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第四章
15『アンソニーの決断』
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狭いカウンターを通り抜け、奥の部屋に向かう。
大柄な二人は窮屈そうに身体を屈め、アンナリーナに続いた。
入ったところの部屋を通り、さらに奥に向かう。
新しい建物はまだ新しい木の匂いがしているが、一番奥の部屋からは陰鬱な空気が溢れていた。
そっとドアを開けて中を覗くと、薄暗い部屋のベッドに横たわる小さな姿があった。
「あ、アンソニーさん?」
暗がりでもわかる、その痛々しい姿にアンナリーナは思わず目を背けた。
頬はこけ、目は落ち窪み、視線は虚ろ。力ない目がアンナリーナを捉えたが、反応は薄い。
元々細かった手足がさらに細くなっているのが、掛け布の上からでも見て取れる。
「アンソニーさん……」
「あいつらに襲われた時、酷い怪我を負って……何とか命は取り止めたが、嫁が殺されるのを見たせいでずっとこんな状態だ」
「ちょっと診せてね」
素早くベッドに近づくと上掛けを剥ぎ【鑑定】する。
アンソニー(ノーム、雄、精神虚弱)
体力値 158
魔力値 84
スキル
料理
「うん、怪我はもう大丈夫だね。
アンソニーさん、アンソニーさん。
私のこと、わかる?」
ぼんやりとしていた虚ろな目が焦点を結び、アンナリーナを捉えたように見えた。
「リーナ、ちゃん?」
「うん、リーナだよ」
アンソニーの記憶の、楽しかった日々が蘇る。
その中でも、自身の存在を隠すことなく、客であるアンナリーナと過ごした数日間は大切な思い出だ。
「サリーが死んだんだ」
アンソニーの中では、事実は事実として認められているようだ。
これは良い傾向だと言っていい。
「うん、ミハイルさんから聞きました」
「俺、俺……」
「こんな大変なこと、知らずにいてごめんね。
とりあえず、身体の状態を診せてね」
【解析】してみてわかった事は、精神的に弱っている事。
絶食に近い状態で内臓の機能が低下しているが、生命に危険が及ぶような状態ではない事。
傷は完全に塞がり、骨折などの異常はない事がわかった。
アンナリーナは考える。
元々ノームは人型魔獣だ。
彼のことを、この村の人間がどの程度知っていたのかわからないが、女将という緩衝材を喪った彼が、この先この村でどういう風に暮らしていくのか……多分まだ何も、議論さえもなされていないのだろう。
それなら、とアンナリーナは思う。
「ねぇ、アンソニーさん。
もし良ければ……私と従魔契約して、一緒に来ない?」
「従魔契約?」
「そう、このセトもイジも私の従魔なの。もちろん返事を今すぐとは言わないわ。
また、明日か明後日にでも返事を聞きに来るから……」
「行きます!! どうか連れて行って下さい!」
アンソニーの目に、今までなかった生命力が宿り、上体を起こした手が力強く敷布を握っている。
あの襲撃以来、初めての様子にミハイルも目を見張った。
その時のアンソニーの頭の中では、ただ単に惨劇のあった村から逃げ出したいのか、ミハイルの世話になり続けることが彼と自分自身にとって負担になることを厭うたのかはわからない。
だが、生きる屍のようになっていたアンソニーに生きる力を与えたのは、間違いなくアンナリーナの言葉だった。
「本当にいいの?」
「はい、もう決心したんです。
ただひとつお願いがあるんです」
「なあに?」
「あの、サリーとお別れを……
墓参りに行きたいのです」
「もちろんよ!
ミハイルさん、案内をお願いできる?」
あたりが薄暗くなる頃、ミハイルの案内でアンナリーナとセト、そしてアンソニーを抱いたイジが、粗末な、名前だけを刻んだ墓を前にしていた。
地面に下され、萎えた脚で必死に立ち上がったアンソニーはその墓標に触れ、涙する。
「サリー、ごめんね。
僕はリーナさんと一緒に行くよ」
アンソニーには、この先この村に、自分の居場所がない事をよくわかっていたのだ。
大柄な二人は窮屈そうに身体を屈め、アンナリーナに続いた。
入ったところの部屋を通り、さらに奥に向かう。
新しい建物はまだ新しい木の匂いがしているが、一番奥の部屋からは陰鬱な空気が溢れていた。
そっとドアを開けて中を覗くと、薄暗い部屋のベッドに横たわる小さな姿があった。
「あ、アンソニーさん?」
暗がりでもわかる、その痛々しい姿にアンナリーナは思わず目を背けた。
頬はこけ、目は落ち窪み、視線は虚ろ。力ない目がアンナリーナを捉えたが、反応は薄い。
元々細かった手足がさらに細くなっているのが、掛け布の上からでも見て取れる。
「アンソニーさん……」
「あいつらに襲われた時、酷い怪我を負って……何とか命は取り止めたが、嫁が殺されるのを見たせいでずっとこんな状態だ」
「ちょっと診せてね」
素早くベッドに近づくと上掛けを剥ぎ【鑑定】する。
アンソニー(ノーム、雄、精神虚弱)
体力値 158
魔力値 84
スキル
料理
「うん、怪我はもう大丈夫だね。
アンソニーさん、アンソニーさん。
私のこと、わかる?」
ぼんやりとしていた虚ろな目が焦点を結び、アンナリーナを捉えたように見えた。
「リーナ、ちゃん?」
「うん、リーナだよ」
アンソニーの記憶の、楽しかった日々が蘇る。
その中でも、自身の存在を隠すことなく、客であるアンナリーナと過ごした数日間は大切な思い出だ。
「サリーが死んだんだ」
アンソニーの中では、事実は事実として認められているようだ。
これは良い傾向だと言っていい。
「うん、ミハイルさんから聞きました」
「俺、俺……」
「こんな大変なこと、知らずにいてごめんね。
とりあえず、身体の状態を診せてね」
【解析】してみてわかった事は、精神的に弱っている事。
絶食に近い状態で内臓の機能が低下しているが、生命に危険が及ぶような状態ではない事。
傷は完全に塞がり、骨折などの異常はない事がわかった。
アンナリーナは考える。
元々ノームは人型魔獣だ。
彼のことを、この村の人間がどの程度知っていたのかわからないが、女将という緩衝材を喪った彼が、この先この村でどういう風に暮らしていくのか……多分まだ何も、議論さえもなされていないのだろう。
それなら、とアンナリーナは思う。
「ねぇ、アンソニーさん。
もし良ければ……私と従魔契約して、一緒に来ない?」
「従魔契約?」
「そう、このセトもイジも私の従魔なの。もちろん返事を今すぐとは言わないわ。
また、明日か明後日にでも返事を聞きに来るから……」
「行きます!! どうか連れて行って下さい!」
アンソニーの目に、今までなかった生命力が宿り、上体を起こした手が力強く敷布を握っている。
あの襲撃以来、初めての様子にミハイルも目を見張った。
その時のアンソニーの頭の中では、ただ単に惨劇のあった村から逃げ出したいのか、ミハイルの世話になり続けることが彼と自分自身にとって負担になることを厭うたのかはわからない。
だが、生きる屍のようになっていたアンソニーに生きる力を与えたのは、間違いなくアンナリーナの言葉だった。
「本当にいいの?」
「はい、もう決心したんです。
ただひとつお願いがあるんです」
「なあに?」
「あの、サリーとお別れを……
墓参りに行きたいのです」
「もちろんよ!
ミハイルさん、案内をお願いできる?」
あたりが薄暗くなる頃、ミハイルの案内でアンナリーナとセト、そしてアンソニーを抱いたイジが、粗末な、名前だけを刻んだ墓を前にしていた。
地面に下され、萎えた脚で必死に立ち上がったアンソニーはその墓標に触れ、涙する。
「サリー、ごめんね。
僕はリーナさんと一緒に行くよ」
アンソニーには、この先この村に、自分の居場所がない事をよくわかっていたのだ。
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