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第四章
56『思いがけない再会』
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金属を加工する仕事をしているガムリにとって、目の前にある、わけのわからない機械の精巧さは目を瞠るものだった。
そしてこれはどういうものなのか、その面妖な形からは想像することもできない。
「ああっと、そうか。
イジ、お願い。ちょっと来て!」
トレーニングマシーンはイジの身体に合わせて最高の負荷になっている。
それをそのままドアーフのガムリに使わせるのは拙い。
「ガムリこれはね、今はもう滅んでしまった古代王国の技術のひとつなの(ということにしておく)。
身体を鍛える器具でね、今イジにひと通りやって見せてもらうから」
スチールやステンレスを使ったトレーニングマシーンの数々の、その形状や溶接の具合を撫でて確かめながら、ガムリはイジの様子をジッと見ていた。
「これは肩と腕を鍛えるものだ。
重さは個人に合わせて変えられる」
「俺も、やってみても?」
「もちろん」
アンナリーナはイジに指図して負荷を最低に落とし、介添を頼んでトレーニングルームを後にした。
ガムリの関心はとても長く後を引きそうな気がする。
アンナリーナがチョイスしていた授業を、学院側が整理してそれなりの試験の末に免除……飛び級することになった。
授業というものの雰囲気を楽しむために受講していた学科も多いので、アンナリーナとしては助かる限りだ。
すでに薬学科としては通常の授業としては教わる事がなく、これからは師匠ユングクヴィストの元でのみ行われる事になった。
対して建国史などの歴史関係の授業は嬉々として受講している。
歴史や暗記が大好きなアンナリーナは、どこまでも知識欲が旺盛で教師うけの良い生徒でもあった。
アンナリーナが学院とツリーハウスを行ったり来たりしていた頃、テオドールの方は【疾風の凶刃】への最後のご奉公、王都でのクランハウスのオープンのために奔走していた。
そんなある日。
アンナリーナが冒険者ギルドに向かうため、セトを連れて通りを歩いていた時、突然現れた気配に気づき後ろを振り返った途端、強く抱きしめられた。
「誰っ?! あぁ、あなたは」
アンナリーナに突進して来るものに、セトが反応しないはずがない。
その、反応しなかったという事はそういう事なのだ。
「エメラルダさん!! どうしてここに? アーネストさんも一緒って、どういう事?」
アンナリーナは混乱している。
【疾風の凶刃】絡みの事は、テオドールとしては逐一報告していない。
今回も完全なサプライズだった。
「今朝、王都に着いたの。
ギルドに行って、これからクランに行くところよ」
大熊(テオドールの渾名)と待ち合わせなのだが、まだ時間があったのであたりを見て回っていたと言う事。
そんななか、アンナリーナを見つけて思わず抱きついたそうだ。
「私もギルドに納品しに来たの。
一緒に行って熊さんを待ちましょうか」
王都のギルドには小洒落た喫茶室がある。これは依頼人との面談のためなのだが、いつもほとんど人はいない。
そこで魔法職ふたりとアンナリーナは優雅にお茶をしてテオドールを待っていた。
「そう言えば先日、エメラルダさんたちのお薬を熊さんのテント経由で送ったのですけど、入れ違いになっちゃいましたね」
「あっちに行く用事があるから持って帰ってくるわ」
やはり気配を殺して近づいて来たテオドールに抱きすくめられる。
「熊さん!」
「今朝ぶりだな。
今日の学院は昼からもあったんだな」
人前ではいつになく近い距離感は、テオドールからのアーネストに対する牽制だ。
「授業はなかったんだけどね、ユングクヴィスト様からお昼に誘われて、そのまま塔の研究室でお話してたの」
アーネストたちが見たこともない優しい眼差しで、アンナリーナを見ているテオドール。
アンナリーナがテオドールと夫婦になったという事を理解していても、アーネストはその思慕を抑えきれない。
「まあ、とりあえず、新しいクランハウスに行きましょうよ」
様子見をしていたエメラルダの言葉に、アンナリーナが頷く。
彼女も、初めて訪れるクランハウスが楽しみで仕方ない。
そしてこれはどういうものなのか、その面妖な形からは想像することもできない。
「ああっと、そうか。
イジ、お願い。ちょっと来て!」
トレーニングマシーンはイジの身体に合わせて最高の負荷になっている。
それをそのままドアーフのガムリに使わせるのは拙い。
「ガムリこれはね、今はもう滅んでしまった古代王国の技術のひとつなの(ということにしておく)。
身体を鍛える器具でね、今イジにひと通りやって見せてもらうから」
スチールやステンレスを使ったトレーニングマシーンの数々の、その形状や溶接の具合を撫でて確かめながら、ガムリはイジの様子をジッと見ていた。
「これは肩と腕を鍛えるものだ。
重さは個人に合わせて変えられる」
「俺も、やってみても?」
「もちろん」
アンナリーナはイジに指図して負荷を最低に落とし、介添を頼んでトレーニングルームを後にした。
ガムリの関心はとても長く後を引きそうな気がする。
アンナリーナがチョイスしていた授業を、学院側が整理してそれなりの試験の末に免除……飛び級することになった。
授業というものの雰囲気を楽しむために受講していた学科も多いので、アンナリーナとしては助かる限りだ。
すでに薬学科としては通常の授業としては教わる事がなく、これからは師匠ユングクヴィストの元でのみ行われる事になった。
対して建国史などの歴史関係の授業は嬉々として受講している。
歴史や暗記が大好きなアンナリーナは、どこまでも知識欲が旺盛で教師うけの良い生徒でもあった。
アンナリーナが学院とツリーハウスを行ったり来たりしていた頃、テオドールの方は【疾風の凶刃】への最後のご奉公、王都でのクランハウスのオープンのために奔走していた。
そんなある日。
アンナリーナが冒険者ギルドに向かうため、セトを連れて通りを歩いていた時、突然現れた気配に気づき後ろを振り返った途端、強く抱きしめられた。
「誰っ?! あぁ、あなたは」
アンナリーナに突進して来るものに、セトが反応しないはずがない。
その、反応しなかったという事はそういう事なのだ。
「エメラルダさん!! どうしてここに? アーネストさんも一緒って、どういう事?」
アンナリーナは混乱している。
【疾風の凶刃】絡みの事は、テオドールとしては逐一報告していない。
今回も完全なサプライズだった。
「今朝、王都に着いたの。
ギルドに行って、これからクランに行くところよ」
大熊(テオドールの渾名)と待ち合わせなのだが、まだ時間があったのであたりを見て回っていたと言う事。
そんななか、アンナリーナを見つけて思わず抱きついたそうだ。
「私もギルドに納品しに来たの。
一緒に行って熊さんを待ちましょうか」
王都のギルドには小洒落た喫茶室がある。これは依頼人との面談のためなのだが、いつもほとんど人はいない。
そこで魔法職ふたりとアンナリーナは優雅にお茶をしてテオドールを待っていた。
「そう言えば先日、エメラルダさんたちのお薬を熊さんのテント経由で送ったのですけど、入れ違いになっちゃいましたね」
「あっちに行く用事があるから持って帰ってくるわ」
やはり気配を殺して近づいて来たテオドールに抱きすくめられる。
「熊さん!」
「今朝ぶりだな。
今日の学院は昼からもあったんだな」
人前ではいつになく近い距離感は、テオドールからのアーネストに対する牽制だ。
「授業はなかったんだけどね、ユングクヴィスト様からお昼に誘われて、そのまま塔の研究室でお話してたの」
アーネストたちが見たこともない優しい眼差しで、アンナリーナを見ているテオドール。
アンナリーナがテオドールと夫婦になったという事を理解していても、アーネストはその思慕を抑えきれない。
「まあ、とりあえず、新しいクランハウスに行きましょうよ」
様子見をしていたエメラルダの言葉に、アンナリーナが頷く。
彼女も、初めて訪れるクランハウスが楽しみで仕方ない。
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