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第四章

211『出航の前に』

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 アンナリーナたちが乗船した翌日、リビングやキッチンを使いやすく調えていた時、先日のドアがノックされて船員が声をかけてきた。

「何だ?」

 応対したのはテオドールだ。
 アンナリーナでは舐められる事があるため、船での対応はそのほとんどをテオドールが担っていた。

「おくつろぎのところ失礼します。
 明日の出航の前に皆様に、航海中の注意点などご説明させていただきますので、この一刻後船内の談話室に集まっていただきたいと思います」

「了解した」

「それでは宜しくお願いします」

 思ったよりも腰の低い船員がドアを閉めて立ち去った後、テオドールが振り返る。

「だってさ」

「ふうん、じゃ着替えて来なきゃ、だね。ちょっとあっちに行ってくる」

「こっちは俺らで片付けとく」

 アンナリーナは身だしなみを調えるため、ツリーハウスに向かった。



 アンナリーナたちの船室がある階のひとつ下にある談話室は今、その隣にある遊戯室や喫茶室、喫煙室などと繋げて開放され、乗客たちの集合を待っていた。
 この船は客船としては、見かけは地味な船だが談話室の内装はそれなりに豪華だ。
 クリスタルのシャンデリアや造り付けの彫刻、壁を飾るタペストリーにシルクウールの絨毯。
 ここだけは船の中とは思えない、富裕層の為の別空間だった。

 この船には一等客室と二等客室があり、両者はかなりの待遇と運賃の格差があった。
 元より、大陸行きの船便は少なく、乗客も限られている。
 それなりの規模の船だが滅多に満席になる事はなく、今回は例外的にかなりの部屋が、それも二等客室が埋まっていた。


「これが済んだら少し早いけど夕食にして、明日に備えて早く休もうか」

 談話室に向かう廊下を大男と並んで歩く少女。後ろには亜人……ドラゴニュートとオーガを従えていた。
 彼女はこの船に3室しかない特別室の1室に滞在する客である。
 アンナリーナは、自分が傍目からどう見えるか無頓着であり、それは今纏っている衣服にも現れている。
 アンナリーナの代名詞になりつつある、アラクネ絹を淡い翡翠色に染めた、Aラインのロングワンピース。
 袖山にたっぷりとギャザーを寄せたパフスリーブで袖口はぴったりと細くなっていて、白い手が覗いている。
 その分、見頃はシンプルで、腰のベルトだけがアクセントになっていた。
 共布の室内ばきには花の刺繍が施されていて、その姿を目にしたものたちにより、アンナリーナは一目で裕福な令嬢だと認識されていた。


「乗客の皆様、お集まり下さりありがとうございます。
 これから約3ヶ月間、生活を共にする皆様にはこれからいくつか、ご注意する事がございます」

 こうして説明会が始まった。
 そのなかで顔は動かさず、だが視線だけを忙しなく動かしている中年の女がいた。
 その視線はかなりの時間、アンナリーナたちに向けられていて、気づいたセトたちの敵意に慌てて退散していった。その時は彼女の意図を図れなかっだが、彼女らの計画はアンナリーナたちの手によってあっさりと頓挫する事になる。

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