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第四章

289『オークション開始!』

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「さっ、行きましょ。
 殿下、御前失礼します」

 優雅なカーテシーが、何と先ほどの言葉と不似合いな事だろう。
 対して取り巻きAは今しがた、確かに感じた自身の小袋への締め付け……それはまるで握り潰そうとした痛みを伴うもの、を思い出してもう倒れそうだ。

 アンナリーナはそそくさと教室の方に向かい、今日も無事捕まる事がなく済んだ。
 王子としては不本意だが授業を邪魔するつもりはない。



 さほど暑くならない夏が終わり、秋になった。
 アンナリーナがこの大陸にやって来て一年が経ち、今はぎりぎり晩秋である。
 そしてとうとうオークションの当日、アンナリーナはテオドールやセト、ネロと共にボックス席に収まっていた。

「リーナ、舞台袖に詰めなくていいのか?」

 アンナリーナしかドラゴンの扱いができない事を知っているテオドールが心配そうだ。

「まぁ、あれは最後だしね。
 リハーサルはバッチリだから安心して」

 抑えめの藤色の、アラーニェが今日のために誂えた特別なドレスを纏い、アンナリーナはふわりと微笑んだ。

「エッケハルトさんも大変だったけど、やっと報われる日が来たね」

 彼の元には、今回は諸経費込みで競り値の3割が支払われることになる。
 ドラゴンだけで白金貨100枚からのスタートである。
 劣化版アムリタや強壮剤もどのくらいの値が付くか想像出来ない。
 今回のオークションはさほど出品数は多くないが、ひとつの品に関して直前の鑑定には十分な時間がとられていた。
 今回招待された顧客たちは、本人が鑑定持ちであったり、レベルの高い鑑定人を連れていたり、魔導具を準備したりと気合いが入っている。

「オークションってのはそんな風に一々鑑定しながら競るもんなのか?」

 テオドールは不思議そうだ。

「違うと思うよ。
 ただ今回は、動くお金が半端ないし、顧客側を納得させる為の特別な措置じゃないかな」

 そんなやりとりをしていると、ステージ上にエッケハルトが姿を現し、マイクのような魔導具を持って声を発した。

「皆様、本日はようこそお出で下さいました」

 騒ついていた会場がシンと静まる。

「今回は事前にお知らせした通り、スペシャルなお品を用意しております。
 どうかお楽しみ下さい。
 では早速、最初の品をどうぞ!」

 先ほどまで穏やかなバックミュージックを奏でていたオーケストラが、煽るような太鼓のリズムに変わった。
 途端に高揚していく顧客たち。
 アンナリーナも身を乗り出すようにしてステージを見降ろしていた。

 カタログナンバー1の出品物はアンナリーナの出したツリーハウスの側の小川産の宝玉だ。
 10数個渡したそれを、エッケハルトはひとつずつ競るようだ。

「こちらはさる伝手で手に入れた、我がブエルネギア大陸では絶対に手に入らない品。
 見たところ普通の宝玉に見えますが……
 ではこれから暫し、存分に鑑定して頂きたい!」

 まもなく会場から驚嘆の声が上がり始めた。
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