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第四章
147『学研都市 アルファ・ケンタウリ』
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夕陽が反射した白い壁が映える。
今、乗客の目でも捉えられてるのは、これから到着しようとしている、都市の防壁だ。
「きれいだね……」
この光景を目にしたものの大多数がそう言う、感激の混じった言葉だ。
「この防壁は白っぽいんだね。
それに、教会?の尖塔が見える」
これはかなり異例なことだ。
ここまで大掛かりな建物は、王都以外には稀なためだ。
そうこうするうち、馬車は立派な門に到着し、手続きが始まった。
乗客は一度馬車から降り、身分証明書を差し出して検閲を受ける。
今まで旅をしてきて初めてと言える厳しい検査に、アンナリーナたちはともかく、特に父子と少女は怯えすら見せていた。
アンナリーナたちの番になり、ギルドカードを差し出すと、係官はチラリと見ただけでほぼフリーパスだ。
そしてもう一度馬車に乗り、全員が戻ってくるのを待っていた。
アンナリーナとテオドールが【念話】で遣り取りしていた事。
それはすでに結論に達し、あとは実行に移すばかりだった。
乗客たちは、乗り合い馬車の定宿である宿屋に降ろされ、馬車は駅舎に戻っていく。
アンナリーナたちは、一度宿に落ち着いたと見せて、外出していった。
この、王都にも引けを取らない規模の都市は【学研都市アルファ・ケンタウリ】と言って、その名の通り大学院と研究施設を中心として栄えた都市だ。
300年ほど前、当時現れた勇者によって国内は平定され、その時教育に力を入れた彼によって設立された学院を中心として大きくなった町だった。
「普通の町とはまた違った活気があるね」
一般の人々に混じって、ローブを纏った魔法職の割合が多い。
実質彼らがこの都市の経済を回していると言っても過言ではない。
彼らの生活のために一般の町人が移り住み、飲食や生活のための職に就く。
魔法職のための職人が集まってきて、その素材を得るために冒険者に依頼を出し、冒険者たちは外の森から素材を集め、それをギルドや直接職人に売り、得た金で酒を飲み、生活していく。ここに見事に経済が回っている、まるでお手本のような都市が出来上がっているのだが、アンナリーナはこれが決して偶然出ないことに気づいていた。
『この仕組みを作った勇者と言うのは……おそらく転生者もしくは転移者なのだわ』
軽くショックを受けながらも、本来の目的に向かって、足を進めた。
「ダマスクさん」
アンナリーナたちがやって来たのは、明日の朝乗車する馬車の元だ。
御者のダマスクと護衛たちはまた忙しそうに働いていた。
「お疲れ様です。
あの、よろしいですか?」
「リーナさん? 」
「あの、急で悪いのですが、この都市に着いてみて、図書館に興味が湧いてしまって……私たちはしばらくここに逗留したいと思いまして。
それで、明朝の馬車はキャンセルさせていただきたいのです。
もちろん、こちらの勝手な理由なので運賃の返還は結構ですので」
「わかりました。運行側にそう伝えておきます。
何、リーナさんたちが特別って事じゃないんですよ。
この学研都市の規模を見て、ここで予定を変更する方はたくさんいます。
今回の乗客でも、最初からここまでの予定だった3人の他、あと2人もここで降りるんですよ」
ただ、ダマスクはそれだけではないことを何となくだが察していたが。
「ここまでお世話になりました。
本当にありがとう」
「いえ、こちらこそ。
では、お2人の事は運営の方に引き継いでおきますので。
あの、返金は本当によいので?」
「ええ」
町の中心部の、夕刻になって賑やかになっている通りをそぞろ歩き、宿の夕食に遅れないように戻ってきたアンナリーナは、酒を飲みはじめている客たちを尻目に、目立たない端の席についた。
近くにはあの父子がいる。
だが、いつも旺盛な食欲を見せる男の子が俯いて元気がない。
「? あれ? ちょっと拙いのと違う?」
簡易の鑑定だけでもすぐにわかる。
「発熱してる」
今、乗客の目でも捉えられてるのは、これから到着しようとしている、都市の防壁だ。
「きれいだね……」
この光景を目にしたものの大多数がそう言う、感激の混じった言葉だ。
「この防壁は白っぽいんだね。
それに、教会?の尖塔が見える」
これはかなり異例なことだ。
ここまで大掛かりな建物は、王都以外には稀なためだ。
そうこうするうち、馬車は立派な門に到着し、手続きが始まった。
乗客は一度馬車から降り、身分証明書を差し出して検閲を受ける。
今まで旅をしてきて初めてと言える厳しい検査に、アンナリーナたちはともかく、特に父子と少女は怯えすら見せていた。
アンナリーナたちの番になり、ギルドカードを差し出すと、係官はチラリと見ただけでほぼフリーパスだ。
そしてもう一度馬車に乗り、全員が戻ってくるのを待っていた。
アンナリーナとテオドールが【念話】で遣り取りしていた事。
それはすでに結論に達し、あとは実行に移すばかりだった。
乗客たちは、乗り合い馬車の定宿である宿屋に降ろされ、馬車は駅舎に戻っていく。
アンナリーナたちは、一度宿に落ち着いたと見せて、外出していった。
この、王都にも引けを取らない規模の都市は【学研都市アルファ・ケンタウリ】と言って、その名の通り大学院と研究施設を中心として栄えた都市だ。
300年ほど前、当時現れた勇者によって国内は平定され、その時教育に力を入れた彼によって設立された学院を中心として大きくなった町だった。
「普通の町とはまた違った活気があるね」
一般の人々に混じって、ローブを纏った魔法職の割合が多い。
実質彼らがこの都市の経済を回していると言っても過言ではない。
彼らの生活のために一般の町人が移り住み、飲食や生活のための職に就く。
魔法職のための職人が集まってきて、その素材を得るために冒険者に依頼を出し、冒険者たちは外の森から素材を集め、それをギルドや直接職人に売り、得た金で酒を飲み、生活していく。ここに見事に経済が回っている、まるでお手本のような都市が出来上がっているのだが、アンナリーナはこれが決して偶然出ないことに気づいていた。
『この仕組みを作った勇者と言うのは……おそらく転生者もしくは転移者なのだわ』
軽くショックを受けながらも、本来の目的に向かって、足を進めた。
「ダマスクさん」
アンナリーナたちがやって来たのは、明日の朝乗車する馬車の元だ。
御者のダマスクと護衛たちはまた忙しそうに働いていた。
「お疲れ様です。
あの、よろしいですか?」
「リーナさん? 」
「あの、急で悪いのですが、この都市に着いてみて、図書館に興味が湧いてしまって……私たちはしばらくここに逗留したいと思いまして。
それで、明朝の馬車はキャンセルさせていただきたいのです。
もちろん、こちらの勝手な理由なので運賃の返還は結構ですので」
「わかりました。運行側にそう伝えておきます。
何、リーナさんたちが特別って事じゃないんですよ。
この学研都市の規模を見て、ここで予定を変更する方はたくさんいます。
今回の乗客でも、最初からここまでの予定だった3人の他、あと2人もここで降りるんですよ」
ただ、ダマスクはそれだけではないことを何となくだが察していたが。
「ここまでお世話になりました。
本当にありがとう」
「いえ、こちらこそ。
では、お2人の事は運営の方に引き継いでおきますので。
あの、返金は本当によいので?」
「ええ」
町の中心部の、夕刻になって賑やかになっている通りをそぞろ歩き、宿の夕食に遅れないように戻ってきたアンナリーナは、酒を飲みはじめている客たちを尻目に、目立たない端の席についた。
近くにはあの父子がいる。
だが、いつも旺盛な食欲を見せる男の子が俯いて元気がない。
「? あれ? ちょっと拙いのと違う?」
簡易の鑑定だけでもすぐにわかる。
「発熱してる」
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