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『私が憎いか?莉鸞。』
ずっと、頭の中で繰り返されている。それは、延々と終わることを知らない。
(もうやめて。)
榮氏は首を振る。
もう、何もかも、夢として、終わらせてしまいたかった。
(媽媽は、変わってしまった。)
媽媽-凌氏のことである。
凌氏は、榮氏の母親だ。榮氏が殺した。昔はとても優しい人だったのに、娘を売ってしまう程に、堕ちた。
死んでから会った凌氏。それは、更に最悪だった。榮氏を殺そうとした。いや、それは仕方がないのかもしれない。報復として取られるだけだ。
ただ、今になって現れるというのは、何か、意味があるのだろう。貴人と貴妃、身分は違えど、龗旲瑓の妾という、同じ立ち位置にある。母娘のはずなのに。
凌氏は貞淑な妻ではない。二度も再婚したのだから。母親であることを放棄し、女であることを望むことに、榮氏は嫌悪感を抱いた。
「莉鸞。」
榮氏は旲瑓に呼び出された。隣には、大きな腹を抱えた永寧大長公主がいる。嫌な予感がする。
「凌氏は、おまえの、殺した母親だね。」
やはり。気が付かれていたのか。榮氏は笑った。
「そうですわ。」
そして、そっぽを向く。
「昔は、あんなに残酷な人ではなかったの。でも、今は違う。人の不幸は蜜の味との如く、嘲笑う。」
-妾は、あんな女は、嫌いですわ。
「榮貴妃。凌貴人があそこまで残酷になったのは、わけがあるのではないかしら。私調べたのよ。」
永寧大長公主が口を挟む。
「今の凌貴人の魂は、榮貴妃、貴女への憎悪だけで出来ているわ。」
(え?)
「もう半分の、人間らしい慈悲の魂は、もう、下界に生まれ変わっているわ。」
人間らしい慈悲の魂。まさしく、昔の凌氏はそれだった。それを失って、何処へ置いてきてしまったのかと。そう、思っていた。
「今はね、倭という女性として生を受けているわ。女王よ。」
女王というのは、母親の身分が低くて、宣下が受けられなかった姫御子や、親王の姫や帝から何代も離れた姫のことだ。この国の郡主と同じ様な身分である。
「貴女の娘の、霛塋公主が成人した後に、会うこともあるでしょう。きっと。」
倭の女王。そう呼ばれる姫に生まれ変わった。何故、永寧大長公主がそれを知ったのかは、知らない。それに、この国にいるはずの霛塋公主が、下界の女王に会うことがあるなんて、変な話だ。
「気分を害するかもしれないけれどね、榮貴妃。」
永寧大長公主は暗く、重たい雰囲気の声で告げる。
「貴女は、凌貴人を嫌っている。凌貴人は、貴女を嫌っている。でもね………」
永寧大長公主は榮氏を見つめる。深紅の瞳は、榮氏のその先を見ているが如く。
「どんなに嫌っていても、貴女達は血が繋がっているの。それは、霛塋公主を通して、未来へ、延々と続いてゆく。それが、誰の意思とは違っていても。」
それもあって、榮氏は霛塋公主を殺したいと想っている。だが、それは、愛する人である旲瑓の娘であることから、踏みとどまっている。
「凌貴人を殺したところで、その憎しみは何処へ向かうの?霛塋公主にかしら。だけれど、莉鸞、貴女にもその血は流れているの。貴女は、自分自身を、殺すの?」
榮氏は首に手を当てた。
其処には、一直線の傷があった。刑死した際にできたものだ。そうだった。斬首刑に処されたのだった。
(もう一度なんて、ないわ。)
-どうすればよいの?榮氏は頭を抱える。
忘れていた、思い出さないようにしていた事実。最も嫌いで憎い女の血は、自分にも流れている。そして、それは、永遠に誰かに引き継がれていくことを。
ずっと、頭の中で繰り返されている。それは、延々と終わることを知らない。
(もうやめて。)
榮氏は首を振る。
もう、何もかも、夢として、終わらせてしまいたかった。
(媽媽は、変わってしまった。)
媽媽-凌氏のことである。
凌氏は、榮氏の母親だ。榮氏が殺した。昔はとても優しい人だったのに、娘を売ってしまう程に、堕ちた。
死んでから会った凌氏。それは、更に最悪だった。榮氏を殺そうとした。いや、それは仕方がないのかもしれない。報復として取られるだけだ。
ただ、今になって現れるというのは、何か、意味があるのだろう。貴人と貴妃、身分は違えど、龗旲瑓の妾という、同じ立ち位置にある。母娘のはずなのに。
凌氏は貞淑な妻ではない。二度も再婚したのだから。母親であることを放棄し、女であることを望むことに、榮氏は嫌悪感を抱いた。
「莉鸞。」
榮氏は旲瑓に呼び出された。隣には、大きな腹を抱えた永寧大長公主がいる。嫌な予感がする。
「凌氏は、おまえの、殺した母親だね。」
やはり。気が付かれていたのか。榮氏は笑った。
「そうですわ。」
そして、そっぽを向く。
「昔は、あんなに残酷な人ではなかったの。でも、今は違う。人の不幸は蜜の味との如く、嘲笑う。」
-妾は、あんな女は、嫌いですわ。
「榮貴妃。凌貴人があそこまで残酷になったのは、わけがあるのではないかしら。私調べたのよ。」
永寧大長公主が口を挟む。
「今の凌貴人の魂は、榮貴妃、貴女への憎悪だけで出来ているわ。」
(え?)
「もう半分の、人間らしい慈悲の魂は、もう、下界に生まれ変わっているわ。」
人間らしい慈悲の魂。まさしく、昔の凌氏はそれだった。それを失って、何処へ置いてきてしまったのかと。そう、思っていた。
「今はね、倭という女性として生を受けているわ。女王よ。」
女王というのは、母親の身分が低くて、宣下が受けられなかった姫御子や、親王の姫や帝から何代も離れた姫のことだ。この国の郡主と同じ様な身分である。
「貴女の娘の、霛塋公主が成人した後に、会うこともあるでしょう。きっと。」
倭の女王。そう呼ばれる姫に生まれ変わった。何故、永寧大長公主がそれを知ったのかは、知らない。それに、この国にいるはずの霛塋公主が、下界の女王に会うことがあるなんて、変な話だ。
「気分を害するかもしれないけれどね、榮貴妃。」
永寧大長公主は暗く、重たい雰囲気の声で告げる。
「貴女は、凌貴人を嫌っている。凌貴人は、貴女を嫌っている。でもね………」
永寧大長公主は榮氏を見つめる。深紅の瞳は、榮氏のその先を見ているが如く。
「どんなに嫌っていても、貴女達は血が繋がっているの。それは、霛塋公主を通して、未来へ、延々と続いてゆく。それが、誰の意思とは違っていても。」
それもあって、榮氏は霛塋公主を殺したいと想っている。だが、それは、愛する人である旲瑓の娘であることから、踏みとどまっている。
「凌貴人を殺したところで、その憎しみは何処へ向かうの?霛塋公主にかしら。だけれど、莉鸞、貴女にもその血は流れているの。貴女は、自分自身を、殺すの?」
榮氏は首に手を当てた。
其処には、一直線の傷があった。刑死した際にできたものだ。そうだった。斬首刑に処されたのだった。
(もう一度なんて、ないわ。)
-どうすればよいの?榮氏は頭を抱える。
忘れていた、思い出さないようにしていた事実。最も嫌いで憎い女の血は、自分にも流れている。そして、それは、永遠に誰かに引き継がれていくことを。
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