98 / 126
嶷煢郡主
しおりを挟む
(人には、どうにも出来ないことも、多いのだよね。)
『永寧を……』
霧が濃くて、殆ど何も見えない。女の声がする。若い女だ。紫色の裙を着ている。
『永寧を、助けてやって………』
一瞬だけ、顔が見えた。
茶色い髪の毛に、紅い瞳の女だった。
「誰だ!待ってくれ!」
そう、手を伸ばした頃、目を覚ました。
(誰だったんだ?)
夢に出てきた女だ。茶色い髪や紅い瞳から、宗室の人間であることは分かった。
永寧大長公主の名を知っていたと言うことは、面識があるのだろうか。
だが、永寧と面識のある宗室の人間は多い。これといった特徴の無かった女なので、説明するのは難しい。
旲瑓は書庫に居た。最近の宗室の人間を洗い出すつもりだった。
(肖像画を探せば、そこから誰か分かるかもしれない。)
宗室の人間の肖像画から、自分の知っている人間を除外して探す。宗室の頂点に立つ旲瑓が知らない。つまり、彼が生まれる前に死んでしまっているか、余程末席に居るということだ。
(私が生まれる前に薨去なさった方……。誰がいるか?『永寧』と言っていた。歴代に、永寧なんて名前の宗室は、姉さんしかいない。と言うことは、永寧姉さんよりも早く生まれており、永寧姉さんと同じ時代を生きた女性……)
条件は、旲瑓の生前に薨去していること。そして、永寧と面識があること。
ようは、永寧が生まれる前に生まれ、旲瑓の生まれる前に死んだ、公主か郡主。
「あった。」
『嶷煢郡主』
肖像画には、そう添えられていた。
(嶷煢郡主…………聞いたことがないな。)
だが、彼女は旲瑓にとって、重要な女人であることは、まだ知らない。
「嶷煢郡主。十二歳で富豪に降嫁。十五で未亡人となる。その後は消息不明。既に薨去している可能性もある。」
肖像画は、確かに夢の女だった。そして、着ていた裙も、紫色をしていた。
「姉さん。」
「ん?どうしたの?」
嶷煢郡主は永寧大長公主のことを知っていた。もしかしたら、永寧は、彼女がどんな女人だったか、知っていたかもしれない。
「嶷煢郡主、って、知ってる?」
永寧の顔が曇る。
「嶷煢郡主………」
旲瑓がこくりと頷く。
「あぁ、嶷煢郡主ね。私の叔父上の、孫娘だったわ。私より年上だった。何度か、会ったわ。」
やはり。
「未亡人になった後よ。確か、男好きだったとか聞いたわ。今はどうか分からないわよ?確か、もうすぐ、四十になるくらいかしらね。」
もう、何度か会っていた永寧さえ、記憶が曖昧なのだ。覚えている人間は少ないだろう。
「危なかったわ。」
旲瑓から嶷煢郡主の名が出てきた時は、とても驚いた。耳を疑った。
彼は、その人について、何も知らないはずだ。話したこともなかった。
(どうして知ってるの?)
まずいと思った。
永寧と旲瑓は、姉弟でも、叔母甥でもない。同じ姓を名乗るだけという関係だと、知られてしまうのだろうか。
(恨むわ……郡主。)
『永寧を……』
霧が濃くて、殆ど何も見えない。女の声がする。若い女だ。紫色の裙を着ている。
『永寧を、助けてやって………』
一瞬だけ、顔が見えた。
茶色い髪の毛に、紅い瞳の女だった。
「誰だ!待ってくれ!」
そう、手を伸ばした頃、目を覚ました。
(誰だったんだ?)
夢に出てきた女だ。茶色い髪や紅い瞳から、宗室の人間であることは分かった。
永寧大長公主の名を知っていたと言うことは、面識があるのだろうか。
だが、永寧と面識のある宗室の人間は多い。これといった特徴の無かった女なので、説明するのは難しい。
旲瑓は書庫に居た。最近の宗室の人間を洗い出すつもりだった。
(肖像画を探せば、そこから誰か分かるかもしれない。)
宗室の人間の肖像画から、自分の知っている人間を除外して探す。宗室の頂点に立つ旲瑓が知らない。つまり、彼が生まれる前に死んでしまっているか、余程末席に居るということだ。
(私が生まれる前に薨去なさった方……。誰がいるか?『永寧』と言っていた。歴代に、永寧なんて名前の宗室は、姉さんしかいない。と言うことは、永寧姉さんよりも早く生まれており、永寧姉さんと同じ時代を生きた女性……)
条件は、旲瑓の生前に薨去していること。そして、永寧と面識があること。
ようは、永寧が生まれる前に生まれ、旲瑓の生まれる前に死んだ、公主か郡主。
「あった。」
『嶷煢郡主』
肖像画には、そう添えられていた。
(嶷煢郡主…………聞いたことがないな。)
だが、彼女は旲瑓にとって、重要な女人であることは、まだ知らない。
「嶷煢郡主。十二歳で富豪に降嫁。十五で未亡人となる。その後は消息不明。既に薨去している可能性もある。」
肖像画は、確かに夢の女だった。そして、着ていた裙も、紫色をしていた。
「姉さん。」
「ん?どうしたの?」
嶷煢郡主は永寧大長公主のことを知っていた。もしかしたら、永寧は、彼女がどんな女人だったか、知っていたかもしれない。
「嶷煢郡主、って、知ってる?」
永寧の顔が曇る。
「嶷煢郡主………」
旲瑓がこくりと頷く。
「あぁ、嶷煢郡主ね。私の叔父上の、孫娘だったわ。私より年上だった。何度か、会ったわ。」
やはり。
「未亡人になった後よ。確か、男好きだったとか聞いたわ。今はどうか分からないわよ?確か、もうすぐ、四十になるくらいかしらね。」
もう、何度か会っていた永寧さえ、記憶が曖昧なのだ。覚えている人間は少ないだろう。
「危なかったわ。」
旲瑓から嶷煢郡主の名が出てきた時は、とても驚いた。耳を疑った。
彼は、その人について、何も知らないはずだ。話したこともなかった。
(どうして知ってるの?)
まずいと思った。
永寧と旲瑓は、姉弟でも、叔母甥でもない。同じ姓を名乗るだけという関係だと、知られてしまうのだろうか。
(恨むわ……郡主。)
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。
春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。
それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。
にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる