恋情を乞う

乙人

文字の大きさ
上 下
82 / 126

義母

しおりを挟む
「お前の後宮に、また一人、妃が入って来たらしいね。凌貴人だったかな。」
「そうです。」
「お可愛らしい方だったわね。」
 妟纛、そしてその母である賷陰は、凌貴人を褒めた。
「でも、何故かしら、嫌な予感がするのよ、私。」
 一人、隣でそう呟いたのは、璡姚だった。この人の勘はよく当たる。下界にいた頃は、名のある呪術師だったとか。
「寳闐もそう言っていましたよ。」
 寳闐もまた、別の意味で、勘が鋭い。周りをよく見て生活しているのだろう。中立的に生きているのだから、それくらいは出来なくてはならないのかもしれない。
「私もそう思うわ、旲瑓。凌貴人を後宮に入れたのは、間違いだったかもしれない。」
 四人の視線が、永寧大長公主に集まる。永寧大長公主は重い口を開く。
「榮莉鸞貴妃に、そっくり、瓜二つじゃない。」

 貴人は、無品の位だ。そして、後宮では最下位の位。そのため、宮を与えられることもなく、部屋を借りて住む。そして、四夫人とは違い、侍女の数も制限されている。
懍懍ランラン。」
 貴人は雀斑ソバカスの侍女に声を掛ける。
「莉鸞を見て、どう思った?」
「そうね、妈妈かあさん。どれだけ豪奢に着飾っても、莉鸞は莉鸞なんだなって。庶民が貴妃様なんて、似合わないわ。」
「そうねぇ。莉鸞はさしずめ、下女がお似合いなのに。血が繋がっているのが、恥ずかしいくらいよ。」
 理不尽な話だ。榮氏はこの凌貴人から生まれたのに………
 ケラケラと笑う。二人。
 立ち聞きをしている女に、気が付かなかった。

小姐ねえさま!」
 才人は走る。
「はしたないわよ、妹妹メイメイ。如何したの?」
 はあはあと息を切らせている俐才人。余程のことがあったのではないかと、寳闐は不安になる。
「凌貴人知ってますよね。」
「勿論。」
「侍女に、懍懍って云うのがいるのも。」
「知ってるわ。」
「その二人が、貴妃様のことを、呼び捨てに、莉鸞レイランと呼んでいたのです。それに、貴人が漏らしていましたわ。」
 貴人は馬鹿だ。愚かだ。才人は、思った。
「血が繋がっているのが、恥ずかしい、って。」

「貴人と莉鸞が血が繋がっている?」
 旲瑓は吃驚して、永寧大長公主の顔を覗き込む。
「まさか。」
「いいえ、かなり確証は高いの、まさかよ。」
 永寧大長公主はやはりと思った。寳闐を経由されて伝わった話だ。
「私。言ったわね。榮貴妃と凌貴人が瓜二つだって。」
「でも、それだけじゃ………」
「声も、身のこなしも、そっくりだと言ったら?」
 旲瑓の心は揺らぐ。
「それに、貴人ごときが貴妃を呼び捨てにするかしら。普通ならば、名も呼べぬ程、尊い方だと思うはずなのに。」
 実は、こんな話も聞いた。
「貴妃は貴人に対して、名を名乗っていないの。だから、『榮貴妃』だということしか、知らなかったはずよ。それなのに、如何して、『榮莉鸞』なのだと知っていたのかしら。面識があるってことよね。」

『初めまして、お目にかかれて光栄で御座います。凌と申します。』
 そう言っていた声は、何処かで聞いたことがある気がした。
 そうだ。
 霛塋公主が生まれる前だ。
 母親によって、地獄に引き込まれかけていた榮氏を、旲瑓が助けた。その時に母親を見た。醜く歪んだ顔をしていたが、多分、元は良かったのだろう。
 そして、凌貴人の侍女を、懍懍と云ったが、彼女の夫の連れ娘の名もまた、懍懍だった。
(何が目的なのだろう。)
 旲瑓には分からない。
 龗家はまた、噂されるのだろう。
 義母を後宮に入れた、不届き者だと。父も子も、やはり、不道徳なのだと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...