恋情を乞う

乙人

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琵琶

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 魖家の謀反は静まった。そして、処刑された。榮氏はそっと胸をなでおろす。廃后が居なくなってくれて、魖廃賢妃が居なくなってくれて、正直嬉しかった。
 榮氏は機嫌よく琵琶をかき鳴らす。
 静かな、そして殺風景なあの部屋にも、それは届いていた。

「何か音がする。」
 霛塋公主は振り返った。
「琵琶ですよ、公主様。貴妃様がお得意なんですって。」
 一方、榮氏の娘、霛塋公主はとてもご機嫌斜めだった。
 侍女の中に、公主にとても親身になってくれた者がいた。子を失ったばかりなのだとか。
(五歳か、六歳だったはずよね、公主様は。)
 のわりには、成長が遅く、痩せている。だが、もう、精神年齢はかなり上だ。十の子よりも、大人で、もはや、厭世的な感情を抱いている様にも見えた。
 旲瑓には、二人の公主がいる。霛塋、そして、明媛。この二人は、この上ない身分にありながら、不憫だ。親のせいで、不幸だ。
 空に憧れた少女。いつだったか、霛塋をそう表現した。また、明媛は、愛を求めた少女。母親のせいで、手に入れられない物。誰にでも平等に与えられるはずの物。それを、哀れな公主様達は何も知らない。

 霛塋は、朽ちかけた寝台に寝転がりながら、榮氏の琵琶に耳を傾けていた。
(私がこんなところで閉じ込められているのに、ほんとうに、ゆうがなんだわ。)
 着ている襤褸は、元は白い襖裙だったはずだ。たまに此処へ来る榮氏は、紅い衣裳を着ている。裾も擦り切れておらず、刺繍の凝った、錦の。
 霛塋には、それが、悲しくて、そして、憤りを感じてならなかった。

 いつだったか、分からないけれども、夢を見たことがある。後宮の、一番美しい景色の庭を、一人、歩いていた。それは、近い未来ではなかった。十数年後、二十一になった頃だった。
 顔は旲瑓に、姿形は榮氏にそっくりだった。
 あるとき、また、夢を見た。
 青い着物を何枚も着ていた。畳に座って、扇をあおいでいた。琵琶が得意だと褒められていた。
 霛塋公主ではなく、藤の方と呼ばれていた。
 そして、娘がいた。葵と呼ばれていた。藤の方から霛塋公主に戻った。娘は藤一条と呼ばれて、妹に仕えていた。
 きっと、これは、霛塋の未来なんだと思う。
(ひにくだわ。)
 霛塋が、そしてその娘が得意だと言われていたのは、霛塋が最も嫌悪する榮氏の得意な、琵琶だった。
 そして、ひとつ、不思議なことを見たのだ。
 霛塋が二十一になって、幽閉から解放される理由。それが、侍女によって逃がされた、というのがきっかけとなるのだが、その侍女の本当の名は、『櫞葉公主』と言われていた。
 公主なのだから、霛塋の妹なのだろう。
 真紅の瞳は、何処か寂しげであった。一度だけ見た、大叔母に似ていた。
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