394 / 577
第四章
154『野営地の惨劇』
しおりを挟む
「何……これ?」
野営地いっぱいに広がる、ぐしゃぐしゃに壊れた馬車の残骸。
それはアンナリーナを、一瞬だが現実逃避させるほどの光景だった。
「酷い……」
傍でテオドールの呟きが聞こえる。
冒険者としての経験が長い彼を呆然とさせるほどの惨状は、夕陽に照らされて、その散々たる状況を際立たせている。
その時、先に我に返ったアンナリーナが叫んだ。
「熊さん、生きてるひとがいる!!」
アンナリーナが駆け寄り、瓦礫をかき分け始める。
だがすぐにらちがあかないと気づいたのだろう、馬車を出して彼らの名を呼んだ。
「セト!イジ!ツァーリ! 出てきて!」
アンナリーナに、その名を呼ばれた僕たちは、飛び出すように馬車から出てくると、いとも簡単に瓦礫を剥がしていく。
「こっちにも生存反応がある!
イジ、来て!」
そこに、エピオルスを繋いでいたテオドールが加わり、悍ましい光景の中、救助を始めた。
「こっちも、あっちにも生きてるひとがいる!」
外でのっぴきならない事態が起きていると気づいたアンソニーやガムリも出て来て、アンナリーナが示した場所の瓦礫を退けていくと、幾人もの瀕死の状態の人が見つかった。
本当に危険な状態の者には、アンナリーナがその場で【治癒魔法】をかける。
まずは命に別状がない状態にして、救護用に出したテントに並べていく。
そこではまず、アラーニェとアマルによって着衣を緩め、傷口を水で洗っていった。
結局、助けられたのは5人。
あたりには、見るからに冒険者と思われる、アンナリーナたちが間に合わず冥界に旅立った者たちの遺骸がいくつもあったが、それにしても少ないことに気づいていた。
「熊さん、これは……ちょっとおかしくない?」
馬車の状況からして魔獣に襲われたように見えるのだが、残された遺骸の数が少なすぎる。
この場で食べられてしまったにしては、普通何か身の回りのものが残るはずだ。
「生き残った奴らの、誰かが目を覚まさなければ……わからんな」
その頃、馬車の瓦礫をひとところにまとめていたセトたちも、瓦礫に魔獣の歯型などがないか確かめていたのだが、別の痕跡を見つけて困惑していた。
「主人、少しいいか?」
セトがテントの入り口から顔を覗かせて、アンナリーナを呼んだ。
アンナリーナ今、怪我人たちを傷薬だけで治療している。
今回は一応、ポーションの利用は任意とすることにしたのだ。
「どうしたの? セト」
アンナリーナが立ち上がり、近寄ってくる。
そして、もう真っ暗な外に出た。
「これを見てくれ」
差し出されたのは馬車の側面だった比較的大きな木材の瓦礫だ。
「え? 一体何?」
はじめ、黒っぽく塗られた板の何が不都合なのかわからなかったが、よくよく見てみると。
「これ……焦げてる?」
「主人、これは俺の想像なんだが、この馬車は火系魔法で吹き飛ばされたのではないかと思う。
僅かだが魔法の残滓を感じないか?」
そう言われてアンナリーナが【魔力察知】してみると、今はひとところに集められた瓦礫と、野営地全体から薄っすらと魔力が感じられる。
「ふわぁ、あの人たちは魔法が使える誰かに襲撃されたんだね」
残された状況から恐らく、襲撃者は応戦してきた護衛を殺し積荷を奪って、生き残った者を商品として連れ去る間際、火球かファイアアローで馬車を壊して証拠隠滅しようとしたのだろう。
「大変だ……」
アンナリーナは荒々しく踵を返して、テントの中に戻っていった。
野営地いっぱいに広がる、ぐしゃぐしゃに壊れた馬車の残骸。
それはアンナリーナを、一瞬だが現実逃避させるほどの光景だった。
「酷い……」
傍でテオドールの呟きが聞こえる。
冒険者としての経験が長い彼を呆然とさせるほどの惨状は、夕陽に照らされて、その散々たる状況を際立たせている。
その時、先に我に返ったアンナリーナが叫んだ。
「熊さん、生きてるひとがいる!!」
アンナリーナが駆け寄り、瓦礫をかき分け始める。
だがすぐにらちがあかないと気づいたのだろう、馬車を出して彼らの名を呼んだ。
「セト!イジ!ツァーリ! 出てきて!」
アンナリーナに、その名を呼ばれた僕たちは、飛び出すように馬車から出てくると、いとも簡単に瓦礫を剥がしていく。
「こっちにも生存反応がある!
イジ、来て!」
そこに、エピオルスを繋いでいたテオドールが加わり、悍ましい光景の中、救助を始めた。
「こっちも、あっちにも生きてるひとがいる!」
外でのっぴきならない事態が起きていると気づいたアンソニーやガムリも出て来て、アンナリーナが示した場所の瓦礫を退けていくと、幾人もの瀕死の状態の人が見つかった。
本当に危険な状態の者には、アンナリーナがその場で【治癒魔法】をかける。
まずは命に別状がない状態にして、救護用に出したテントに並べていく。
そこではまず、アラーニェとアマルによって着衣を緩め、傷口を水で洗っていった。
結局、助けられたのは5人。
あたりには、見るからに冒険者と思われる、アンナリーナたちが間に合わず冥界に旅立った者たちの遺骸がいくつもあったが、それにしても少ないことに気づいていた。
「熊さん、これは……ちょっとおかしくない?」
馬車の状況からして魔獣に襲われたように見えるのだが、残された遺骸の数が少なすぎる。
この場で食べられてしまったにしては、普通何か身の回りのものが残るはずだ。
「生き残った奴らの、誰かが目を覚まさなければ……わからんな」
その頃、馬車の瓦礫をひとところにまとめていたセトたちも、瓦礫に魔獣の歯型などがないか確かめていたのだが、別の痕跡を見つけて困惑していた。
「主人、少しいいか?」
セトがテントの入り口から顔を覗かせて、アンナリーナを呼んだ。
アンナリーナ今、怪我人たちを傷薬だけで治療している。
今回は一応、ポーションの利用は任意とすることにしたのだ。
「どうしたの? セト」
アンナリーナが立ち上がり、近寄ってくる。
そして、もう真っ暗な外に出た。
「これを見てくれ」
差し出されたのは馬車の側面だった比較的大きな木材の瓦礫だ。
「え? 一体何?」
はじめ、黒っぽく塗られた板の何が不都合なのかわからなかったが、よくよく見てみると。
「これ……焦げてる?」
「主人、これは俺の想像なんだが、この馬車は火系魔法で吹き飛ばされたのではないかと思う。
僅かだが魔法の残滓を感じないか?」
そう言われてアンナリーナが【魔力察知】してみると、今はひとところに集められた瓦礫と、野営地全体から薄っすらと魔力が感じられる。
「ふわぁ、あの人たちは魔法が使える誰かに襲撃されたんだね」
残された状況から恐らく、襲撃者は応戦してきた護衛を殺し積荷を奪って、生き残った者を商品として連れ去る間際、火球かファイアアローで馬車を壊して証拠隠滅しようとしたのだろう。
「大変だ……」
アンナリーナは荒々しく踵を返して、テントの中に戻っていった。
2
お気に入りに追加
608
あなたにおすすめの小説
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
おばあちゃん(28)は自由ですヨ
七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。
その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。
どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。
その途端、響く悲鳴。
突然、年寄りになった王子らしき人。
そして気付く。
あれ、あたし……おばあちゃんになってない!?
ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!?
魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。
召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。
普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。
自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く)
元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。
外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。
※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。
※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要)
※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。
※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる