が差し出してくるのは一枚の紙だった。
 そこには、僕たちの教科書には載ってないような文が書かれており、いかにも僕らの授業では絶対に習わないような事ばかり書き込まれてあるプリントだった。
 名前の欄にはちゃっかり『赤間 望子』と書き込まれており、完全に先輩の忘れ物だった。

「多分、赤間先輩の忘れ物なんだと思うのだけど……先輩、昼休みに教室に行ってもいなかったから、ケンくんから渡しておいてくれないかしら?」
「あー……また何してるんだろうか、先輩は……。分かった。わざわざありがとね、一夜」

 ため息を吐きながら、僕はそのプリントを一夜から受け取る。やっぱり先輩は、どこか抜けているのだ。
 この前の紗琉との印刷室での出来事もだが、先輩は妙に変わった部分があって、僕も困っている。
 子どもっぽい部分が先輩の取り柄なんだが、少し子ども過ぎて色んな所が抜けて、こうして忘れ物をしたりする事が多い気がする。

「意外ね。赤間先輩って見た目からして、すっごいマジメな人だと思ってたのだけど……」
「僕も初めて会った時、すっごいマジメな人だなーって思ってたんだけど……。部室に入ると、まるで豹変したかのように子どもみたいに無邪気になるんだよ……」

 やはり、先輩の裏の顔を知る人は太鼓部の部員以外知らないようだ。
 僕も入部前は先輩があんな人だとは思ってなかった。入ってからあの無邪気さを知ったのだ。
 きっとちぃも路世先輩も、部活に入るまでは望子先輩の事をマジメな人だと思っていたのだろう。

「そうなのね。でもまぁ、そんな先輩と部活が出来るなんて、何だか楽しそうだわ」
「楽しそうって……毎日のように振り回されるだけだよ……」

 毎日毎日、先輩の好きなように振り回され……楽しいというよりも、疲れるだけだ。
 深いため息を吐く僕を見ながら、一夜はクスリ、と笑みを零した。

「それでも、あんなに部活に入ろうとしなかったケンくんが、こうして毎日部室に行ってるんだから、内心楽しいって思ってるんじゃないの?」
「僕が? まさかぁ……」

 自分ではないとは思うが……でも確かに、一夜の言う通りなのかもしれない。
 一年の時から部活に入ろうとしなかった僕だけど、今はどうしてか毎日のように終礼が終わると部室へと向かう。
 ……もしかすれば僕は、本当に内心部活の時間が楽しいと思っているのだろうか?

「まぁいいや。分かった、先輩にプリントは渡しておくよ」
「あ、うん。お願いね」

 一夜から受け取ったプリントを通学バックの中に仕舞うと、僕は太鼓部室へと向かうのだった。
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