252 / 577
第四章
12『アレクセイの回復と懐かしい村』
しおりを挟む
朝方になって熱が下がってきたアレクセイは、ようやくまともな睡眠をとることが出来、そのボソボソとした会話で目覚めたのは偶然だった。
小声で話しているのはふたり。
一人は従者であり爺やのイゴール。
そしてもう一人の声は女の子の声で、その事に気づいたアレクセイは、覚醒を深くした。
「……お熱は下がったようですね。
この後、私は一旦部屋に戻ってから授業に出ますが、アレクセイくんは私がお昼に来るまでここで休ませてもらえますか?
その時、異常がなければお部屋に戻ってもらって構いません」
そう言い置いて、アンナリーナが退室していく。
「イゴール……」
「坊っちゃま、お目覚めになりましたか?」
アレクセイが目覚める前に指示されていたように、イゴールが水の入ったコップを手渡す。
上体をゆっくりと起こして一気に水を煽ったアレクセイはまた布団にもぐりこんだ。
「爺、もう少し寝させて」
「はい、はい。ゆっくりとお休み下さいませ」
アレクセイが次に目覚めたのは、学院の昼休みに近い時刻だった。
「坊っちゃま、もうすぐリーナ様がいらっしゃいますよ。
お顔を洗って支度いたしましょう」
リーナがいなければ、この日常の遣り取りも失われてしまったのかもしれないのだ。
イゴールはこのひと時を与えてくれたリーナに、心から感謝する。
「アレクセイくん、調子はどうかな?」
制服のまま、やってきたアンナリーナは【洗浄】と言いながらアレクセイに近づいた。
布団を捲り上げ、寝間着の裾をめくって両足を触診する。
「うん、いい感じに盛り上がってきてる。この様子なら痕も残らずに済みそうだよ」
かなりの範囲で抉られたふくらはぎは、筋肉まで至っていたのだがアンナリーナの上級ポーションのおかげで復元出来た。
「そうだね、もう自分の部屋に戻っていいよ。でも今日は動かさないでね。
でも診察、どうしよう?」
「男子寮には面会用の応接室がございます。そちらではいかがでしょう」
「う~ん」
アンナリーナとしては余計な波風を立てたくない。
「じゃあね、もう一晩だけここで辛抱してもらえるかな?
そのかわり夕食は抜群に美味しいものを用意するね」
アンナリーナの用意する夕食、と言う言葉にアレクセイが反応した。
悪かった顔色も、その頬に朱がさしている。
「昼食の後、この丸薬を飲んでね。
それじゃあ私は午後からの授業の準備があるので、これで」
自室に戻ったアンナリーナは、すぐにキッチンに向かい、夕食のメニューの確認をしていた。
そんななか、ヒトガタでやってきたセトに、問いかけるでもなく言う。
「明日、授業が休講になったの。
せっかくだから久しぶりなところに出かけようと思うんだけど、ついてきてくれる?」
「もちろん。でも主人、一体どこへ?」
「うふふ、懐かしいところだよ」
アンナリーナはとても楽しみにしている。そこには一年ぶりだが、森から出て来て何もわからないアンナリーナに親切にしてくれた、大切な友達がいる。
翌朝、まだ陽も明けきらぬ刻限に、アンナリーナは身支度を整えツリーハウスに向かった。
今日、供をするのは、防具を着け得物を佩いだセトとイジだ。
「今日はここから転移するね。
久しぶりだな~ミハイルさん、元気かな」
約一年ぶりに使う、村の畑に隣接した森の中に設置していた転移点に現れた3人は、警戒しながらも森から走り出た。
「?」
何がおかしいのかもわからない、かすかに感じる違和感。
「なんだろう……何か変?」
この村の住民はほとんどが農民の筈だ。
だが、もう陽が昇った時間帯だというのにひとっこひとり見当たらない。
心なしか畑も荒れているように思える。
思わず隣のセトの手を、強く握りしめた。
そして感じていた異常を臭覚で捉え、それが目に飛び込んできた時、アンナリーナは悲鳴を抑えられなかった。
小声で話しているのはふたり。
一人は従者であり爺やのイゴール。
そしてもう一人の声は女の子の声で、その事に気づいたアレクセイは、覚醒を深くした。
「……お熱は下がったようですね。
この後、私は一旦部屋に戻ってから授業に出ますが、アレクセイくんは私がお昼に来るまでここで休ませてもらえますか?
その時、異常がなければお部屋に戻ってもらって構いません」
そう言い置いて、アンナリーナが退室していく。
「イゴール……」
「坊っちゃま、お目覚めになりましたか?」
アレクセイが目覚める前に指示されていたように、イゴールが水の入ったコップを手渡す。
上体をゆっくりと起こして一気に水を煽ったアレクセイはまた布団にもぐりこんだ。
「爺、もう少し寝させて」
「はい、はい。ゆっくりとお休み下さいませ」
アレクセイが次に目覚めたのは、学院の昼休みに近い時刻だった。
「坊っちゃま、もうすぐリーナ様がいらっしゃいますよ。
お顔を洗って支度いたしましょう」
リーナがいなければ、この日常の遣り取りも失われてしまったのかもしれないのだ。
イゴールはこのひと時を与えてくれたリーナに、心から感謝する。
「アレクセイくん、調子はどうかな?」
制服のまま、やってきたアンナリーナは【洗浄】と言いながらアレクセイに近づいた。
布団を捲り上げ、寝間着の裾をめくって両足を触診する。
「うん、いい感じに盛り上がってきてる。この様子なら痕も残らずに済みそうだよ」
かなりの範囲で抉られたふくらはぎは、筋肉まで至っていたのだがアンナリーナの上級ポーションのおかげで復元出来た。
「そうだね、もう自分の部屋に戻っていいよ。でも今日は動かさないでね。
でも診察、どうしよう?」
「男子寮には面会用の応接室がございます。そちらではいかがでしょう」
「う~ん」
アンナリーナとしては余計な波風を立てたくない。
「じゃあね、もう一晩だけここで辛抱してもらえるかな?
そのかわり夕食は抜群に美味しいものを用意するね」
アンナリーナの用意する夕食、と言う言葉にアレクセイが反応した。
悪かった顔色も、その頬に朱がさしている。
「昼食の後、この丸薬を飲んでね。
それじゃあ私は午後からの授業の準備があるので、これで」
自室に戻ったアンナリーナは、すぐにキッチンに向かい、夕食のメニューの確認をしていた。
そんななか、ヒトガタでやってきたセトに、問いかけるでもなく言う。
「明日、授業が休講になったの。
せっかくだから久しぶりなところに出かけようと思うんだけど、ついてきてくれる?」
「もちろん。でも主人、一体どこへ?」
「うふふ、懐かしいところだよ」
アンナリーナはとても楽しみにしている。そこには一年ぶりだが、森から出て来て何もわからないアンナリーナに親切にしてくれた、大切な友達がいる。
翌朝、まだ陽も明けきらぬ刻限に、アンナリーナは身支度を整えツリーハウスに向かった。
今日、供をするのは、防具を着け得物を佩いだセトとイジだ。
「今日はここから転移するね。
久しぶりだな~ミハイルさん、元気かな」
約一年ぶりに使う、村の畑に隣接した森の中に設置していた転移点に現れた3人は、警戒しながらも森から走り出た。
「?」
何がおかしいのかもわからない、かすかに感じる違和感。
「なんだろう……何か変?」
この村の住民はほとんどが農民の筈だ。
だが、もう陽が昇った時間帯だというのにひとっこひとり見当たらない。
心なしか畑も荒れているように思える。
思わず隣のセトの手を、強く握りしめた。
そして感じていた異常を臭覚で捉え、それが目に飛び込んできた時、アンナリーナは悲鳴を抑えられなかった。
2
お気に入りに追加
611
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
碓氷唯
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる