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第四章

90『絆』

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 テオドールの手を引いてアンナリーナは、寮の部屋に移動していた。

「リーナ?」

「熊さん、ここに座って」

 アンナリーナの寝室に置かれたソファーに2人並んで座り、そして向き合った。

 いつもと違う、アンナリーナの様子に訝しみながらもテオドールは彼女の手を握り、その言葉を待った。

「熊さん……
 これから話すことは私の、とても自分勝手なお願いなの。
 だから熊さん、もし嫌ならはっきりとそう言って」

「おいおい、一体なんだって言うんだ?ずいぶんと勿体ぶるな」

 そう言われてもなかなか言葉が出て来ない。
 アンナリーナの指先は震えている。

「熊さん、私と【従属】契約をして欲しいの」

 やっと言い切ったアンナリーナの顔色は悪い。

「【従属】契約?
 それって、この間のガキとしていたヤツか?」

「うん、そうだよ。
 ただアントンとは即座に契約解除したけどね」

「そうか…… いいぞ」

「いいぞって、本当にいいの?
 私、まだ何も詳しい話、してないよね?」

 うろたえ始めたのは提案されたテオドールではなく、した方のアンナリーナだ。

「じゃあ、その詳しい話? してくれるか?」

 どっしりと深く、テオドールはソファーに座りなおす。


「わ、私は……熊さんと、いつも一緒にいたい」

「リーナ」

「【従属】なんて不本意だと思う。
 でも、他に考えつかなかったの。
 ごめんなさい」

「ん? どう言うことだ?」

「だって……だって熊さんは一番大切な “ 家族 ”なのに!
 ツリーハウスに住めないなんて!!」

 アンナリーナの胸の奥底で、いつもモヤモヤと燻っていた想い。
 家族としての従魔たちより、さらに深く結びついた伴侶であるテオドールが、どういう形を取ろうとアンナリーナの庇護下に入り家族全員がひとつ屋根の下に住むことが叶えば、それはアンナリーナの夢に近づく事になる。

「リーナがそう望むなら……
 俺としては大して忌避感はないし、何よりも惚れた女の “ お願い ”だ。
 言葉はどうあれ俺は構わんよ」

「ありがとう。熊さん」


 この後テオドールは【従属】契約の宣誓を行い、その夜は二人きりで過ごした。



 翌日。

「ねぇ、やっぱりやめよう」

 尻込みして、前に進もうとしないアンナリーナと、それを促すテオドール。
 そして、そのふたりを見つめるセト。
 この3人が先程から、ツリーハウスへの入り口となる扉の前で繰り返し遣り取りをしていた。

「テストだってしたし、それも問題なかった。でも不安なの!
 他に何か考えるから、やっぱり……」

 取りすがるアンナリーナをそのまま抱き上げて、スタスタと境界線に近づくとセトに目で合図する。
 そしてそのまま手を差し出した。

 アンナリーナにデジャヴがこみ上げてくる。
 そのこと自体に後悔はないが、どうしてもアントンの悲惨な最期を思い出した。

「熊さん、何を!?」

 その腕に変化が見えればすぐに切り落とせるように、セトが剣を構えるなか、テオドールの指先が、手が、肘から先が境界線を越え、何事も起きない事を確認して……アンナリーナの目から涙がこぼれ落ちた。

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