上 下
290 / 577
第四章

50『迫り来る盗賊団』

しおりを挟む
 アンナリーナの結界の効果を知っている一行は、セトやイジたちの見張りもあってそれなりに眠れたようだ。
 アンナリーナも疲れを取る薬湯を飲んでぐっすりと寝た。
 そして盗賊団は案の定、野営中に襲って来ることはなく、その位置は変わっていないようだった。


「今日は馬車にも結界をかけます。
 馬を含めて2台分、なるべく離れないように走って下さい」

 先頭は箱馬車、御者台にはテオドールが共に座り、馬車の中にはタイニスとオクタビオとアルバイン、そしてアンナリーナが乗っている。
 後方の幌馬車には御者台にはイジが共に乗り幌を隔てたその背後にはサルバドールが、後ろの開口部ではセトとアマルが監視していた。

「なるべく速い速度で駆け抜けます。今日も昼休みは取れないかもしれないですけど、熊さんとイジにはあらかじめ持たせてあるので、皆さんのは私が持ってます」

 今日は身体強化の付与を強めにして、一行は中継地を後にした。


「かなり距離をとって追いかけてきてますね」

 他者からは見えないアンナリーナのマップにはしっかりと青い点が表示されている。

「こちらの速度に追いつけずに、徐々に離されているのかな?
 それでも付いてきていますね」

 このまま追って来る盗賊団を引き離し、王都まで約2日、一気に駆け抜けるべきかタイニスやアルバインが真剣に考えていた時、アンナリーナも同じ考えでいた。

「馬の休憩は取りながら、野営はせずに夜間も走り続けますか?
 馬にはポーション(と回復魔法)を与えれば問題ないと思います」

「ではそうしようか。
 リーナさん、負担をかけて申し訳ないが、頼む」

「わかりました。なるべく引き離してから休憩しましょう」


 そんな段取りになっていたはずなのだが、今アンナリーナのマップ内にはこちらに向かって来る点が表示されていた。

「こちらに向かって来る……多分馬車に乗った一行がいます。
 これは敵意を持っていますから盗賊団の一味と考えた方が良さそうですね。
 それと森の中から魔獣の一団、多分15匹ほどと何人かヒトが。
 あちらにはテイマーがいるようですね」

 魔獣は恐らく狼系だろう。
 そして向こうからやって来る馬車は、故障したとか何とか言って、アンナリーナたちを足止めしようとしていると考えられる。

「茶番に付き合ってやりますか?
 あちらは、こちらに対する敵意で真っ赤ですよ」

 アンナリーナはアルバインに問いかける。そして。

「殺しちゃっていいですか?
 生かして捕まえるのって面倒くさいんですよ。
 あ、でも首実検出来なきゃダメなんですよね?
 ……焼いちゃったらダメだなぁ」

 さらりと怖いことを言うアンナリーナにサルバドールは怯えた目を向けた。

「出来れば何人か、幹部クラスを生かしておいてくれたら嬉しいが。
 今回は数が多いので無理は言わん」

「そうですか? ありがとう」

 アンナリーナは小窓を開けて、テオドールに声をかけた。

「熊さん! 今回は熊さんもひと暴れしたいでしょう?」

 上半身を半身に捻ってアンナリーナの方に向いたテオドールは、清々しいほどの笑みを浮かべて、親指を立てて見せた。

「うんうん、アラーニェとネロとアンソニーをこちらの護衛に残して、あとは打って出ようか!」

 アンナリーナたちによる、盗賊団殲滅戦が始まる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

碓氷唯
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

処理中です...