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第四章

65『大公妃 ローズ=マリー・ダビネチュスク』

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 ダビネチュスク大公妃ローズ=マリーは、噂の錬金薬師の少女と会えることに胸躍らせていた。

 昨年の、王宮での年越し大舞踏会で見かけてから何とか繋ぎを取りたいと八方手を尽くしていたが学院にもいないことの多い、まったく捉えどころのない人物であった。
 そんな時、夫の大公から今回の舞踏会に招待した賢者ユングクヴィスト師がパートナーとして同行すると聞くと、俄然発奮した。

 大公夫妻は老年に近づいた50代後半である。
 ふたりともよい年の取り方をしていて、3人の息子はすでに成人している。


「大公閣下、妃殿下」

 従者の先ぶれに立ち上がったアンナリーナは優雅な所作でカーテシーをした。

「ユングクヴィスト師、お弟子殿、ようこそいらっしゃった。
 皆も健勝であったか?」

 そこから男たちは、アンナリーナのわからない話をし始める。
 だが、夫の横で大公妃はワクワクしながらアンナリーナを見つめていた。

「ようこそ、可愛い錬金薬師殿。
 私、ローズ=マリーと申しますの。
 今宵はいらしてくれて、本当に嬉しいわ」

「リーナと申します。
 王立魔法学院に在学中の薬師です」

 改めてカーテシーをしたアンナリーナを暖かい目で見つめて、そして小さな手を取る。

「さあ、こちらにいらっしゃい。
 どうせ殿方は難しい話しかしないのだもの。
 今夜は私の居間にサロンを開いているのよ。
 どうぞ、いらして」

 どう応えてよいのか戸惑うアンナリーナに、大公が声をかけてくれた。

「後ほど迎えをやるので、奥の相手をしてやってくれぬかな。薬師殿」

 ユングクヴィストも頷いているので、アンナリーナは大公妃について行く事にした。


 広大な館の二階に上ると小ホールがあって、その奥に大公夫妻のプライベートなスペースがある。

「うふふ、今宵の舞踏会にあなたがいらっしゃると聞いて、凄く楽しみにしていたの。
 親しいお友達も呼びたかったのだけど、怖がらせてしまうと思って……」

 いつの間にか合流していた女官の手で扉が開かれ、粋人と有名な大公妃のサロンを目の前にした。

「素敵……」

 思わず呟いたアンナリーナは、不躾な事を言ってしまったと恐縮する。
 だが大公妃は破顔して、小さなアンナリーナを抱きしめてくる。

「そう仰ってもらえて嬉しいわ。
 聞き及んでおりましてよ?
 リーナさんの、寮のお部屋はそれはそれは素晴らしいのですってね」

 おそらくエレアント公爵だろう。
 アンナリーナは顔に出さないように、心の中で舌打ちする。

「ありがとうございます。
 薬師の仕事があるので広いお部屋をお願いして、そこで心地よく過ごさせていただいてます」

「王妃様のお茶会にもお呼ばれなさったのですってね」

 これは何もかも筒抜けであると覚悟した方がよい。
 アンナリーナは開き直った。


「まあ、それではリーナさんの衣装は、すべてその侍女の方が用意なさるの?」

「はい、アラーニェが布を織るところから始めます。
 特別な布を購入することもありますが、レースなんかも編んでくれますし、刺繍も得意です」

「んまぁ、素敵」

「アラーニェは私の従魔なんです」

「あら、リーナさんは従魔士でもあるの?」

「はい、私自身は戦闘はまったくですので、そちらの方は任せています」

 大公妃の目がキラキラ輝いている。
 そしてアンナリーナの手をガッチリと握りしめた。

「ねえリーナさん、うちには独身の息子が2人いるのだけど、うちにお嫁に来ない?」

 ずいぶんと率直なお誘いである。

「あの、誠に申し訳ございませんが、私もう結婚してるんです」

「あら! あらあら。
 もう結婚していたの?あなたいくつ?」

「15才です。ちゃんと成人してます」

「まあ、それはおめでとう。
 結婚してるなんて思ってもみなかったわ」

 ここで大公妃は、アンナリーナを既婚女性のみ参加のサロンに呼べる事に喜んだ。

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