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第四章
91『ツリーハウス』
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テオドールに抱かれたままのアンナリーナが、ツリーハウスの内部を案内している。
「ここが玄関なの。
もう残り少ない、師匠に譲られた時のままの間取りなの」
アンナリーナの師匠、オッティリネリーナは魔獣の森のあの場所に住み着くまで、もっと町に近いところに住んでいた事もあったそうだ。
その時、客として訪れる事を許した者たちの為に、玄関を入ってすぐの部屋は店舗に近い設えになっていた。
「ここはもう使うことはないけれど、よく薬師様に色々と教えてもらったの……」
以前はソファーやテーブルがあった場所は通路となり、次の部屋に繋がっている。
「次は居間と台所。
台所も、広げはしたけどほとんどそのままなの。今はアンソニーのお城だけど、時間が許す限り私もお料理するんだよ」
居間には、セトから話を聞いた “ 家族 ”たちが集まって来ている。
「こっちの扉はみんなの部屋が並んでいるの。
そしてこの扉はさっき入ってきたところね。こっちの奥の方の扉が私のためのものなの」
その扉を開けると、右側にまた扉がある。
「こっちは調薬室と書庫があるの。
これも以前と一緒。
そしてこっちが自室なの」
アンナリーナのプライベートな居間があり、書斎がある。
そして一番奥に寝室があり、浴室などの水回りが付属している。
「熊さんのお部屋は私の隣でいい?
居間や浴室は共用しようと思うけど……何か意見があったら言って?」
アンナリーナはウルウルと目を潤ませている。
「いや、何か凄いな。
ここも空間拡張してるのか?」
「うん、基本的にはテントや馬車と一緒。ただここは元々薬師様の持ち物だったから……だから私に “ 従う ”という形をとった者しか入れないんだ」
テオドールは一度振り返り、そして居間を見回した。
「熊さん専用の部屋を隣に作るね。
居間も、もう少し広げようか」
感極まったアンナリーナがテオドールの首に抱きついて、小さな嗚咽が聴こえてくる。
震える背中を撫でながら、テオドールは感慨ひとしおだった。
この日を境にテオドールは、本拠地をツリーハウスに定め、クランハウスに置いていた荷物をすべて引き揚げてきた。
王都とハンネケイナ、両方のクランハウスの彼の部屋は完全に中継場所となり、これよりテオドールのクラン離れは顕著になっていく。
学院は新学期が始まり、今年もギフト授与式や入学式が行われていた。
初等科の授業から解放されたアンナリーナはアグボンラオールへの遠征に向けて、準備を重ねていた。
長期の遠征を見込み、卸先への納品に向けて調薬をしていたある日、その報せが飛び込んできた。
「第一騎士団が大敗?
一体相手は? いつの事です?」
この国は、多少色ボケの感があった国王がそれなりに治めている、他国との抗争もない平和な国だったはずだ。
眼前のユングクヴィストも渋い表情でいる。
「西の魔の森で討伐演習を行っていたところ、いきなり現れた一団と交戦状態となり善戦したのだが……魔獣討伐の最中だった事もあり劣勢に転じ、かなりの被害が出たもようなのだ。
悪いがリーナ、治療を手伝ってもらえんか?」
「もちろんです。
ユングクヴィスト様とご一緒します」
そしてふたりは立ち上がった。
「ここが玄関なの。
もう残り少ない、師匠に譲られた時のままの間取りなの」
アンナリーナの師匠、オッティリネリーナは魔獣の森のあの場所に住み着くまで、もっと町に近いところに住んでいた事もあったそうだ。
その時、客として訪れる事を許した者たちの為に、玄関を入ってすぐの部屋は店舗に近い設えになっていた。
「ここはもう使うことはないけれど、よく薬師様に色々と教えてもらったの……」
以前はソファーやテーブルがあった場所は通路となり、次の部屋に繋がっている。
「次は居間と台所。
台所も、広げはしたけどほとんどそのままなの。今はアンソニーのお城だけど、時間が許す限り私もお料理するんだよ」
居間には、セトから話を聞いた “ 家族 ”たちが集まって来ている。
「こっちの扉はみんなの部屋が並んでいるの。
そしてこの扉はさっき入ってきたところね。こっちの奥の方の扉が私のためのものなの」
その扉を開けると、右側にまた扉がある。
「こっちは調薬室と書庫があるの。
これも以前と一緒。
そしてこっちが自室なの」
アンナリーナのプライベートな居間があり、書斎がある。
そして一番奥に寝室があり、浴室などの水回りが付属している。
「熊さんのお部屋は私の隣でいい?
居間や浴室は共用しようと思うけど……何か意見があったら言って?」
アンナリーナはウルウルと目を潤ませている。
「いや、何か凄いな。
ここも空間拡張してるのか?」
「うん、基本的にはテントや馬車と一緒。ただここは元々薬師様の持ち物だったから……だから私に “ 従う ”という形をとった者しか入れないんだ」
テオドールは一度振り返り、そして居間を見回した。
「熊さん専用の部屋を隣に作るね。
居間も、もう少し広げようか」
感極まったアンナリーナがテオドールの首に抱きついて、小さな嗚咽が聴こえてくる。
震える背中を撫でながら、テオドールは感慨ひとしおだった。
この日を境にテオドールは、本拠地をツリーハウスに定め、クランハウスに置いていた荷物をすべて引き揚げてきた。
王都とハンネケイナ、両方のクランハウスの彼の部屋は完全に中継場所となり、これよりテオドールのクラン離れは顕著になっていく。
学院は新学期が始まり、今年もギフト授与式や入学式が行われていた。
初等科の授業から解放されたアンナリーナはアグボンラオールへの遠征に向けて、準備を重ねていた。
長期の遠征を見込み、卸先への納品に向けて調薬をしていたある日、その報せが飛び込んできた。
「第一騎士団が大敗?
一体相手は? いつの事です?」
この国は、多少色ボケの感があった国王がそれなりに治めている、他国との抗争もない平和な国だったはずだ。
眼前のユングクヴィストも渋い表情でいる。
「西の魔の森で討伐演習を行っていたところ、いきなり現れた一団と交戦状態となり善戦したのだが……魔獣討伐の最中だった事もあり劣勢に転じ、かなりの被害が出たもようなのだ。
悪いがリーナ、治療を手伝ってもらえんか?」
「もちろんです。
ユングクヴィスト様とご一緒します」
そしてふたりは立ち上がった。
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