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第四章

247『首都に向かって』

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 アンナリーナたちは今、首都に向かって馬車を走らせている。
 ドゥンケルスでの滞在中、何かと便宜を図ってくれたフミラシェとオルドメーシェに対しては出来る限りの感謝を持って別れてきた。
 エルドランとは良い取り引きが出来た。彼に売った代金でひと財産を得たアンナリーナは、首都に行っても金銭的に困る事はないだろう。
 ……結局、薬師ギルドには最後まで行かなかった。


「マスター、この馬車は便利だねぇ」

 アンナリーナの移動住居型馬車の居間では今、西風の精霊王イェルハルドがソファーに座ってくつろいでいた。
 空間魔法によって広げられた室内には揺れもなく、アンナリーナとともに紅茶を飲んでいる。

「何であなたがここにいるのかな?」

「やっぱり気になるだろう?
 我はこのようにヒトと関わるのは初めてなのだ」

 アンナリーナはほとほと呆れている。

「まあ、いいけど……でも約束してね。
 あのドアの向こうは私の家に繋がっているんだけど、正直あなたたち精霊がそこを通れるのかわからないんだよね。もしもの事があったら怖いから通らないでね」

「わかった。
 わざわざリスクのあるような事はしない」

 イェルハルドとて消滅の可能性のあるような事はゴメンだ。
 この件に関しては大人しく了承する。


『リーナ、そこに野営地があるんだが、どうする?』

 御者台にいるテオドールから念話が飛んできた。

『そうだね。
 今日はずいぶん進んだから、このへんで泊まろうか』

 チラリとイェルハルドを見ると平然としている。

「我もここにいる」

「こちらにずっといて大丈夫なの?
 精霊の世界ってわからないけど、一応王様なんでしょ?」

「問題ない」

 軽く肩をすくめたアンナリーナは、そのまま馬車から降りていく。
 その後ろからイェルハルドがふよふよと浮かんでついていく。

「熊さん、近くに魔獣がいるから、ちょっと狩ってくる」

「おう、俺も付き合うわ」



 森の植生からして違う、そしてそこに潜む魔獣も違った。

「紫の熊……」

「ヴァイオレットベア。
 マスターのところにはいない?」

「こんなにカラフルな熊はいないねぇ。
 イェルハルド、いくよ。【風刃】」

 いとも簡単にあっさりと。
 アンナリーナの魔力を使い、イェルハルドの能力で【ウインドカッター】にあたる【風刃】でヴァイオレットベアの頭をスッパリと落とした。

「おお~ いい感じ!」

 体長5mはある熊の身体がゆっくりと倒れていく。
 素早く飛び退いたアンナリーナの、今までいたところに地響きすら立てて横たわる熊。
 アンナリーナは満足そうに頷いて、熊をアイテムバッグに収納した。

「あちらに固まって反応があるわ。
 次の獲物よ」

「我のマスターは偉大なる狩人なのだな。
 そしてその手伝いが出来ることを誇りに思う」

 群でいた、前世での駝鳥にそっくりな1mほどの鳥は【血抜き】で屠っていく。

「イェルハルド、この鳥はもちろん食べられるわよね?」

「よく町に住むものたちが食べているのをみかけるよ。
 以前、よその町では家で飼っているのを見たことがある」

 それならと、アンナリーナは機嫌を急上昇させた。
 ウキウキと献立を考えている。

「最初は無難にソテーにしましょう。
 もちろん唐揚げもいいけど、チキンロールのオレンジソース煮にチャレンジしましょうか。
 ところでこの鳥は、何という名なのかしら」

「ラインケトル」

「何か尖った名前だね」

 ラインケトルのオレンジ煮は、近日お披露目予定である。
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