上 下
24 / 142
第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~

その24 カードゲーム②

しおりを挟む

    次の日。先輩はカードをしっかり切り抜き、みんなで遊べるようにしてきた。
    僕のテキストはそのままの状態ではあったが、まぁ今更どうこう言っても仕方ないだろう。

「で、これってどうやって遊ぶんですか?」

     ふと、先輩に問いかける。そもそも、こうしてカードを作ってきたのはいいが、肝心のルールがないと遊ぶに遊べない。
    しかし、先輩はちっちっち、と指を振りながら答えた。

「そこはダイジョーブ! ちゃんとルールは作ってきたよ!」

    と、先輩は自分で作ったカードの束を、テーブルの上に置く。その束から5枚カードを手元に持ってくる。

「まずは、互いにデッキ……このカード40枚の束を用意して、そこから5枚を引いて手札にする。そして、ジャンケンで先行後攻を決めるの」

    なるほど、と僕は相槌を打つ。ゲーム開始までは至ってシンプルだ。初回の手札の違いはあるものの、市販のカードゲームも大体そんな感じでゲームが始まる。

「で、先行からターンが始まって、デッキからカードを引けるんだけど……先行一ターン目はデッキからカードを引くことはできないの」
「めっちゃごく一般的なカードゲームのルールですね」

    先輩一ターン目のドロー。それは完全に先行の圧倒的有利を抑えるものだ。そのため、カードゲームでは先行一ターン目からのドローは禁止されている。

「それで、ドローの処理が終わったら次はメインフェイズに入るの。ここでキャラの登場や、魔法の使用ができるの」

    これもごく一般的なルールだ。このメインフェイズで自分の場にキャラを展開させ、盤面を制圧するのが目的だ。または、魔法などのスペルカードを使って、敵を妨害するというのも手だ。

「でも、キャラの通常召喚は一ターンに一回だけなの。カードの効果で召喚するのはいいけど、手札からポン、って出すのは基本的一回だけ」
「……なんだか、何処かで聞いたことのあるルールですね」

    まぁそれは置いておいて、これもまぁ……基本と言われれば基本か。
    通常召喚は一体までにしておかないと、自在にキャラを登場させ、一気に場を埋め尽くす事が可能だからだ。そのため、先行から盤面を制圧して戦う事が可能になるのだ。そんな制圧ゲーにもならないための配慮だろう。

「それが終わったら、バトルになるの。キャラで相手のキャラか相手自身を攻撃できるけど……先行一ターン目はダメだよー」

    これもそうだ。先行ワンターンキルなんて、もう論外だ。それはゲームとして成り立たない。
    だからこその先行一ターン目の攻撃の禁止だ。そもそも、カードゲームにワンキル要素があってはいけない気がする。

「で、勝敗の付け方はあるんですか?」
「あるよー。相手に5回直接攻撃すれば勝ち。直接攻撃された側は、デッキの一番上のカードを、こうして表にして場に置くの」

    と、先輩はデッキトップからカードをめくり、そのままテーブルに表にして置く。
    つまり、直接攻撃されればデッキの圧縮に繋がるという訳だ。カードが一枚デッキからなくなるとはいえ、逆に考えれば、欲しかったカードをデッキから呼び込みやすくなるというのだ。

「バトルが終わったら、このまま相手にターンを返すの。これで大体の流れはおしまい」
「なるほど。バトル後にメインフェイズをもう1度行う事はないんですね」
「そりゃそうだよー。そんな事してたら、何の為にバトルの前にメインフェイズを用意したのか分かんなくなるじゃん」

    そりゃそうか。そもそも、メインフェイズはバトルと相手ターンでの相手の展開を防ぐために用意された準備の時間だ。メインフェイズを2回も行なえば、バトルと相手ターンの展開用とで分けて使うことができるではないか。
     たまに市販のカードゲームでも、そういうルールのものはあるが、こちらはそれとは違うタイプのようだ。

「どうかな? 大体分かった?」
「そうですね。望子先輩のティーチングが上手くて、とても分かりやすかったです」
「確かに。ルールは単純だが、何だか相手の行動を読みながら戦う感じがいいな」

    太鼓部では大絶賛だった。テキストのチート感は抜いたとしても、このゲームは初めての開発とはいえ上出来だ。

「そ、そう? それじゃ私、生徒会に申請してくるね!」

    と、先輩はぶわっ、と風の様に部室を後にした。
    ……まさか本当に、このカードゲームを学校公認にするのだろうか?

「……大丈夫かな?」

    それから三十分後。先輩がしぶしぶと生徒会室で絞られて帰ってくる姿が確認された。
しおりを挟む

処理中です...