410 / 577
第四章
170『学研都市でやっておくこと』
しおりを挟む
例の串焼き屋は今日も長蛇の列が出来、満員御礼だ。
忙しそうに串焼きを焼く主人の他に、今日は奥さんと見られる売り子がいた。
主人とチラリと目が会うと、アンナリーナは手を振ってその場を通り過ぎた。
「結局、気乗りしないけど、ここに来ることになるんだよね」
アンナリーナとテオドールは今、大学院への門の前にいる。
本日は授業中のため、門は開かれていた。
「まあ、とりあえず……
管理棟の方に行って、案内してもらおうかな」
白亜の、円柱の立ち並ぶポーチに神々?の石像が並ぶ。
アンナリーナたちはその像を横目に見て、開かれたままの扉から中に入っていった。
そのまま受付に近づいていく。
受付のカウンターに着いていたのは、いつもの受付嬢ではなかった。
彼女はいわゆる縁故採用で、貴族社会に属するものだ。
「こんにちは。リーナと申しますが、シャルメンタル卿とお約束しているのですが」
受付嬢の遠慮ない視線が、アンナリーナたちを舐めるように動き、小さく鼻を鳴らした。
アンナリーナたちは、実はその素材は最高級の品々を使っているのだが見るからに冒険者な様相なので見下されたようだ。
「本日、学院長のご予定では、面会は入っておりません。
日時のお間違えではありませんか?」
シャルメンタル卿はアンナリーナの面会をフリーパスにしていたのだが、この受付嬢は見た目で判断してしまったのだ。
どこまでも非貴族を差別している受付嬢は、さっさと追い返そうとさらに言葉を続ける。
「学院長はお忙しいの。
あなた方のように訪ねて来るものたちすべてに会っていたら、お身体がいくつあっても足りないわ。
申し訳ないけど今日は引きとっていただけるかしら」
ここで罵倒しないのはさすがだった。
対してアンナリーナは見た目は残念そうに装いながらも、内心では踊らんばかりに歓喜していた。
『やったー! ウザいおっさんと会わずに済んだ!ありがとう、お姉さん!』
「左様ですか、残念ですがこれでおいとまさせていただきます」
そう言って大学院を後にするアンナリーナは、弾み出さないように苦労しながら門を出た。
「良かったー!
もうこれでここに来ることなく出発出来るよ。熊さん、これからどこか行きたいところはある?」
「別にないな。
……この後はゆっくりと市場を回って、足りないものを買い込んだらどうだ?」
この国の農作物は改良されておいしいとの評判だ。
アンナリーナは、小麦や米など用途に応じて【異世界買物】で購入しているが、こちらの作物も旬の折には購入している。
今なら小麦が出回り始めていたが、ここまでは手に入れてなかった。
「そうだね。ちょっと見て回ろうか」
小麦や根菜や、ガレットに出来そうな雑穀を買いながらアンナリーナは、テオドールと市場をそぞろ歩いた。
本当にこの学研都市は豊かだ。
大きな町にはありがちなスラムもなく、町行く人たちも一定の生活基準にあると言っていい。
これは例の、転生者であろうエドワルド王の治世の結果であろうか。
アンナリーナは自分と同じ転生者の、その一生を考えて胸詰まる思いだった。
その後アンナリーナは串焼き屋に寄って、明後日の朝出発する事を伝え、串焼きを20本買って帰った。
出発前日はテオドールの希望で1日静養する事になり、ツリーハウスのベッドで過ごした。
なお、アンナリーナを待ちわびていたシャルメンタル卿は受付嬢の失態を聞きずいぶん立腹して、再び招こうとした時はもう出発した後だったという。
忙しそうに串焼きを焼く主人の他に、今日は奥さんと見られる売り子がいた。
主人とチラリと目が会うと、アンナリーナは手を振ってその場を通り過ぎた。
「結局、気乗りしないけど、ここに来ることになるんだよね」
アンナリーナとテオドールは今、大学院への門の前にいる。
本日は授業中のため、門は開かれていた。
「まあ、とりあえず……
管理棟の方に行って、案内してもらおうかな」
白亜の、円柱の立ち並ぶポーチに神々?の石像が並ぶ。
アンナリーナたちはその像を横目に見て、開かれたままの扉から中に入っていった。
そのまま受付に近づいていく。
受付のカウンターに着いていたのは、いつもの受付嬢ではなかった。
彼女はいわゆる縁故採用で、貴族社会に属するものだ。
「こんにちは。リーナと申しますが、シャルメンタル卿とお約束しているのですが」
受付嬢の遠慮ない視線が、アンナリーナたちを舐めるように動き、小さく鼻を鳴らした。
アンナリーナたちは、実はその素材は最高級の品々を使っているのだが見るからに冒険者な様相なので見下されたようだ。
「本日、学院長のご予定では、面会は入っておりません。
日時のお間違えではありませんか?」
シャルメンタル卿はアンナリーナの面会をフリーパスにしていたのだが、この受付嬢は見た目で判断してしまったのだ。
どこまでも非貴族を差別している受付嬢は、さっさと追い返そうとさらに言葉を続ける。
「学院長はお忙しいの。
あなた方のように訪ねて来るものたちすべてに会っていたら、お身体がいくつあっても足りないわ。
申し訳ないけど今日は引きとっていただけるかしら」
ここで罵倒しないのはさすがだった。
対してアンナリーナは見た目は残念そうに装いながらも、内心では踊らんばかりに歓喜していた。
『やったー! ウザいおっさんと会わずに済んだ!ありがとう、お姉さん!』
「左様ですか、残念ですがこれでおいとまさせていただきます」
そう言って大学院を後にするアンナリーナは、弾み出さないように苦労しながら門を出た。
「良かったー!
もうこれでここに来ることなく出発出来るよ。熊さん、これからどこか行きたいところはある?」
「別にないな。
……この後はゆっくりと市場を回って、足りないものを買い込んだらどうだ?」
この国の農作物は改良されておいしいとの評判だ。
アンナリーナは、小麦や米など用途に応じて【異世界買物】で購入しているが、こちらの作物も旬の折には購入している。
今なら小麦が出回り始めていたが、ここまでは手に入れてなかった。
「そうだね。ちょっと見て回ろうか」
小麦や根菜や、ガレットに出来そうな雑穀を買いながらアンナリーナは、テオドールと市場をそぞろ歩いた。
本当にこの学研都市は豊かだ。
大きな町にはありがちなスラムもなく、町行く人たちも一定の生活基準にあると言っていい。
これは例の、転生者であろうエドワルド王の治世の結果であろうか。
アンナリーナは自分と同じ転生者の、その一生を考えて胸詰まる思いだった。
その後アンナリーナは串焼き屋に寄って、明後日の朝出発する事を伝え、串焼きを20本買って帰った。
出発前日はテオドールの希望で1日静養する事になり、ツリーハウスのベッドで過ごした。
なお、アンナリーナを待ちわびていたシャルメンタル卿は受付嬢の失態を聞きずいぶん立腹して、再び招こうとした時はもう出発した後だったという。
2
お気に入りに追加
608
あなたにおすすめの小説
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
おばあちゃん(28)は自由ですヨ
七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。
その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。
どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。
その途端、響く悲鳴。
突然、年寄りになった王子らしき人。
そして気付く。
あれ、あたし……おばあちゃんになってない!?
ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!?
魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。
召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。
普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。
自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く)
元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。
外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。
※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。
※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要)
※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。
※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる