338 / 577
第四章
98『憧れの馬車旅』
しおりを挟む
片方は鬱蒼とした森、もう片方は雑木林を目にして、2頭のエピオルスは並足で進む。
御者台にはテオドールとアンナリーナ。
その頃、セトたちは魔獣の森で薬草採取に勤しんでいる。
街道とは言っても辺境に近い田舎の道だ。
そんな荒れた地面をエピオルスたちは軽々と進んでいる。
アンナリーナの【マップ】でもこのあたりは真っ白で、進むに従って記載されていく。
「リーナ、さっきの町を通り過ぎて良かったのか?」
「うん、たぶんあそこが……私が生まれた村から一番近い町だったと思うの。だからこそ、村の生き残りが移住している可能性もあるし、その連中には会いたくないので、出来ればもう2つくらい離れた町に寄りたい」
「それは構わないが」
「うん、今夜は野営かな?」
「ツリーハウスに戻ればいいだろ」
ふたりは顔を見合わせて、クスリと笑った。
夜闇のなか、結界に囲まれた馬車の傍らに火を熾し、アンナリーナとテオドールは普通の野営のように座っていた。
春とはいえ夜は冷える。
夕食には暖かなクリームシチューを選び、ホカホカのケバブに細く刻んだレタスやトマトをオーロラソースで和えたサラダ。
硬い目に焼いた黒パンを添えて、今夜は少しだけビールも出した。
「熊さんと二人きりって初めてじゃない? こういうのもたまにはいいね」
シチューのホクホクのじゃがいもをスプーンで割って、フーフーと息を吹きかけ冷まして口にする。
「このじゃがいも、美味しい。
アグボンラオールで大人買いして良かった」
市場の商人の倉庫にまで押しかけて、買い付けたじゃがいも。
前世での男爵芋に近い品種のこれは、煮込み過ぎると崩れてしまうが、そのかわり食感はホクホクとしていて絶品だ。ほのかな甘みはアンナリーナ好みで、マッシュポテトやポテトサラダにしても美味しいだろう。
そしてアンナリーナは肉じゃがに思いを馳せる。
「リーナ」
どうやらこの幸せな時間を邪魔するものが現れたようだ。
結界を不可視のものに変え、アンナリーナたちは様子を伺った。
不審な気配を感じ、セトが馬車の中から現れる。
「魔獣……ではなさそうだな。
主人、どうします?」
セトが暗闇をジッと見つめるなか、テオドールが戦斧を手にした。
「人間のようだね。
敵意はなさそうだけど、こちらに気づいてないだけかもしれないし……ちょっと注意しようか」
そう言いながらも食事は続けているアンナリーナを見て、テオドールはまた腰を下ろした。
「あちらからは見えないんだし、まあ高レベルの魔法職がいたら結界に気づくかもしれないけど、それだけだよ」
だからそのビールを飲んでしまっていいよ、と言われテオドールは苦笑する。
不寝番はネロとその配下に任せる事にして、アンナリーナはサラダを口にした。
その一行の足取りは鈍く、その装備もボロボロな状態だった。
中には怪我をしているものもいて、ようやく “ 現場 ”から逃げ出してきたと思われる状況だ。
だが、アンナリーナは即座に関わらない事を決め、無視する事にする。
一体何があったのか情報収集はするが、それだけだ。
「おい、何かおかしい……
ちょっと待ってくれ」
見るからに魔法職な男が声をかけ、一行は足を止めた。
「近くに何かある。
目には見えないが、魔力の歪みがある。なんだろう……」
思わず、アンナリーナは舌打ちしてしまう。
このまま気づかず通り過ぎてくれれば良かったのだが、そうはいかないようだ。
「まあ、こちらから声をかけなければ見られる事もないし、ほっときましょう」
彼らがいかに疲れていようと、たとえ怪我人がいようと今回アンナリーナは関わり合いになるつもりはない。
御者台にはテオドールとアンナリーナ。
その頃、セトたちは魔獣の森で薬草採取に勤しんでいる。
街道とは言っても辺境に近い田舎の道だ。
そんな荒れた地面をエピオルスたちは軽々と進んでいる。
アンナリーナの【マップ】でもこのあたりは真っ白で、進むに従って記載されていく。
「リーナ、さっきの町を通り過ぎて良かったのか?」
「うん、たぶんあそこが……私が生まれた村から一番近い町だったと思うの。だからこそ、村の生き残りが移住している可能性もあるし、その連中には会いたくないので、出来ればもう2つくらい離れた町に寄りたい」
「それは構わないが」
「うん、今夜は野営かな?」
「ツリーハウスに戻ればいいだろ」
ふたりは顔を見合わせて、クスリと笑った。
夜闇のなか、結界に囲まれた馬車の傍らに火を熾し、アンナリーナとテオドールは普通の野営のように座っていた。
春とはいえ夜は冷える。
夕食には暖かなクリームシチューを選び、ホカホカのケバブに細く刻んだレタスやトマトをオーロラソースで和えたサラダ。
硬い目に焼いた黒パンを添えて、今夜は少しだけビールも出した。
「熊さんと二人きりって初めてじゃない? こういうのもたまにはいいね」
シチューのホクホクのじゃがいもをスプーンで割って、フーフーと息を吹きかけ冷まして口にする。
「このじゃがいも、美味しい。
アグボンラオールで大人買いして良かった」
市場の商人の倉庫にまで押しかけて、買い付けたじゃがいも。
前世での男爵芋に近い品種のこれは、煮込み過ぎると崩れてしまうが、そのかわり食感はホクホクとしていて絶品だ。ほのかな甘みはアンナリーナ好みで、マッシュポテトやポテトサラダにしても美味しいだろう。
そしてアンナリーナは肉じゃがに思いを馳せる。
「リーナ」
どうやらこの幸せな時間を邪魔するものが現れたようだ。
結界を不可視のものに変え、アンナリーナたちは様子を伺った。
不審な気配を感じ、セトが馬車の中から現れる。
「魔獣……ではなさそうだな。
主人、どうします?」
セトが暗闇をジッと見つめるなか、テオドールが戦斧を手にした。
「人間のようだね。
敵意はなさそうだけど、こちらに気づいてないだけかもしれないし……ちょっと注意しようか」
そう言いながらも食事は続けているアンナリーナを見て、テオドールはまた腰を下ろした。
「あちらからは見えないんだし、まあ高レベルの魔法職がいたら結界に気づくかもしれないけど、それだけだよ」
だからそのビールを飲んでしまっていいよ、と言われテオドールは苦笑する。
不寝番はネロとその配下に任せる事にして、アンナリーナはサラダを口にした。
その一行の足取りは鈍く、その装備もボロボロな状態だった。
中には怪我をしているものもいて、ようやく “ 現場 ”から逃げ出してきたと思われる状況だ。
だが、アンナリーナは即座に関わらない事を決め、無視する事にする。
一体何があったのか情報収集はするが、それだけだ。
「おい、何かおかしい……
ちょっと待ってくれ」
見るからに魔法職な男が声をかけ、一行は足を止めた。
「近くに何かある。
目には見えないが、魔力の歪みがある。なんだろう……」
思わず、アンナリーナは舌打ちしてしまう。
このまま気づかず通り過ぎてくれれば良かったのだが、そうはいかないようだ。
「まあ、こちらから声をかけなければ見られる事もないし、ほっときましょう」
彼らがいかに疲れていようと、たとえ怪我人がいようと今回アンナリーナは関わり合いになるつもりはない。
1
お気に入りに追加
611
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
碓氷唯
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる