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第四章
243『明らかになった危機?』
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エルドランとの商談に疲れたアンナリーナは、この後予定していた薬師ギルド訪問をキャンセルして、テオドールの提案で冒険者ギルドにやって来ていた。
「何か、いい依頼ある?」
依頼票が貼ってあるボードの前で、アンナリーナとテオドールの凸凹コンビが見繕っていた。
「おい、依頼を受けてくれるのか?
感心、感心」
「手持ちの素材の依頼があれば、と思って。
熊さんはヤル気満々ですけどね」
ちょうど通りかかったフミラシェが、アンナリーナたちに声をかけてきた。
「そうだな。
素材集めも今のうちだからな」
「今のうち?」
アンナリーナは小首を傾げた。
“ 今のうち ”とは期限を設けた表現だ。今は秋……確かに採取できる素材が増える時期だが、何か含みのある言い方だ。
「ああ、そろそろ【冬籠り】の準備の時期だろう?」
「……その【冬籠り】って何ですか?」
フミラシェがピシリと固まった。
「知らない? いや、誰からも聞いていないのか?」
そう呟いたフミラシェを見て、アンナリーナは嫌な予感がした。
「この大陸の南部は、冬には気温が氷点下まで下がり、雪も積もる。
なので人々は冬の間の準備を整えて、なるべく家から出ないようにして暮らすんだよ」
「それは町の機能が停止する、と言うことですか?」
「そうだな……ほぼ、それに近い」
その時アンナリーナは気づいた。気づいてしまった。
「あの、私……1月に首都へ試験を受けに行くのですが」
「おいおい、冬の旅なんてとうてい無理だそ」
思わず悲鳴をあげそうになったアンナリーナは、これからの予定を頭の中で整理する。
そして脱兎のごとく駆け出した。
あっという間に市場を抜けて魔導ギルドに飛び込んだアンナリーナは、すぐにオルドメーシェとの面会を求めた。
受付にいたギルド職員は、アンナリーナのあまりの様子に二つ返事で応じ、階段を駆け上がっていく。
そしてすぐにとって返してきて、アンナリーナたちをオルドメーシェのところに案内してくれた。
「オルドメーシェさん!」
アンナリーナ、えらい剣幕である。
そしてそのまま詰め寄り、食いついた。
「私、属性魔法を使うために、精霊と契約しなければならないし、来年1月の試験も受けるつもりです。
なのに “ 冬籠り ”などと言う未知の行事があって、私の頭はパンク寸前なのです!」
この大陸、この国に生まれた時から住んでいるオルドメーシェたちにとって、冬籠りとはあって当然の事。
それは呼吸するのと同じくらい自然なものだ。
「冬籠りか?
そう言えばリーナ嬢はどうするつもりだ?」
「どうするつもりじゃないでしょーっ!」
ずいぶんと感情的である。
「精霊の召喚と学院への入学を薦めておいて、そんな事まったく言ってなかったですよね?」
「ああ、そうか……申し訳ない。
そう言うところも配慮しなければならんな。
精霊の召喚は来週、月の日から順次行っていけるし、その後でも十分首都には着ける」
それを聞いて、少し落ち着いたアンナリーナは勧められた椅子に座り、出されたお茶に手をつける。
「そもそも “ 冬籠り ”って、どんな事をするんですか?
それって私たちもした方がいいのでしょうか?」
「そうだね。首都に行ったとしても、冬籠りは変わらない。
いささか忙しいが、あちらで落ち着く場所が決まり次第、設えた方がいい」
「何か、いい依頼ある?」
依頼票が貼ってあるボードの前で、アンナリーナとテオドールの凸凹コンビが見繕っていた。
「おい、依頼を受けてくれるのか?
感心、感心」
「手持ちの素材の依頼があれば、と思って。
熊さんはヤル気満々ですけどね」
ちょうど通りかかったフミラシェが、アンナリーナたちに声をかけてきた。
「そうだな。
素材集めも今のうちだからな」
「今のうち?」
アンナリーナは小首を傾げた。
“ 今のうち ”とは期限を設けた表現だ。今は秋……確かに採取できる素材が増える時期だが、何か含みのある言い方だ。
「ああ、そろそろ【冬籠り】の準備の時期だろう?」
「……その【冬籠り】って何ですか?」
フミラシェがピシリと固まった。
「知らない? いや、誰からも聞いていないのか?」
そう呟いたフミラシェを見て、アンナリーナは嫌な予感がした。
「この大陸の南部は、冬には気温が氷点下まで下がり、雪も積もる。
なので人々は冬の間の準備を整えて、なるべく家から出ないようにして暮らすんだよ」
「それは町の機能が停止する、と言うことですか?」
「そうだな……ほぼ、それに近い」
その時アンナリーナは気づいた。気づいてしまった。
「あの、私……1月に首都へ試験を受けに行くのですが」
「おいおい、冬の旅なんてとうてい無理だそ」
思わず悲鳴をあげそうになったアンナリーナは、これからの予定を頭の中で整理する。
そして脱兎のごとく駆け出した。
あっという間に市場を抜けて魔導ギルドに飛び込んだアンナリーナは、すぐにオルドメーシェとの面会を求めた。
受付にいたギルド職員は、アンナリーナのあまりの様子に二つ返事で応じ、階段を駆け上がっていく。
そしてすぐにとって返してきて、アンナリーナたちをオルドメーシェのところに案内してくれた。
「オルドメーシェさん!」
アンナリーナ、えらい剣幕である。
そしてそのまま詰め寄り、食いついた。
「私、属性魔法を使うために、精霊と契約しなければならないし、来年1月の試験も受けるつもりです。
なのに “ 冬籠り ”などと言う未知の行事があって、私の頭はパンク寸前なのです!」
この大陸、この国に生まれた時から住んでいるオルドメーシェたちにとって、冬籠りとはあって当然の事。
それは呼吸するのと同じくらい自然なものだ。
「冬籠りか?
そう言えばリーナ嬢はどうするつもりだ?」
「どうするつもりじゃないでしょーっ!」
ずいぶんと感情的である。
「精霊の召喚と学院への入学を薦めておいて、そんな事まったく言ってなかったですよね?」
「ああ、そうか……申し訳ない。
そう言うところも配慮しなければならんな。
精霊の召喚は来週、月の日から順次行っていけるし、その後でも十分首都には着ける」
それを聞いて、少し落ち着いたアンナリーナは勧められた椅子に座り、出されたお茶に手をつける。
「そもそも “ 冬籠り ”って、どんな事をするんですか?
それって私たちもした方がいいのでしょうか?」
「そうだね。首都に行ったとしても、冬籠りは変わらない。
いささか忙しいが、あちらで落ち着く場所が決まり次第、設えた方がいい」
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