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(圓賢妃が、准后に、なった。)
それは衝撃的な知らせだった。
准后。つまり、皇后の位にこそ就いていないが、それに準じるわけだ。扱いもそれに近い物となるはずだ。
皇后の榮氏には、鳳凰のあしらわれた衣裳を召すことを許されている。赤い、榮氏によくお似合いの物だ。
対する賢妃は、青に鳳凰の衣裳。多分、態と作らせたのであろう。全身を赤系統で纏める榮氏とは違い、襟や袖のみに紋様のある、白い衣裳だった。
「相変わらず、似合わないわね。」
「そんなこと、仰らないで下さい、小姐。」
圓賢妃。そう呼ばれていたのは、つい、この間までのことだった。一時は徳妃で、それが降格した際はとても喜んだが、今回ばかりはそんなことになりそうもない。
皆己のことを圓准后と呼ぶ。一応賢妃のままなのだが、やはり、准后の方がより高貴だからであろう。
「ご機嫌宜しゅう、准后様。」
「ご機嫌麗しゅう。この上なく珍しいことですわね。貴方が此処を訪れるなんて。」
登花宮に参ったのは、圓家当主。准后はそれを眺めていた。
「おめでとうございます。」
「あら。私を嬲りにいらっしゃったのかと思ったけれど、そうでもなさそうですわね。」
「ええ。后におなりですからね。」
溜息をつく。所詮、己の、准后の位にしか、価値はないらしい。
「しかし、邪魔ですな。」
「何が。」
「榮皇后ですよ。」
准后が皇后になる。それにあたり、一番邪魔になるのは、榮氏の存在だ。
「貴方は、何もご存知ではない。榮皇后様が皇后になられたのは、外戚になりうる者がいらっしゃらないから。それが、主上(旲瑓)にとって、都合が宜しいのでしょう。」
当たり障りのないことを言ったはずだ。それ以外に、何を言えば良い。どうせ、皇后になれなかったことに対する、言い訳にしかならないのに。
「なら、何故、榮皇后を潰そうと思わない。」
当主は怒鳴る。
(莫迦ね。)
遥か遠くを眺める様に。彼女は暗い瞳を窓の外に向ける。
(そんなことをしたら、我が圓家は粛清される。そんなことも分からないの?)
「皇后様。こちら、圓准后様からです。」
そう言われて箱から取り出されたのは、見事な錦の反物。
「綺麗ですわ。流石、准后様。」
侍女はうっとりと魅入られている。
「違う。」
「え?」
「これ、准后からではないわ。」
侍女はぽかんと、間抜けに口を開いている。
「香りがする。残り香だわ。准后の気に入っている物とは違う物よ。」
『と、父上様が…………』
侍女が申し訳なさそうに言った。
『勝手なことを!』
圓准后は衣裳をあらためると、すぐに承香宮に向かった。
「榮皇后様にお目にかかります。」
圓准后は榮氏に拝礼する。普段は省く、最も丁寧かつ正式な礼だ。
「どうしたの、准こ………」
「皇后様。わたくしめの名で、よもや、錦なぞ届いておりませんでしょうか。」
「届いていたけれど。これよ。」
榮氏は箱ごと、侍女に持たせた。
「それは、わたくしめがお贈りした物ではあ、りません。どうか、お受け取りにならないで下さいまし。」
榮氏は「やはり」と頷いて、侍女から受け取り、准后の侍女に渡す。
「お騒がせしまして、真、申し訳御座いませぬ。」
榮氏はいいのよ、と首を振る。
だが、准后は暫く、頭を垂れていた。
「何をなさるのかしら。あの人。」
「気をつけねばなりませんね、小姐。」
俐氏は茶を渡す。位が上がっても、いつまでもこうしていたかった。平和に生きてゆきたかった。
それなのに、何故、それを許してくれないのだろう。
人の欲の、なんと恐ろしいことか。
それは衝撃的な知らせだった。
准后。つまり、皇后の位にこそ就いていないが、それに準じるわけだ。扱いもそれに近い物となるはずだ。
皇后の榮氏には、鳳凰のあしらわれた衣裳を召すことを許されている。赤い、榮氏によくお似合いの物だ。
対する賢妃は、青に鳳凰の衣裳。多分、態と作らせたのであろう。全身を赤系統で纏める榮氏とは違い、襟や袖のみに紋様のある、白い衣裳だった。
「相変わらず、似合わないわね。」
「そんなこと、仰らないで下さい、小姐。」
圓賢妃。そう呼ばれていたのは、つい、この間までのことだった。一時は徳妃で、それが降格した際はとても喜んだが、今回ばかりはそんなことになりそうもない。
皆己のことを圓准后と呼ぶ。一応賢妃のままなのだが、やはり、准后の方がより高貴だからであろう。
「ご機嫌宜しゅう、准后様。」
「ご機嫌麗しゅう。この上なく珍しいことですわね。貴方が此処を訪れるなんて。」
登花宮に参ったのは、圓家当主。准后はそれを眺めていた。
「おめでとうございます。」
「あら。私を嬲りにいらっしゃったのかと思ったけれど、そうでもなさそうですわね。」
「ええ。后におなりですからね。」
溜息をつく。所詮、己の、准后の位にしか、価値はないらしい。
「しかし、邪魔ですな。」
「何が。」
「榮皇后ですよ。」
准后が皇后になる。それにあたり、一番邪魔になるのは、榮氏の存在だ。
「貴方は、何もご存知ではない。榮皇后様が皇后になられたのは、外戚になりうる者がいらっしゃらないから。それが、主上(旲瑓)にとって、都合が宜しいのでしょう。」
当たり障りのないことを言ったはずだ。それ以外に、何を言えば良い。どうせ、皇后になれなかったことに対する、言い訳にしかならないのに。
「なら、何故、榮皇后を潰そうと思わない。」
当主は怒鳴る。
(莫迦ね。)
遥か遠くを眺める様に。彼女は暗い瞳を窓の外に向ける。
(そんなことをしたら、我が圓家は粛清される。そんなことも分からないの?)
「皇后様。こちら、圓准后様からです。」
そう言われて箱から取り出されたのは、見事な錦の反物。
「綺麗ですわ。流石、准后様。」
侍女はうっとりと魅入られている。
「違う。」
「え?」
「これ、准后からではないわ。」
侍女はぽかんと、間抜けに口を開いている。
「香りがする。残り香だわ。准后の気に入っている物とは違う物よ。」
『と、父上様が…………』
侍女が申し訳なさそうに言った。
『勝手なことを!』
圓准后は衣裳をあらためると、すぐに承香宮に向かった。
「榮皇后様にお目にかかります。」
圓准后は榮氏に拝礼する。普段は省く、最も丁寧かつ正式な礼だ。
「どうしたの、准こ………」
「皇后様。わたくしめの名で、よもや、錦なぞ届いておりませんでしょうか。」
「届いていたけれど。これよ。」
榮氏は箱ごと、侍女に持たせた。
「それは、わたくしめがお贈りした物ではあ、りません。どうか、お受け取りにならないで下さいまし。」
榮氏は「やはり」と頷いて、侍女から受け取り、准后の侍女に渡す。
「お騒がせしまして、真、申し訳御座いませぬ。」
榮氏はいいのよ、と首を振る。
だが、准后は暫く、頭を垂れていた。
「何をなさるのかしら。あの人。」
「気をつけねばなりませんね、小姐。」
俐氏は茶を渡す。位が上がっても、いつまでもこうしていたかった。平和に生きてゆきたかった。
それなのに、何故、それを許してくれないのだろう。
人の欲の、なんと恐ろしいことか。
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