恋情を乞う

乙人

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罪悪感

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『お前に価値なんて無いんだよ。』

 ずしりと、心に重しがされている様だった。もう、目を覚ましたくない。
 現実は、あまりにも過酷だ。
 品の良い香が香る。この香りを、確かに知っていた。
 此処は何処なのだろう。分からない。
 書庫に居たはずだ。少なくとも、其処ではなさそうだ。彼処は、とても埃臭かった。とても心地良くはなかった。
(何処かの、誰かの宮だわ。きっと。)
 書庫には、誰か先客がいたらしい。その人物に都合の悪い内容が記されていたのかもしれない。それを見た後から、記憶が無い。

「危なかったわ………」
「本当ですね。―」
 榮氏の口から話されてはならない。心苦しいが、こうして、口止めをしなければならない。

(妾はどうしてこんな所にいるのだろう。)
 瞼を開こうとはしない。そこに待ち受けているのが何か、知ろうとも思わないし、知りたくもない。
(どっちにしろ、妾に居場所は、無いってことね。)
 先程、思い出した。それだけで胸が締め付けられてしまう台詞。
『お前に価値なんて無いんだよ。』
 下界にいた頃に投げかけられた。それが、誰の台詞だったか。何度も言われた。凌氏だったろうか。それとも、義父だったろうか。はたまた、懍懍だったろうか。
(もう、どうだって構わないわ。)
 人間の娘であることを否定された。求められて妃になったのに、あれから地獄だけだ。霛塋を放置し、母であることも放棄した。
 涙が頬を伝う。
 別に、泣きたい訳ではない。悲しみたい訳でもない。それなのに、涙は流れる。
 慰めが欲しい。
 凌氏に拉致された時、確かに彼は助けに来てくれた。でも、その隣にいた、大長公主。美男美女でとてもお似合いだと思った。
(変な話よ……だって、あの二人は、叔母と甥でしょう…………)
 何度も頭に言い聞かせた。
『お前の価値なんて無いんだよ。』
 ―あぁ、そうね。そうだわ。何故今まで気が付かなかったのかしら。
 莫迦だ。大莫迦者だ。
 きっと、あの人と大長公主は、身内の絆以上に、それ以外のもので結ばれている。
 なんてことをしてしまったのだろう。
 邪魔なのは、自分だ。
 何も知らずに、下界から昇って来てしまった、自分だ。

 何処へ行けば幸せにはなれるのだろう。
 いや、いっそ、幸せでなくても、最低限、平穏に生きれれば良い。
(妾は、どうすることも出来ないのかもしれない。)
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