420 / 577
第四章
180『幼妻』
しおりを挟む
明朝、食事を摂る一行の前に現れたのは、テオドールだけだった。
今までいつも2人揃って挨拶してきたのだが、今朝はアンナリーナの姿が見えない。
代表して聞いたのは、当然と言えば当然のバルトリだった。
「テオドール殿、リーナ殿は?」
「あ~ あいつは昨夜熱を出して、今は下がっているが今日は一日休みだ」
「それは……大丈夫なのですか?」
「ああ、結界とかは問題ない。
ただ、馬車を引く奴ら以外のエピオルスは、ちょっと遠慮してもらう」
「いえ、そうじゃなくて、いや、それもあるんですが、私はリーナ殿の体調が心配で」
アンナリーナの見た目は、華奢な少女である。発熱したなどと聞けば当然その容態を心配するだろう。
「ああ、すまない。
でも、ウチのはいつもの事なんだ」
「“ ウチの ”?」
耳聡く聞きつけたジルが、流せずに聞き返す。
「ああ、ウチの。
リーナと俺は夫婦だから」
「えええーっ!!」
隊商側の者たちに激震が走った。
ちなみに乗り合い馬車組は、2人が夫婦だということは遠に知っている。
「あんた、それって犯罪だろう!
何てことするんだ!!」
サリトナーが唾を飛ばさんばかりの勢いで叫んでいる。
テオドールとしてはいつもの事なので落ち着いたものだ。
「リーナはあんな見かけだが、とっくに成人してる。何も問題ない。
……まぁ、ちびっこだから色々……なんだがな」
「信じられない、信じられない。
あんた、その図体で嬢ちゃんを……
何て事するんだ!」
イアンが顔を赤らめて罵倒している。
これもいつもの事だ。
「そんな無体な事はしないさ」
もうこのあとは惚気になりそうなので、ジルが間に入って強制終了。
しかし男たちのやきもきした思いはなくならない。
それは夕刻、アンナリーナが夕食に現れるまで続き、意図せずに “ そういう目 ”で見てしまう自分たちを責め、反省した。
衛星都市ミルバラ。
アンナリーナの馬車は今、そこを目指して疾走している。
馬車の周りには適度に間隔を空けてエピオルスの集団が並走していた。
テオドールはダマスクと共に御者台に、バルトリは部屋で商品とリストを確認していた。
アンナリーナは……ツリーハウスより扉をくぐって、久しぶりに訪れる場所に来ていた。
「ユングクヴィスト様?」
そろりと扉を開けて、研究室兼居間?を覗くと、そこには眼鏡をかけて難しい顔をしているユングクヴィストがいる。
「ん? おお、リーナか。
久しぶりじゃな、息災にしておったか?」
眼鏡を外して立ち上がり、アンナリーナの手を取る。
その手に、逃がさないぞと言わんばかりの意思を感じ、アンナリーナは後退った。
「ええと、ユングクヴィスト様?」
「出国は許したが、何の連絡もなくフラフラと……」
ほんの少し怒りの混じった、呆れ果てたような声に、そう言えば出発の時の約束を思い出す。
「あの……ごめんなさい」
「で、今日はどうしたのだ?」
しつこくならない程度で話を切り上げ、本来の話題にと向ける。
アンナリーナは一枚の地図を取り出した。
今までいつも2人揃って挨拶してきたのだが、今朝はアンナリーナの姿が見えない。
代表して聞いたのは、当然と言えば当然のバルトリだった。
「テオドール殿、リーナ殿は?」
「あ~ あいつは昨夜熱を出して、今は下がっているが今日は一日休みだ」
「それは……大丈夫なのですか?」
「ああ、結界とかは問題ない。
ただ、馬車を引く奴ら以外のエピオルスは、ちょっと遠慮してもらう」
「いえ、そうじゃなくて、いや、それもあるんですが、私はリーナ殿の体調が心配で」
アンナリーナの見た目は、華奢な少女である。発熱したなどと聞けば当然その容態を心配するだろう。
「ああ、すまない。
でも、ウチのはいつもの事なんだ」
「“ ウチの ”?」
耳聡く聞きつけたジルが、流せずに聞き返す。
「ああ、ウチの。
リーナと俺は夫婦だから」
「えええーっ!!」
隊商側の者たちに激震が走った。
ちなみに乗り合い馬車組は、2人が夫婦だということは遠に知っている。
「あんた、それって犯罪だろう!
何てことするんだ!!」
サリトナーが唾を飛ばさんばかりの勢いで叫んでいる。
テオドールとしてはいつもの事なので落ち着いたものだ。
「リーナはあんな見かけだが、とっくに成人してる。何も問題ない。
……まぁ、ちびっこだから色々……なんだがな」
「信じられない、信じられない。
あんた、その図体で嬢ちゃんを……
何て事するんだ!」
イアンが顔を赤らめて罵倒している。
これもいつもの事だ。
「そんな無体な事はしないさ」
もうこのあとは惚気になりそうなので、ジルが間に入って強制終了。
しかし男たちのやきもきした思いはなくならない。
それは夕刻、アンナリーナが夕食に現れるまで続き、意図せずに “ そういう目 ”で見てしまう自分たちを責め、反省した。
衛星都市ミルバラ。
アンナリーナの馬車は今、そこを目指して疾走している。
馬車の周りには適度に間隔を空けてエピオルスの集団が並走していた。
テオドールはダマスクと共に御者台に、バルトリは部屋で商品とリストを確認していた。
アンナリーナは……ツリーハウスより扉をくぐって、久しぶりに訪れる場所に来ていた。
「ユングクヴィスト様?」
そろりと扉を開けて、研究室兼居間?を覗くと、そこには眼鏡をかけて難しい顔をしているユングクヴィストがいる。
「ん? おお、リーナか。
久しぶりじゃな、息災にしておったか?」
眼鏡を外して立ち上がり、アンナリーナの手を取る。
その手に、逃がさないぞと言わんばかりの意思を感じ、アンナリーナは後退った。
「ええと、ユングクヴィスト様?」
「出国は許したが、何の連絡もなくフラフラと……」
ほんの少し怒りの混じった、呆れ果てたような声に、そう言えば出発の時の約束を思い出す。
「あの……ごめんなさい」
「で、今日はどうしたのだ?」
しつこくならない程度で話を切り上げ、本来の話題にと向ける。
アンナリーナは一枚の地図を取り出した。
2
お気に入りに追加
608
あなたにおすすめの小説
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
おばあちゃん(28)は自由ですヨ
七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。
その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。
どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。
その途端、響く悲鳴。
突然、年寄りになった王子らしき人。
そして気付く。
あれ、あたし……おばあちゃんになってない!?
ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!?
魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。
召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。
普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。
自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く)
元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。
外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。
※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。
※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要)
※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。
※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界転生は、0歳からがいいよね
八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。
神様からのギフト(チート能力)で無双します。
初めてなので誤字があったらすいません。
自由気ままに投稿していきます。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる