267 / 577
第四章
27『ハンネケイナへの里帰り』
しおりを挟む
魔法学院は元々貴族の子女が通う教育機関のため、社交界の日程に沿った授業スケジュールになっている。
駆け足のように過ぎ去った2学期を振り返り、アンナリーナは出立の準備をしていた。
「リーナ様、今回のダンジョン行は腰を据えて階層攻略なさるのでしょう?」
「う~ん、攻略にこだわっているわけじゃないし、時間の調整がメインだから」
今回、アンナリーナはハンネケイナに “ 里帰り ”するつもりだ。
本来なら、少なくとも20日はかかる道中を一瞬で転移できるアンナリーナは、その差違を有効利用しようと思っている。
「いくら何でも学院が夏休みを迎えてすぐにハンネケイナに姿を現したら、あとで辺境伯の耳に入ったら拙いでしょ」
便利な移動手段があっても、色々と悩みは尽きない。
「ドミニクスさん、久しぶり!!」
「リーナさん!学院は?」
ハンネケイナの冒険者ギルドに飛び込んだアンナリーナは、カウンターにドミニクスの姿を見つけ飛びついた。
「リーナさん、しばらくぶりですね。
……王都の貴族の学院に入学して、淑女になっているかと思っていたら……変わりませんね」
「酷いですね~
これでも王宮のお茶会やパーティに行ったんですよ」
そして2人は笑いあった。
「では鑑定室に行きましょう。
今日はテオドールは?」
「この後クランハウスで合流予定です。その前に、もし時間があったら町をぶらぶらしようかと」
「あまり遅くならないように。
最近は何かと物騒ですので」
そしてアンナリーナは、この日の為に作り貯めてきたポーションや薬を卸し、結構な金額を手に入れた。
その様子を、カウンター嬢から下働きに降格になったミルシュカが睨みつけていた。
「リーナ~」
【疾風の凶刃】のクランハウスでは、エメラルダに抱きつかれたアンナリーナの姿があった。
「エメラルダ、やめなよ。
リーナが困っている」
アーネストがエメラルダを引き剥がしにかかると、目に見えて不機嫌になって唇を尖らせた。
「だってぇ、久しぶりなんだもの」
「おまえら、いい加減にしろ!」
奥から聞こえてきた声に、アンナリーナが嬉々として振り返った。
「熊さん!」
その夜、クランハウスでは賑やかな声が途切れる事がなかった。
ふらりと訪れた森はいつもより闇が濃く、静寂に満ちていた。
ハンネケイナの町の外に広がる、いつもなら子供らでも食材を採りに入る森らしくもなく、ざわざわとした気配がする。
「何かしら?」
【探査】の精度をあげ、ゆっくりと周りを見回してみる。
すると森のかなり奥、少し木々の拓けたところに何やら2つの気配が感じられる。
「ひとつは魔獣、もうひとつはヒト、かしらね」
アンナリーナはゆっくりと近づいていった。
すると間もなく、女の悲鳴が聞こえてきて魔獣の唸り声と何かを強くぶつける音が聞こえてきた。
そっと木々の間を抜けながら現場を観察してみると、三つ目熊がピンクゴールドの髪をした少女を今まさに襲わんとしているところだった。
ピンク頭に良い思い出のないアンナリーナは無意識に【鑑定】していたのだが、それには思わぬ結果が現れていた。
「【魅了】持ち!?」
駆け足のように過ぎ去った2学期を振り返り、アンナリーナは出立の準備をしていた。
「リーナ様、今回のダンジョン行は腰を据えて階層攻略なさるのでしょう?」
「う~ん、攻略にこだわっているわけじゃないし、時間の調整がメインだから」
今回、アンナリーナはハンネケイナに “ 里帰り ”するつもりだ。
本来なら、少なくとも20日はかかる道中を一瞬で転移できるアンナリーナは、その差違を有効利用しようと思っている。
「いくら何でも学院が夏休みを迎えてすぐにハンネケイナに姿を現したら、あとで辺境伯の耳に入ったら拙いでしょ」
便利な移動手段があっても、色々と悩みは尽きない。
「ドミニクスさん、久しぶり!!」
「リーナさん!学院は?」
ハンネケイナの冒険者ギルドに飛び込んだアンナリーナは、カウンターにドミニクスの姿を見つけ飛びついた。
「リーナさん、しばらくぶりですね。
……王都の貴族の学院に入学して、淑女になっているかと思っていたら……変わりませんね」
「酷いですね~
これでも王宮のお茶会やパーティに行ったんですよ」
そして2人は笑いあった。
「では鑑定室に行きましょう。
今日はテオドールは?」
「この後クランハウスで合流予定です。その前に、もし時間があったら町をぶらぶらしようかと」
「あまり遅くならないように。
最近は何かと物騒ですので」
そしてアンナリーナは、この日の為に作り貯めてきたポーションや薬を卸し、結構な金額を手に入れた。
その様子を、カウンター嬢から下働きに降格になったミルシュカが睨みつけていた。
「リーナ~」
【疾風の凶刃】のクランハウスでは、エメラルダに抱きつかれたアンナリーナの姿があった。
「エメラルダ、やめなよ。
リーナが困っている」
アーネストがエメラルダを引き剥がしにかかると、目に見えて不機嫌になって唇を尖らせた。
「だってぇ、久しぶりなんだもの」
「おまえら、いい加減にしろ!」
奥から聞こえてきた声に、アンナリーナが嬉々として振り返った。
「熊さん!」
その夜、クランハウスでは賑やかな声が途切れる事がなかった。
ふらりと訪れた森はいつもより闇が濃く、静寂に満ちていた。
ハンネケイナの町の外に広がる、いつもなら子供らでも食材を採りに入る森らしくもなく、ざわざわとした気配がする。
「何かしら?」
【探査】の精度をあげ、ゆっくりと周りを見回してみる。
すると森のかなり奥、少し木々の拓けたところに何やら2つの気配が感じられる。
「ひとつは魔獣、もうひとつはヒト、かしらね」
アンナリーナはゆっくりと近づいていった。
すると間もなく、女の悲鳴が聞こえてきて魔獣の唸り声と何かを強くぶつける音が聞こえてきた。
そっと木々の間を抜けながら現場を観察してみると、三つ目熊がピンクゴールドの髪をした少女を今まさに襲わんとしているところだった。
ピンク頭に良い思い出のないアンナリーナは無意識に【鑑定】していたのだが、それには思わぬ結果が現れていた。
「【魅了】持ち!?」
3
お気に入りに追加
615
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
王女の夢見た世界への旅路
ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。
無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。
王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。
これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。
※小説家になろう様にも投稿しています。
隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
大賢者の弟子ステファニー
楠ノ木雫
ファンタジー
この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。
その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。
そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。
※他の投稿サイトにも掲載しています。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる