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第四章
280『春の日』
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オークション会社【ウェンライト】の面々が過労死を心配するほどの激務に襲われている頃、アンナリーナは久々のゆったりとした時間を過ごしていた。
あれほど大騒ぎして準備した冬籠りも、実質ほとんどアンナリーナは体験していない。
件のダンジョントラップ事件で飛ばされてしまい冬の首都にいなかったアンナリーナは、大陸の北部にいたため厳しい冬を逃れていた。
その間、残されたテオドールたちはネロを除いてほとんどの時をツリーハウスを本拠地として、アンナリーナの捜索に専念していた。
ネロは捜索とともに学院関係の事柄を引き受け、アンナリーナのいない間に春からの入学の準備を行っていた。
「本当に、皆には心配と迷惑をかけたね。ごめんなさい。そしてありがとう」
今回は完全に不可抗力だった。
アンナリーナのいつものやんちゃではなく、事故だったのだ。
「無事だったんだ。
もう、それだけでいい」
事故直後の事を思い出したのだろう。テオドールの目が潤んでいる。
「今回、魔法が使えないって本当に堪えたよ。ただ魔導具が使えたので最低限の事ができたんだ。
普段はあまり使わないものもあったけど、備えあれば憂いなしって思い知ったよ」
いわゆる【薬師のアイテムバッグ】はもちろん、今回最も役に立ったのは【結界石】だ。
それに、地味だが【魔獣避けの香】も身を守るために重要だった。
「私、これからは魔導具の研究もしてみたい。
できれば魔力のない人や魔法が使えない人が、魔法と同じ事象を起こせる【宝珠】のようなものを開発したいの」
それは前世のゲームの世界での、各属性の攻撃オーブや、スクロールのようなものだ。
「対象に投げつけたらファイアーボールと同じ攻撃が出来るなんて便利じゃない?」
便利どころではない。
この世界の常識がひっくり返ってしまうだろう。
「少し難しいけど、出来ると思うんだ」
完成したら、熊さんには一番にあげるね、と言われたテオドールは悪い気はしない。
春はもうすぐそこに迫っていた。
首都に漂う空気は日に日に春めいてゆき、あちらこちらで蕾が膨らんでいる。
天気の良い日の日向では汗ばむほどの陽気となって、果樹の花が咲き出す頃、アンナリーナが特別留学生として入学する魔導学院の入学式が行われた。
「ギリギリ間に合ったね」
これは入学式の開催時間の事を言っているのではない。
【迷宮都市】でテオドールたちと合流して、そのあとダンジョンに潜り夢中になって……タイムリミットを忘れそうになった。
「手続きとか、ネロに任せっぱなしにして申し訳なかったと思う」
今回の件は、元々は学院側の課題が端を発したので、それなりに融通はしてもらえた。
特に、同時に入学するネロが手続きを代用し、それが認められた事は大きい。
それ故、アンナリーナは今日この場にいられるのだ。
「いえ、無事にお戻りになる事を信じお待ちしておりました」
ネロが軽く頭を下げた。
彼らは今、入学式が行われる学院のホールに向かって歩いている。
学院の制服である黄色のローブを身につけ、集団から離れないよう気をつけていた。
しかしこの場でも2人は異様だった。
まずはアンナリーナ。
見るからにその身体は小さく、とても成人年齢15才を越えているようには見えない。
そしてその連れは反対に、非常に背が高い。
緑色の髪……実はこれは鬘だ。
目を引く仮面は今日は大人しいものに変えられている。
周りには、顔にひどい傷と火傷の痕があって、とても人様の前に晒せる状態ではないという事で、学院側にも許可を得ている。
これは魔法で姿を変えているのだが、仮面の下を見た学院の職員は、そのあまりの酷さに気を失いそうになったほどだ。
あれほど大騒ぎして準備した冬籠りも、実質ほとんどアンナリーナは体験していない。
件のダンジョントラップ事件で飛ばされてしまい冬の首都にいなかったアンナリーナは、大陸の北部にいたため厳しい冬を逃れていた。
その間、残されたテオドールたちはネロを除いてほとんどの時をツリーハウスを本拠地として、アンナリーナの捜索に専念していた。
ネロは捜索とともに学院関係の事柄を引き受け、アンナリーナのいない間に春からの入学の準備を行っていた。
「本当に、皆には心配と迷惑をかけたね。ごめんなさい。そしてありがとう」
今回は完全に不可抗力だった。
アンナリーナのいつものやんちゃではなく、事故だったのだ。
「無事だったんだ。
もう、それだけでいい」
事故直後の事を思い出したのだろう。テオドールの目が潤んでいる。
「今回、魔法が使えないって本当に堪えたよ。ただ魔導具が使えたので最低限の事ができたんだ。
普段はあまり使わないものもあったけど、備えあれば憂いなしって思い知ったよ」
いわゆる【薬師のアイテムバッグ】はもちろん、今回最も役に立ったのは【結界石】だ。
それに、地味だが【魔獣避けの香】も身を守るために重要だった。
「私、これからは魔導具の研究もしてみたい。
できれば魔力のない人や魔法が使えない人が、魔法と同じ事象を起こせる【宝珠】のようなものを開発したいの」
それは前世のゲームの世界での、各属性の攻撃オーブや、スクロールのようなものだ。
「対象に投げつけたらファイアーボールと同じ攻撃が出来るなんて便利じゃない?」
便利どころではない。
この世界の常識がひっくり返ってしまうだろう。
「少し難しいけど、出来ると思うんだ」
完成したら、熊さんには一番にあげるね、と言われたテオドールは悪い気はしない。
春はもうすぐそこに迫っていた。
首都に漂う空気は日に日に春めいてゆき、あちらこちらで蕾が膨らんでいる。
天気の良い日の日向では汗ばむほどの陽気となって、果樹の花が咲き出す頃、アンナリーナが特別留学生として入学する魔導学院の入学式が行われた。
「ギリギリ間に合ったね」
これは入学式の開催時間の事を言っているのではない。
【迷宮都市】でテオドールたちと合流して、そのあとダンジョンに潜り夢中になって……タイムリミットを忘れそうになった。
「手続きとか、ネロに任せっぱなしにして申し訳なかったと思う」
今回の件は、元々は学院側の課題が端を発したので、それなりに融通はしてもらえた。
特に、同時に入学するネロが手続きを代用し、それが認められた事は大きい。
それ故、アンナリーナは今日この場にいられるのだ。
「いえ、無事にお戻りになる事を信じお待ちしておりました」
ネロが軽く頭を下げた。
彼らは今、入学式が行われる学院のホールに向かって歩いている。
学院の制服である黄色のローブを身につけ、集団から離れないよう気をつけていた。
しかしこの場でも2人は異様だった。
まずはアンナリーナ。
見るからにその身体は小さく、とても成人年齢15才を越えているようには見えない。
そしてその連れは反対に、非常に背が高い。
緑色の髪……実はこれは鬘だ。
目を引く仮面は今日は大人しいものに変えられている。
周りには、顔にひどい傷と火傷の痕があって、とても人様の前に晒せる状態ではないという事で、学院側にも許可を得ている。
これは魔法で姿を変えているのだが、仮面の下を見た学院の職員は、そのあまりの酷さに気を失いそうになったほどだ。
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