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東宮
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「何だろうな。」
東宮であり、璙寍皇子と呼ばれている。諱ではないが、普段、そう呼ぶ者はいない。強いて言えば、姉である霛塋公主が呼んでいたが、下界に流された。
「お妃様のことですか?瑜淋闇と仰います。」
「瑜家の令嬢なんだよな。そこがね。」
璙寍はため息をつく。
璙寍は度々瑜家と対立する、圓家の縁で、母は稜鸞。父は旲瑓。従姉妹も後宮にいて、名を寳闐。後宮に二人も妃嬪がいるのは、圓家だけだ。
「ちょっと………お転婆なお姫様ですよね。」
「………ハハ………」
璙寍は苦笑した。
父に選ばれ、妃となった瑜淋闇は、絹団扇を手に、優雅に笑っている様な深窓の令嬢ではなく、剣を片手に走り回っている様な娘だ。
前王朝の瑜家の令嬢が妃になったのは、何考えがあるのだろうか、分からない。まぁ、瑜王朝は、反乱やらで滅びたのではなく、単に跡継ぎがいなくなってしまったことで滅びた。渋々、龗家に渡したらしい。皇族ではなくなった後、唯一居た、最後の公主が婿をとり、瑜家はなんとか続いた、というわけだ。ようは、母系なのだ。
この国の人間は、瑜家嫌いが多い。そもそも、瑜家は跡継ぎ不足、ではなく、表向きは汚職が多かったが為に、無理矢理辞めさせられた、徳を失った家なのだ。
「龗家と瑜家はどうなるんだろうなぁ。」
璙寍はため息をつく。
「父上。」
そう、舌足らずに言って走って来るのは、可愛い我が子だった。名を、覼瑣と云う。
やっと走れる様になった頃の歳だ。数年前、母とは死に別れた。祖父は貧農。父は豪商。一代で成り上がった、言わば成金で、身分は低かった。
「れーえー伯母ちゃま、いる?」
なんて話せば良いかな、璙寍は口ごもった。
「伯母ちゃまは、いないよ。」
妹である明媛公主と櫖家のせいで、下界に流された、なんて、言えない。
「旅に行ってしまったよ。でも、戻って来る。」
未婚公主が一人で旅なんて、ちゃんちゃらおかしいが、この幼子には、分かるまい。
「覼瑣、お前には、新しいお母様がいるんだよ。」
幼子の頭を撫でながら、語った。
「淋闇と云うんだ。」
覼瑣皇子が、母の記憶が無いことが、救いだ。きっと、淋闇を母と認めてくれるだろう。
「え、ほんと?会ってみたい、ねぇ、連れてって!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねてはしゃぐ覼瑣。
「今度、連れていってあげるよ、承香宮に住んでいるからね。」
お付きに覼瑣を連れてゆかせて、一人、璙寍は空を見上げた。
夫に、前妻がおり、そして、息子もいる。
新しい妾の淋闇に、申し訳ない。彼女は、どう思うのだろう。
あの手弱女は、心を折ってしまうだろうか。分からない。ただ、そうはなって、欲しくない。
彼女に、出来る限りのことをしてやろう、そう、決めた。
東宮であり、璙寍皇子と呼ばれている。諱ではないが、普段、そう呼ぶ者はいない。強いて言えば、姉である霛塋公主が呼んでいたが、下界に流された。
「お妃様のことですか?瑜淋闇と仰います。」
「瑜家の令嬢なんだよな。そこがね。」
璙寍はため息をつく。
璙寍は度々瑜家と対立する、圓家の縁で、母は稜鸞。父は旲瑓。従姉妹も後宮にいて、名を寳闐。後宮に二人も妃嬪がいるのは、圓家だけだ。
「ちょっと………お転婆なお姫様ですよね。」
「………ハハ………」
璙寍は苦笑した。
父に選ばれ、妃となった瑜淋闇は、絹団扇を手に、優雅に笑っている様な深窓の令嬢ではなく、剣を片手に走り回っている様な娘だ。
前王朝の瑜家の令嬢が妃になったのは、何考えがあるのだろうか、分からない。まぁ、瑜王朝は、反乱やらで滅びたのではなく、単に跡継ぎがいなくなってしまったことで滅びた。渋々、龗家に渡したらしい。皇族ではなくなった後、唯一居た、最後の公主が婿をとり、瑜家はなんとか続いた、というわけだ。ようは、母系なのだ。
この国の人間は、瑜家嫌いが多い。そもそも、瑜家は跡継ぎ不足、ではなく、表向きは汚職が多かったが為に、無理矢理辞めさせられた、徳を失った家なのだ。
「龗家と瑜家はどうなるんだろうなぁ。」
璙寍はため息をつく。
「父上。」
そう、舌足らずに言って走って来るのは、可愛い我が子だった。名を、覼瑣と云う。
やっと走れる様になった頃の歳だ。数年前、母とは死に別れた。祖父は貧農。父は豪商。一代で成り上がった、言わば成金で、身分は低かった。
「れーえー伯母ちゃま、いる?」
なんて話せば良いかな、璙寍は口ごもった。
「伯母ちゃまは、いないよ。」
妹である明媛公主と櫖家のせいで、下界に流された、なんて、言えない。
「旅に行ってしまったよ。でも、戻って来る。」
未婚公主が一人で旅なんて、ちゃんちゃらおかしいが、この幼子には、分かるまい。
「覼瑣、お前には、新しいお母様がいるんだよ。」
幼子の頭を撫でながら、語った。
「淋闇と云うんだ。」
覼瑣皇子が、母の記憶が無いことが、救いだ。きっと、淋闇を母と認めてくれるだろう。
「え、ほんと?会ってみたい、ねぇ、連れてって!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねてはしゃぐ覼瑣。
「今度、連れていってあげるよ、承香宮に住んでいるからね。」
お付きに覼瑣を連れてゆかせて、一人、璙寍は空を見上げた。
夫に、前妻がおり、そして、息子もいる。
新しい妾の淋闇に、申し訳ない。彼女は、どう思うのだろう。
あの手弱女は、心を折ってしまうだろうか。分からない。ただ、そうはなって、欲しくない。
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